そう言うと思ってた

mios

文字の大きさ
2 / 30

男爵令嬢は喜んだ

しおりを挟む
アナスタシアは捨てた男のことなどすっかり忘れて、目の前の第三王子の顔に溜息を吐く。見れば見るほど美しく綺麗な顔を持つ第三王子は、正直第一、第二王子よりもアナスタシアの好みだった。

元々、アナスタシアはアランを狙っていたわけではなく、この男を狙っていた。自分を引き取った男爵だって元から第三王子を狙えとしか言っていなかった。だが、勝手にアランがアナスタシアに熱を上げ、付き纏うようになって、所謂金蔓として、または都合の良い男として、側に置いていただけだ。

アナスタシアは茶を飲みながら不思議に思っていた。ついこの前までは甘すぎるぐらいに彼女を溺愛していた彼が、少し淡白になったような気がする。

「君を大切にしたいから。」と言ってニコニコしながら、甘い雰囲気を出してはいるから気にすることではないのかもしれない。

彼女が今いるのは第三王子から彼女に与えられた部屋だ。王宮内は広いので正確な場所はわからないが、第三王子曰く、以前は陛下の寵姫が使っていたという。陛下には王妃以外に妃はいないと思っていたが、彼の口ぶりから察するに、それは対外向けの嘘なのだと思われた。

「ここには私以外の者は立ち寄れないことになっている。安心してのんびりするといい。何か要望があれば、彼女に伝えてくれ。」

第三王子の視線の先には侍女の姿。男爵家にいる侍女とは、全く違う、プロの中のプロ、と言った様子の彼女達は、男爵家の庶子のアナスタシアにも、やりすぎなぐらいに丁寧に接してくれた。

ヴィクトールの周りの男達はアナスタシアを見てもニコリともしない。さすが訓練されていると思うが、今まで自分に無関心な男など側にいなかったせいか、アナスタシアのプライドは少し傷ついた。

それでも、第三王子を完全に堕とすまでは味見をしてはならないと、彼女にもわかっている。

自分が妃になればいくらでも可愛がってやるわ、とアナスタシアは考えていた。

彼女を侍女らに任せた第三王子ヴィクトールは、執務室に向かう。

アナスタシアの香水の残り香のついた上着を執務室の手前で脱ぎ、新しい物に着替えると、顔を顰めた。

「あの甘ったるい香水はやめさせるべきだな。」

側近達も同意する。安物の香水の匂いは、不快なものだった。



室内にはすでに客が座っていた。

ヴィクトールを見て立ち上がり、挨拶をする彼女に、さっきとは違い心からの笑顔を見せる第三王子。彼の周りの者はその様子に微笑んだ。




「よく来てくれた。順調か?」
侯爵令嬢のカリナ・クィールは、一ヶ月程領地へ赴き、色々と忙しく過ごしてきた。

「ええ、お陰様で。上々です。」
「やはり、彼はまだ?」
「ええ、何も気づいておりませんわ。今更気づいたところで、すでに作業は完了しておりますのでどうにもなりません。」

カリナが公爵夫妻に頼まれたのは、アランのことではなく、公爵領をどうにか立て直すこと。

アランは公爵領を引き継ぐ人物だった為に、婚約者として彼を立てていたが、最近の彼の行動に、カリナは彼に公爵領を任せることを諦めていた。

カリナは政略結婚の為、特にアランに対して恨みを抱くことはない。別に相手がいるならば彼女と婚姻した後に愛人として囲うならばそれも良いと思っていた。

だが、相手は選んで貰いたかった。

アナスタシアには色々と問題があった。それはアランのせいではないけれど。その問題のせいで、こうなってしまったのだから、アランはつくづく運がないと言える。

「それで、彼女は?」
「気分よく過ごしているよ。本当に助かった。君にはすごく感謝している。褒美を考えておいてくれ。」



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。 少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。 そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。 そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。 人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。 ☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。 王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。 王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。 ☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。 作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。 ☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。) ☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。 ★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。

存在感と取り柄のない私のことを必要ないと思っている人は、母だけではないはずです。でも、兄たちに大事にされているのに気づきませんでした

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれた5人兄弟の真ん中に生まれたルクレツィア・オルランディ。彼女は、存在感と取り柄がないことが悩みの女の子だった。 そんなルクレツィアを必要ないと思っているのは母だけで、父と他の兄弟姉妹は全くそんなことを思っていないのを勘違いして、すれ違い続けることになるとは、誰も思いもしなかった。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります

柚木ゆず
恋愛
 婚約者様へ。  昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。  そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

我慢しないことにした結果

宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

私から婚約者を奪うことに成功した姉が、婚約を解消されたと思っていたことに驚かされましたが、厄介なのは姉だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
ジャクリーン・オールストンは、婚約していた子息がジャクリーンの姉に一目惚れしたからという理由で婚約を解消することになったのだが、そうなった原因の贈られて来たドレスを姉が欲しかったからだと思っていたが、勘違いと誤解とすれ違いがあったからのようです。 でも、それを全く認めない姉の口癖にもうんざりしていたが、それ以上にうんざりしている人がジャクリーンにはいた。

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

処理中です...