31 / 32
30 幸せな結末
しおりを挟む
「レオン、も……もう無理」
「全然足りないよ。俺の愛は何年分だと思ってるの?レベッカ……好き……愛してる」
今も後ろから抱き締められてちゅっ、ちゅと首筋にキスをされている。
「可愛い」
――まずいまずいまずい。
この流れに身を任せたら、きっと取り返しのつかないことになってしまう。
正直、彼の若さを舐めていた。五歳年下でまだ十代のレオンは、色んな意味でとても元気だった。
「む、無理です」
「うん、俺ももう無理。レベッカが可愛すぎて限界だよ。愛してる」
いやいや、私の無理とレオンの無理は意味合いが違う。なんて考えていたら、結局そのまま思う存分愛される羽目になった。
「沢山酒を飲んだら愛せなくなるぞ、って披露宴で団長が脅すから心配したけど全然問題なかった!俺またあの人に揶揄われたのかも」
レオンはサラリとそんなことを言って、ぐったりとベッドに沈み込んでいる私の髪を嬉しそうに撫でて遊んでいる。
――なるほど、あの時そんな会話をしていたのか。だから急に飲まなくなったのか。
「……レオンは若いですね」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
男性のそういう事情に詳しくはないけれどきっと大丈夫だったのは、レオンの年齢のせいだろう。
「団長に大丈夫だったなんて報告してはいけませんよ」
「……?」
レオンは首を傾げているが、そんなことを言われたら絶対にしばらくニヤニヤして「若い旦那の相手は大変だな」なんて言ってくるに違いないから。
♢♢♢
結婚祝いで貰える三日間のお休みは、毎日レオンの愛を一身に受け続けることになった。
気持ちがいいけど、死ぬ程恥ずかしい……だけど本気で嫌ではない自分に戸惑っていた。だって彼の愛を感じることができるのだから。
「レベッカ、可愛い。何度愛し合っても毎回照れるんだね」
彼だってつい数日前まで初めてだったはずなのに、もうすっかりと慣れた様子だ。彼は大人の階段を駆け上がってしまったようだ。それが少し悔しい。
「あー、仕事行きたくない。ずっとレベッカとこうしてたい」
「……だめ。しっかり稼いできてくださいませ」
冗談でそう言った私に一瞬キョトンとした後に、彼はあははと大声で笑い出した。
「あはは……そうだね。よし、しっかり稼いで愛する奥さんを幸せにしないとね」
「ソウデスヨ」
毎日こんなことをされては、私は立ち上がれなくなってしまうではないか。
「ふっ、なんかレベッカのためだと思ったらやる気が出てきた」
なんて言って、急に元気を取り戻した。私も明日から仕事に戻ることになっている。
「レベッカ、お互い仕事してるんだし無理はしないでおこう。朝は交代で作って、夜は食堂やレストランで食べて帰ったっていいしさ」
「そうね、ありがとう」
「洗濯も手伝うけど……大変だったら通いで使用人雇ってもいいし、セルヴァン家から何人か定期的に来てもらってもいいし。なんとでもなるから」
「はい。必要な時は相談しますね」
それからは二人で小さな失敗を重ねながらも、成長していき数ヶ月後には立派に生活ができるようになっていた。
大変なこともあるけれど、レオンと二人の生活はとても充実している。
「ただいま」
今日は遠征から彼が数日ぶりに帰ってくる日だ。寂しさを埋めるために、しっかりと時間をかけて煮込んだシチューはお肉がトロトロになっていて食べ頃になっている。
「おかえりなさい」
私が玄関まで出迎えると、嬉しそうに微笑んでギュッと抱き締めた。
「レベッカ、逢いたかった。数日顔が見れないだけで辛いよ。何度テレポーテーションでここに帰ってこようかと思ったことか」
任務中は、私用での魔力消費は御法度とされている。いつ魔物が現れるかわからない中で、力を蓄えておく必要があるからだ。
「そんなことバレたら団長に怒られて、絞められますよ」
「レベッカの顔が見れるなら、それくらいなんてことない」
「だめです」
そりゃあ私だって逢いたいに決まってるが、決まりは決まりだ。真面目だ何だといわれても、私だって魔法省の人間なので規則を破れとは言えない。
「……君がそう言うと思って我慢した。だからご褒美欲しいな」
甘えるようにちゅっと唇を吸われたが、私は心を鬼にしてグッと胸を押し返した。
「シ、シチューができていますよ。さあ、一緒に食べましょう」
