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公爵令息は捨てられた
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読み終わった手紙を握りつぶし、アランは長い長い溜息を吐く。アナスタシアは魅力的な女だ。男爵家の庶子であり貴族に染まっていないからこその幼子のような魅力。それに男を誑し込む天性の娼婦のような魅力が彼女には備わっている。
貞淑であれ、と昔から教育されている婚約者とは違い、天真爛漫なアナスタシアをアランはすぐに好きになった。
アナスタシアとは一度キスをしただけだ。一線を越えることは如何に愛してはいるとはいえ、婚姻前にすることは許されない。アランは腐っても公爵令息だ。不貞などを犯している時点で模範も何も無いが、アランは皆の模範になるようにと、教育されてきたが故の行動だった。
アナスタシアからの手紙には、公爵令息よりも高位の第三王子から愛を請われて受けざるを得なかったということが書いてあった。第三王子は、第一、第二王子とは違い粗暴で愛想がなく、交流は全くない。
男爵令嬢の身では第三でも王子の申し出を断れないことは誰にでもわかる。
ただアランはこの手紙で、アナスタシアの本音に気がついていた。彼女がアランを慕っている素振りを見せていたのはアランが公爵令息だから。そして第三王子に鞍替えしたために、アランは捨てられたのだと言うことを。
アランは呆然としながらもどこかで彼女がこんなことを言い出すのでは無いか、と思っていたフシがある。
「そう言うと思ってた。」
アナスタシアがここにいれば、そう言って彼女に一矢報いることができたかもしれない。だけど、単なる負け犬の遠吠えだ。
アランはくしゃくしゃになった手紙を暖炉に投げ込むと出かける準備をした。
こうなって思い出すのは、婚約者のカリナのことだ。アナスタシアに夢中になっている間もずっとカリナはアランを愛し待っていてくれた。
虫が良い話だが、今後はカリナにたくさん尽くし愛してやろう、とアランはウキウキした気持ちでいた。
アランはふと、最近屋敷の使用人が様変わりしたことに気がついた。
新しい使用人が増えた気がして、それでもそう言う時期なのだろう、と深く考えることはしなかった。
アランはカリナを放置していたことを謝り、甘い言葉でも吐けば、カリナは自分を許してくれるだろうと思っていた。だってそれが貞淑な女というものだから。
アランは気がつかなかった。新しい使用人達には気がついても、彼らがアランを見る目にどんな感情が隠れているかを全く理解していなかったことに。
侯爵家に先触れを出すのは忘れたのは何か意図があってのことではない。単に忘れていたからだが、それでもカリナは目が覚めた自分に喜んでくれると思っていた。
「お嬢様はこちらにいらっしゃいません。領地に戻られております。少し先に戻られる為に、確か公爵家にはお知らせ致しましたが。」
家令に申し訳なさそうにそう伝えられると、アランにも後ろめたく何も言えない。そういえば何回か前の茶の席でそんなことを言っていたような気がする。
侯爵家の領地を豊かにするために尽力していた彼女をアランの両親が気に入ったことにより成った婚約だ。彼女が生まれ育った侯爵領を大切にする姿勢は、今後公爵夫人となった際には公爵領にその愛を惜しみなく与えてくれることだろう。
カリナが王都より、領地の方が過ごしやすいのは、自分のせいでもあるのだろう。アランのカリナに対する態度は有名で夜会などでもカリナの周りには人がたくさんいて、アランとアナスタシアを厳しい目で見ていた。
カリナは夜会でもアランが離れるのを許してくれていた。というより、寧ろ入場と挨拶が済めば、友人と話したいからと、アランをアナスタシアに押し付けるように去っていく後姿ばかり覚えている。
あの時は、放置されるのが有り難く深くは考えていなかったが、カリナは寂しさを紛らわせる為に友人を頼るしかなかったのだと今ならわかる。
侯爵領は王都から離れている。馬車では五日ほど。馬なら三~四日で着くはずだ。
貞淑であれ、と昔から教育されている婚約者とは違い、天真爛漫なアナスタシアをアランはすぐに好きになった。
アナスタシアとは一度キスをしただけだ。一線を越えることは如何に愛してはいるとはいえ、婚姻前にすることは許されない。アランは腐っても公爵令息だ。不貞などを犯している時点で模範も何も無いが、アランは皆の模範になるようにと、教育されてきたが故の行動だった。
アナスタシアからの手紙には、公爵令息よりも高位の第三王子から愛を請われて受けざるを得なかったということが書いてあった。第三王子は、第一、第二王子とは違い粗暴で愛想がなく、交流は全くない。
男爵令嬢の身では第三でも王子の申し出を断れないことは誰にでもわかる。
ただアランはこの手紙で、アナスタシアの本音に気がついていた。彼女がアランを慕っている素振りを見せていたのはアランが公爵令息だから。そして第三王子に鞍替えしたために、アランは捨てられたのだと言うことを。
アランは呆然としながらもどこかで彼女がこんなことを言い出すのでは無いか、と思っていたフシがある。
「そう言うと思ってた。」
アナスタシアがここにいれば、そう言って彼女に一矢報いることができたかもしれない。だけど、単なる負け犬の遠吠えだ。
アランはくしゃくしゃになった手紙を暖炉に投げ込むと出かける準備をした。
こうなって思い出すのは、婚約者のカリナのことだ。アナスタシアに夢中になっている間もずっとカリナはアランを愛し待っていてくれた。
虫が良い話だが、今後はカリナにたくさん尽くし愛してやろう、とアランはウキウキした気持ちでいた。
アランはふと、最近屋敷の使用人が様変わりしたことに気がついた。
新しい使用人が増えた気がして、それでもそう言う時期なのだろう、と深く考えることはしなかった。
アランはカリナを放置していたことを謝り、甘い言葉でも吐けば、カリナは自分を許してくれるだろうと思っていた。だってそれが貞淑な女というものだから。
アランは気がつかなかった。新しい使用人達には気がついても、彼らがアランを見る目にどんな感情が隠れているかを全く理解していなかったことに。
侯爵家に先触れを出すのは忘れたのは何か意図があってのことではない。単に忘れていたからだが、それでもカリナは目が覚めた自分に喜んでくれると思っていた。
「お嬢様はこちらにいらっしゃいません。領地に戻られております。少し先に戻られる為に、確か公爵家にはお知らせ致しましたが。」
家令に申し訳なさそうにそう伝えられると、アランにも後ろめたく何も言えない。そういえば何回か前の茶の席でそんなことを言っていたような気がする。
侯爵家の領地を豊かにするために尽力していた彼女をアランの両親が気に入ったことにより成った婚約だ。彼女が生まれ育った侯爵領を大切にする姿勢は、今後公爵夫人となった際には公爵領にその愛を惜しみなく与えてくれることだろう。
カリナが王都より、領地の方が過ごしやすいのは、自分のせいでもあるのだろう。アランのカリナに対する態度は有名で夜会などでもカリナの周りには人がたくさんいて、アランとアナスタシアを厳しい目で見ていた。
カリナは夜会でもアランが離れるのを許してくれていた。というより、寧ろ入場と挨拶が済めば、友人と話したいからと、アランをアナスタシアに押し付けるように去っていく後姿ばかり覚えている。
あの時は、放置されるのが有り難く深くは考えていなかったが、カリナは寂しさを紛らわせる為に友人を頼るしかなかったのだと今ならわかる。
侯爵領は王都から離れている。馬車では五日ほど。馬なら三~四日で着くはずだ。
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