そう言うと思ってた

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侯爵令嬢は考えた

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褒美を、と言われてもカリナは大したことはしていない。自らの婚約者とその恋人を別れさせ、第三王子の元に争いの種を収めただけのこと。

「これで彼女が幸せだと思ってくれたら一番いいのだけれど。」

面食いな彼女は第三王子に満足しているだろうから当分は誤魔化せる、と見ているが、それもいつまで続くかはわからない。

彼女は一人の男性だけで満足するような人ではない。色んなタイプの男性にあらゆる方面からチヤホヤされなければ嫌なタイプ。誰からも好かれるのが当たり前。本気でそう思っているから、あんなに自信満々に過ごせたのだろう。

「あ、でもその方が都合が良いのね。」

争いの種ではある彼女だが、現状はただ婚約者のいる男を誑かしただけ。表立って処罰できるものではない。ならば、「罰を与える大義名分」を作り出す為に、彼女に舞台を用意する。

アナスタシアについてはあまり知らないが、こうなると可哀想な気もする。どういう理由があるにしろ、罰することを前提に囲われ、監視されるなんて、酷いことを考えたものだ。

侯爵家からの頼りで、アランが侯爵領へ向かったと告げられる。やはり思った通り馬で向かったらしく、一週間は時間を稼いだことにカリナはほくそ笑んだ。

アナスタシアは男爵家の庶子である。それは間違いないが、問題は彼女の母の血筋だ。彼女の母はすでに鬼籍に入っている。ついこの間まで彼女を育てていたのは血縁関係は全くない他人だった。アナスタシアの実母が流行病で亡くなった後、彼女を哀れんだ平民の夫婦がつい最近までアナスタシアを育ててくれたのだ。

他人ゆえに全く似ていない夫婦を両親だと思えなかったアナスタシアは、男爵が迎えにきた時には飛び上がって喜んだらしい。

彼女の態度に眉を顰めたのは男爵の方。だけど思い直して、これなら駒として使えると、確信したのだから、やっぱり血は争えない。アナスタシアを産んだ人だって、娘に負けず劣らずの他人のものが欲しくなる人だったと言うし、普段は気にならないけれど、親子は似るものだ。

カリナはふと自分の両親と、よく似ている自分自身を思い、こればかりはどうしようもない、と諦めた。その考えで言うと、アランは異質なものに見える。公爵夫妻は彼とは違い、自分を律することができる人達だ。

彼のように真実を色眼鏡で捻じ曲げることはしない。

「本当に誰に似たのかしら。」

「多分、公爵の弟に似たのだろう。確か学生時分に、問題を起こして、廃籍になっている。私も詳しくは知らないが、確か女関係だったと思うぞ。」

独り言に返されて振り向くと、そこにはトラヴィスがいた。彼は侯爵家の使用人で普段はカリナに付いているが、今日はアランを監視してもらっていた。

何故か彼はヴィクトールに嫌われている。

「アレはとても小さい男だから。」などと、不敬な発言をしているが、カリナから見れば、「同族嫌悪」と言うものだと思っている。

ある意味、王子に同族と思われている彼は大物じゃないだろうか。



「婚約者様は、どれだけサボっていたのか、馬で向かうのは早々に諦めた様だ。近くの街で馬を預けて、馬車を借りたみたいだからな。馭者にお願いして、大回りで向かって貰ったから、二週間ぐらいは時間を稼げるぞ。」

トラヴィスはとても良い笑顔を浮かべている。

「奴が戻って来たら、びっくりするだろうな。」
「そうね。彼……喜んでくれるかしら。」
「喜ぶのは流石に無理がないか?」
「でも、彼方の国に駒にされることはきっともうないのよ。彼女が第三王子の庇護下に入ったのだから。」

トラヴィスは、首を横に振ると、呆れた表情でカリナを見た。

「そう言うことじゃないんだよな。」

彼に馬鹿にされたことがわかって、カリナは少しむくれたが、淑女教育のおかげか、それを顕にすることはなかった。
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