「俺はレベッカの方が先に食べたい」
彼は私をうるうるとした瞳で見つめて、甘えるような仕草を見せた。ゔっ……だめだめ。これに騙されてはだめなのだ。
「お肉トロトロですよ?私が頑張って煮込んだレオンの好きなビーフシチューです。フカフカのパンもあります」
するとレオンのお腹がグゥーと鳴った。慌ててお腹を押さえているが、しっかりと聞こえた。
「……シチュー食べたい」
よし!私はだんだんレオンの扱い方がわかってきた。私が勝ち誇った顔をしていると、彼はくすりと笑った。
「甘いデザートは最後のほうがいいもんね」
「デザート?」
「俺の大好きなうんと甘いレベッカ。シチュー以上に楽しみだからさ」
パチン、とウィンクをして色っぽく微笑んだ彼を見て……やっとその意味に気がついて真っ赤に頬が染まった。
「美味いっ!レベッカ天才」
二人でシチューを食べて、逢えなかった数日分の話を沢山した。そして、シャワーを浴びたら……お待ちかねのデザートタイムだ。
「レベッカ、おいで」
私を甘く呼ぶ声に引き寄せられるように、彼の胸の中にすっぽりと収まる。ポカポカしてとても安心する。
「髪伸びたね」
レオンは私の髪を触りながら、愛おしそうに目を細めた。
「ええ。今まで伸びなかったから、なんだか切るのが勿体ない気がして」
もう私の髪を切っても能力は発動しないのはわかっている。だけど切る習慣のなかった私は、そのタイミングを失っていた。
「レオンはどれくらいの髪の長さが好きなの?」
この国では一般的には女性の髪は長い方が美しいとされている。しかしそう聞かれた彼は、キョトンとした顔をした。
「それは考えたこともなかったな」
「そうなの?」
「だって、俺は十歳の時からレベッカしか好きじゃなかったから。短かい髪のレベッカも、長い髪のレベッカも大好き」
「……っ!?」
私はたぶん今顔が真っ赤になっていると思う。彼のストレートな言葉は、とても嬉しいが恥ずかしい。
「どんな君も愛してる」
そのままゆっくりと押し倒されて、ペロリと首を舐められた。
「君はどんなスイーツよりも甘くて美味しい」
そう微笑んで、レオンは思う存分……最後までデザートを楽しんだ。
♢♢♢
髪は女の命と言うけれど、私は長く伸ばした髪をバッサリと切った。なぜなら、もうすぐ新しい命が産まれるから。
あまりに長い髪は手入れが大変なので、いい機会だと思ったのだ。
「魔法省で再会した時くらいの長さに戻ったね。なんだか懐かしいな。とてもよく似合ってるよ」
レオンさんは私を見てそう褒めてくれた。何年経っても彼からの愛情は尽きることがない。
「早く逢いたいな。元気に産まれておいで」
最近レオンは毎日私のお腹を撫でて、すりすりと顔を寄せている。とても幸せな時間だ。
そしてついに……可愛い息子が産まれた。顔は彼にそっくりだが、髪と瞳の色は私と同じだ。名前はエイデンに決めた。
「ああ、いつ見てもエイデンは可愛いな」
彼は仕事から帰ってくると、しばらくベビーベッドを覗き込んでデレデレと息子を眺めるのが日課になっていた。エイデンはすやすやと眠りについている。
「さっきやっと寝たのよ」
「そうか。疲れただろ?ゆっくりしてくれ」
「ありがとう」
彼は私を労い、頬にキスをしてくれた。子育ては大変なので、最近は週に何度かセルヴァン家から使用人が助けに来てくれて助かっている。
「ようやく頼ってくれたわね」
私が申し訳ないと謝るとお義母様はニコリと微笑み、むしろ喜んで手を貸してくださっているので有難い。
とても大変で忙しいが、幸せな毎日を過ごしている。レオンの仕事も相変わらず絶好調で、今や大きな隊をまとめる隊長として任務をこなしている。団長からは『早くここまで上がってきて、俺に楽させろ』と言われているらしい。
私は子育てのために、事務員は休職中だ。だけど落ち着いたらまた仕事に戻る予定をしている。
そしてレオンは相変わらず私を愛してくれている。休みの日はエイデンの面倒も積極的に見てくれるし、私を存分に甘やかしてくれている。夫としても父親としても彼はとても頼もしくなった。
「レベッカ、おいで」
彼は色っぽく微笑み、私を手招きして抱き寄せてくれた。付き合っていた頃は、私に甘えていたレオンだが今はすっかり私が甘えている気がする。これではもうどちらが年上かわからない。
「愛してる」
「……私も」
「私も何?」
彼は悪戯っぽく微笑みながら私を覗き込んで、その続きを促した。絶対にわかっているくせに意地悪だ。
「愛してるわ」
悔しい私は彼のシャツを引っ張って、強引に口付けた。少し驚いた顔をした後、嬉しそうに笑った。
「俺はきっとレベッカには一生敵わないな」
そう言って、私をゆっくりとベッドの中に引き寄せ甘く蕩けるキスをした。
「言葉じゃ足りないから、この愛を伝えさせて」
「んっ……」
「レベッカ、可愛い。愛してる」
長く生きるのは無理だと半ば諦めて過ごしていたあの時の自分に教えてあげたい。あなたは『愛する人と幸せになる』から安心して、と。
私には魔法も特別な力もないけれど、レオンを愛する気持ちだけは誰にも負けないと胸を張って言える。
仲の良い私達は四人も子宝に恵まれて、手狭になった我が家も結局大きな家に建て替えることになった。レオンは三十五歳の時に最年少で魔法省の団長に任命された。それから月日が経って子ども達もそれぞれ結婚して、孫ができて……私と彼は二人で幸せを噛み締めながら、ゆっくり歳をとっていった。
人生の節目節目で、不死鳥も私達を空から見守ってくれてくれた。
♢♢♢
「私、あなたと結婚して本当に幸せだったわ。思い残すこと……何もないの」
「ああ、俺もだよ」
「向こうで待ってる……あなたはゆっくり来て」
「……すぐ行くよ。君が天国で他の男に声をかけられちゃ困るからね」
こんな歳になってまだそんなことを言う彼に笑ってしまう。もう私はお婆ちゃんなのに。
「ふふっ……馬鹿ね。わたし……レオンしか……愛せないわ」
「愛してるよ。レベッカは俺の人生の全てだった。本当にありがとう」
彼の優しい口付けを最後に私は眠るように天国へと旅立った。愛する沢山の家族に見送られながら幸せな最後だった。
私は死んでしまってからはなぜか彼と再会した頃の若々しい姿に戻っていた。約束通り天国の門で待っていると、少し拗ねた顔のまだあどけなさの残るレオンが現れた。
「レベッカ、酷いな。俺を置いて先に逝くなんて」
「ごめんなさい、でもあなたより五年も先に生まれたんだもの。仕方がないわ」
私は優しく頭を撫でて、彼を慰めた。すると彼は嬉しそうに微笑んですりすりと甘えるように頬を寄せた。
「……天使の輪ができてる」
「ふふ、そうなの!美しく艶のある黒髪に戻ったから。やっぱり髪は女の命だもの。素敵でしょう?」
「ああ、綺麗だ。でも俺は白い髪の君も好きだったけどね」
レオンはそんなことを言いながら愛おしそうに、私の髪をさらりと撫でた後に優しいキスをした。
「……俺も自分の役目をちゃんと終えてきたよ。最期は子どもや孫に見送られて嬉しかった。だけど君がいない世界はもう懲り懲りだ。君が俺の幸せなんだから」
私達は微笑みながら手を繋いで、天国の扉をそっと開いた。
「愛してる。これからはずっと一緒だ」
「はい」
髪は女の命と言いますが……それよりも大事なものを見つけられた私は本当に幸せだ。
END
「全然足りないよ。俺の愛は何年分だと思ってるの?レベッカ……好き……愛してる」
今も後ろから抱き締められてちゅっ、ちゅと首筋にキスをされている。
「可愛い」
――まずいまずいまずい。
この流れに身を任せたら、きっと取り返しのつかないことになってしまう。
正直、彼の若さを舐めていた。五歳年下でまだ十代のレオンは、色んな意味でとても元気だった。
「む、無理です」
「うん、俺ももう無理。レベッカが可愛すぎて限界だよ。愛してる」
いやいや、私の無理とレオンの無理は意味合いが違う。なんて考えていたら、結局そのまま思う存分愛される羽目になった。
「沢山酒を飲んだら愛せなくなるぞ、って披露宴で団長が脅すから心配したけど全然問題なかった!俺またあの人に揶揄われたのかも」
レオンはサラリとそんなことを言って、ぐったりとベッドに沈み込んでいる私の髪を嬉しそうに撫でて遊んでいる。
――なるほど、あの時そんな会話をしていたのか。だから急に飲まなくなったのか。
「……レオンは若いですね」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
男性のそういう事情に詳しくはないけれどきっと大丈夫だったのは、レオンの年齢のせいだろう。
「団長に大丈夫だったなんて報告してはいけませんよ」
「……?」
レオンは首を傾げているが、そんなことを言われたら絶対にしばらくニヤニヤして「若い旦那の相手は大変だな」なんて言ってくるに違いないから。
♢♢♢
結婚祝いで貰える三日間のお休みは、毎日レオンの愛を一身に受け続けることになった。
気持ちがいいけど、死ぬ程恥ずかしい……だけど本気で嫌ではない自分に戸惑っていた。だって彼の愛を感じることができるのだから。
「レベッカ、可愛い。何度愛し合っても毎回照れるんだね」
彼だってつい数日前まで初めてだったはずなのに、もうすっかりと慣れた様子だ。彼は大人の階段を駆け上がってしまったようだ。それが少し悔しい。
「あー、仕事行きたくない。ずっとレベッカとこうしてたい」
「……だめ。しっかり稼いできてくださいませ」
冗談でそう言った私に一瞬キョトンとした後に、彼はあははと大声で笑い出した。
「あはは……そうだね。よし、しっかり稼いで愛する奥さんを幸せにしないとね」
「ソウデスヨ」
毎日こんなことをされては、私は立ち上がれなくなってしまうではないか。
「ふっ、なんかレベッカのためだと思ったらやる気が出てきた」
なんて言って、急に元気を取り戻した。私も明日から仕事に戻ることになっている。
「レベッカ、お互い仕事してるんだし無理はしないでおこう。朝は交代で作って、夜は食堂やレストランで食べて帰ったっていいしさ」
「そうね、ありがとう」
「洗濯も手伝うけど……大変だったら通いで使用人雇ってもいいし、セルヴァン家から何人か定期的に来てもらってもいいし。なんとでもなるから」
「はい。必要な時は相談しますね」
それからは二人で小さな失敗を重ねながらも、成長していき数ヶ月後には立派に生活ができるようになっていた。
大変なこともあるけれど、レオンと二人の生活はとても充実している。
「ただいま」
今日は遠征から彼が数日ぶりに帰ってくる日だ。寂しさを埋めるために、しっかりと時間をかけて煮込んだシチューはお肉がトロトロになっていて食べ頃になっている。
「おかえりなさい」
私が玄関まで出迎えると、嬉しそうに微笑んでギュッと抱き締めた。
「レベッカ、逢いたかった。数日顔が見れないだけで辛いよ。何度テレポーテーションでここに帰ってこようかと思ったことか」
任務中は、私用での魔力消費は御法度とされている。いつ魔物が現れるかわからない中で、力を蓄えておく必要があるからだ。
「そんなことバレたら団長に怒られて、絞められますよ」
「レベッカの顔が見れるなら、それくらいなんてことない」
「だめです」
そりゃあ私だって逢いたいに決まってるが、決まりは決まりだ。真面目だ何だといわれても、私だって魔法省の人間なので規則を破れとは言えない。
「……君がそう言うと思って我慢した。だからご褒美欲しいな」
甘えるようにちゅっと唇を吸われたが、私は心を鬼にしてグッと胸を押し返した。
「シ、シチューができていますよ。さあ、一緒に食べましょう」
「俺はレベッカの方が先に食べたい」
彼は私をうるうるとした瞳で見つめて、甘えるような仕草を見せた。ゔっ……だめだめ。これに騙されてはだめなのだ。
「お肉トロトロですよ?私が頑張って煮込んだレオンの好きなビーフシチューです。フカフカのパンもあります」
するとレオンのお腹がグゥーと鳴った。慌ててお腹を押さえているが、しっかりと聞こえた。
「……シチュー食べたい」
よし!私はだんだんレオンの扱い方がわかってきた。私が勝ち誇った顔をしていると、彼はくすりと笑った。
「甘いデザートは最後のほうがいいもんね」
「デザート?」
「俺の大好きなうんと甘いレベッカ。シチュー以上に楽しみだからさ」
パチン、とウィンクをして色っぽく微笑んだ彼を見て……やっとその意味に気がついて真っ赤に頬が染まった。
「美味いっ!レベッカ天才」
二人でシチューを食べて、逢えなかった数日分の話を沢山した。そして、シャワーを浴びたら……お待ちかねのデザートタイムだ。
「レベッカ、おいで」
私を甘く呼ぶ声に引き寄せられるように、彼の胸の中にすっぽりと収まる。ポカポカしてとても安心する。
「髪伸びたね」
レオンは私の髪を触りながら、愛おしそうに目を細めた。
「ええ。今まで伸びなかったから、なんだか切るのが勿体ない気がして」
もう私の髪を切っても能力は発動しないのはわかっている。だけど切る習慣のなかった私は、そのタイミングを失っていた。
「レオンはどれくらいの髪の長さが好きなの?」
この国では一般的には女性の髪は長い方が美しいとされている。しかしそう聞かれた彼は、キョトンとした顔をした。
「それは考えたこともなかったな」
「そうなの?」
「だって、俺は十歳の時からレベッカしか好きじゃなかったから。短かい髪のレベッカも、長い髪のレベッカも大好き」
「……っ!?」
私はたぶん今顔が真っ赤になっていると思う。彼のストレートな言葉は、とても嬉しいが恥ずかしい。
「どんな君も愛してる」
そのままゆっくりと押し倒されて、ペロリと首を舐められた。
「君はどんなスイーツよりも甘くて美味しい」
そう微笑んで、レオンは思う存分……最後までデザートを楽しんだ。
♢♢♢
髪は女の命と言うけれど、私は長く伸ばした髪をバッサリと切った。なぜなら、もうすぐ新しい命が産まれるから。
あまりに長い髪は手入れが大変なので、いい機会だと思ったのだ。
「魔法省で再会した時くらいの長さに戻ったね。なんだか懐かしいな。とてもよく似合ってるよ」
レオンさんは私を見てそう褒めてくれた。何年経っても彼からの愛情は尽きることがない。
「早く逢いたいな。元気に産まれておいで」
最近レオンは毎日私のお腹を撫でて、すりすりと顔を寄せている。とても幸せな時間だ。
そしてついに……可愛い息子が産まれた。顔は彼にそっくりだが、髪と瞳の色は私と同じだ。名前はエイデンに決めた。
「ああ、いつ見てもエイデンは可愛いな」
彼は仕事から帰ってくると、しばらくベビーベッドを覗き込んでデレデレと息子を眺めるのが日課になっていた。エイデンはすやすやと眠りについている。
「さっきやっと寝たのよ」
「そうか。疲れただろ?ゆっくりしてくれ」
「ありがとう」
彼は私を労い、頬にキスをしてくれた。子育ては大変なので、最近は週に何度かセルヴァン家から使用人が助けに来てくれて助かっている。
「ようやく頼ってくれたわね」
私が申し訳ないと謝るとお義母様はニコリと微笑み、むしろ喜んで手を貸してくださっているので有難い。
とても大変で忙しいが、幸せな毎日を過ごしている。レオンの仕事も相変わらず絶好調で、今や大きな隊をまとめる隊長として任務をこなしている。団長からは『早くここまで上がってきて、俺に楽させろ』と言われているらしい。
私は子育てのために、事務員は休職中だ。だけど落ち着いたらまた仕事に戻る予定をしている。
そしてレオンは相変わらず私を愛してくれている。休みの日はエイデンの面倒も積極的に見てくれるし、私を存分に甘やかしてくれている。夫としても父親としても彼はとても頼もしくなった。
「レベッカ、おいで」
彼は色っぽく微笑み、私を手招きして抱き寄せてくれた。付き合っていた頃は、私に甘えていたレオンだが今はすっかり私が甘えている気がする。これではもうどちらが年上かわからない。
「愛してる」
「……私も」
「私も何?」
彼は悪戯っぽく微笑みながら私を覗き込んで、その続きを促した。絶対にわかっているくせに意地悪だ。
「愛してるわ」
悔しい私は彼のシャツを引っ張って、強引に口付けた。少し驚いた顔をした後、嬉しそうに笑った。
「俺はきっとレベッカには一生敵わないな」
そう言って、私をゆっくりとベッドの中に引き寄せ甘く蕩けるキスをした。
「言葉じゃ足りないから、この愛を伝えさせて」
「んっ……」
「レベッカ、可愛い。愛してる」
長く生きるのは無理だと半ば諦めて過ごしていたあの時の自分に教えてあげたい。あなたは『愛する人と幸せになる』から安心して、と。
私には魔法も特別な力もないけれど、レオンを愛する気持ちだけは誰にも負けないと胸を張って言える。
仲の良い私達は四人も子宝に恵まれて、手狭になった我が家も結局大きな家に建て替えることになった。レオンは三十五歳の時に最年少で魔法省の団長に任命された。それから月日が経って子ども達もそれぞれ結婚して、孫ができて……私と彼は二人で幸せを噛み締めながら、ゆっくり歳をとっていった。
人生の節目節目で、不死鳥も私達を空から見守ってくれてくれた。
♢♢♢
「私、あなたと結婚して本当に幸せだったわ。思い残すこと……何もないの」
「ああ、俺もだよ」
「向こうで待ってる……あなたはゆっくり来て」
「……すぐ行くよ。君が天国で他の男に声をかけられちゃ困るからね」
こんな歳になってまだそんなことを言う彼に笑ってしまう。もう私はお婆ちゃんなのに。
「ふふっ……馬鹿ね。わたし……レオンしか……愛せないわ」
「愛してるよ。レベッカは俺の人生の全てだった。本当にありがとう」
彼の優しい口付けを最後に私は眠るように天国へと旅立った。愛する沢山の家族に見送られながら幸せな最後だった。
私は死んでしまってからはなぜか彼と再会した頃の若々しい姿に戻っていた。約束通り天国の門で待っていると、少し拗ねた顔のまだあどけなさの残るレオンが現れた。
「レベッカ、酷いな。俺を置いて先に逝くなんて」
「ごめんなさい、でもあなたより五年も先に生まれたんだもの。仕方がないわ」
私は優しく頭を撫でて、彼を慰めた。すると彼は嬉しそうに微笑んですりすりと甘えるように頬を寄せた。
「……天使の輪ができてる」
「ふふ、そうなの!美しく艶のある黒髪に戻ったから。やっぱり髪は女の命だもの。素敵でしょう?」
「ああ、綺麗だ。でも俺は白い髪の君も好きだったけどね」
レオンはそんなことを言いながら愛おしそうに、私の髪をさらりと撫でた後に優しいキスをした。
「……俺も自分の役目をちゃんと終えてきたよ。最期は子どもや孫に見送られて嬉しかった。だけど君がいない世界はもう懲り懲りだ。君が俺の幸せなんだから」
私達は微笑みながら手を繋いで、天国の扉をそっと開いた。
「愛してる。これからはずっと一緒だ」
「はい」
髪は女の命と言いますが……それよりも大事なものを見つけられた私は本当に幸せだ。
END
11
あなたにおすすめの小説
もふもふグリフォンの旦那様に溺愛されています
さら
恋愛
無能だと罵られ、聖女候補から追放されたリリア。
行き場を失い森を彷徨っていた彼女を救ったのは――翼を広げる巨大なグリフォンだった。
人の姿をとれば美丈夫、そして彼は自らを「旦那様」と名乗り、リリアを過保護に溺愛する。
森での穏やかな日々、母の故郷との再会、妹や元婚約者との因縁、そして国を覆う“影の徒”との決戦。
「伴侶よ、風と共に生きろ。おまえを二度と失わせはしない」
追放から始まった少女の物語は、
もふもふ旦那様の翼に包まれて――愛と祈りが国を救う、大団円へ。
「幼馴染は、安心できる人で――独占する人でした」
だって、これも愛なの。
恋愛
幼い頃の無邪気な一言。
「お兄様みたいな人が好き」――その言葉を信じ続け、彼はずっと優しく隣にいてくれた。
エリナにとってレオンは、安心できる幼馴染。
いつも柔らかく笑い、困ったときには「無理しなくていい」と支えてくれる存在だった。
けれど、他の誰かの影が差し込んだ瞬間、彼の奥に潜む本音が溢れ出す。
「俺は譲らないよ。誰にも渡さない」
優しいだけじゃない。
安心と独占欲――その落差に揺さぶられて、エリナの胸は恋に気づいていく。
安心できる人が、唯一の人になるまで。
甘く切ない幼馴染ラブストーリー。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
殿下、毒殺はお断りいたします
石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。
彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。
容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。
彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。
「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
秋月一花
恋愛
旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。
「君の力を借りたい」
あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。
そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。
こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。
目的はたったひとつ。
――王妃イレインから、すべてを奪うこと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる