3 / 30
侯爵令嬢は考えた
しおりを挟む
褒美を、と言われてもカリナは大したことはしていない。自らの婚約者とその恋人を別れさせ、第三王子の元に争いの種を収めただけのこと。
「これで彼女が幸せだと思ってくれたら一番いいのだけれど。」
面食いな彼女は第三王子に満足しているだろうから当分は誤魔化せる、と見ているが、それもいつまで続くかはわからない。
彼女は一人の男性だけで満足するような人ではない。色んなタイプの男性にあらゆる方面からチヤホヤされなければ嫌なタイプ。誰からも好かれるのが当たり前。本気でそう思っているから、あんなに自信満々に過ごせたのだろう。
「あ、でもその方が都合が良いのね。」
争いの種ではある彼女だが、現状はただ婚約者のいる男を誑かしただけ。表立って処罰できるものではない。ならば、「罰を与える大義名分」を作り出す為に、彼女に舞台を用意する。
アナスタシアについてはあまり知らないが、こうなると可哀想な気もする。どういう理由があるにしろ、罰することを前提に囲われ、監視されるなんて、酷いことを考えたものだ。
侯爵家からの頼りで、アランが侯爵領へ向かったと告げられる。やはり思った通り馬で向かったらしく、一週間は時間を稼いだことにカリナはほくそ笑んだ。
アナスタシアは男爵家の庶子である。それは間違いないが、問題は彼女の母の血筋だ。彼女の母はすでに鬼籍に入っている。ついこの間まで彼女を育てていたのは血縁関係は全くない他人だった。アナスタシアの実母が流行病で亡くなった後、彼女を哀れんだ平民の夫婦がつい最近までアナスタシアを育ててくれたのだ。
他人ゆえに全く似ていない夫婦を両親だと思えなかったアナスタシアは、男爵が迎えにきた時には飛び上がって喜んだらしい。
彼女の態度に眉を顰めたのは男爵の方。だけど思い直して、これなら駒として使えると、確信したのだから、やっぱり血は争えない。アナスタシアを産んだ人だって、娘に負けず劣らずの他人のものが欲しくなる人だったと言うし、普段は気にならないけれど、親子は似るものだ。
カリナはふと自分の両親と、よく似ている自分自身を思い、こればかりはどうしようもない、と諦めた。その考えで言うと、アランは異質なものに見える。公爵夫妻は彼とは違い、自分を律することができる人達だ。
彼のように真実を色眼鏡で捻じ曲げることはしない。
「本当に誰に似たのかしら。」
「多分、公爵の弟に似たのだろう。確か学生時分に、問題を起こして、廃籍になっている。私も詳しくは知らないが、確か女関係だったと思うぞ。」
独り言に返されて振り向くと、そこにはトラヴィスがいた。彼は侯爵家の使用人で普段はカリナに付いているが、今日はアランを監視してもらっていた。
何故か彼はヴィクトールに嫌われている。
「アレはとても小さい男だから。」などと、不敬な発言をしているが、カリナから見れば、「同族嫌悪」と言うものだと思っている。
ある意味、王子に同族と思われている彼は大物じゃないだろうか。
「婚約者様は、どれだけサボっていたのか、馬で向かうのは早々に諦めた様だ。近くの街で馬を預けて、馬車を借りたみたいだからな。馭者にお願いして、大回りで向かって貰ったから、二週間ぐらいは時間を稼げるぞ。」
トラヴィスはとても良い笑顔を浮かべている。
「奴が戻って来たら、びっくりするだろうな。」
「そうね。彼……喜んでくれるかしら。」
「喜ぶのは流石に無理がないか?」
「でも、彼方の国に駒にされることはきっともうないのよ。彼女が第三王子の庇護下に入ったのだから。」
トラヴィスは、首を横に振ると、呆れた表情でカリナを見た。
「そう言うことじゃないんだよな。」
彼に馬鹿にされたことがわかって、カリナは少しむくれたが、淑女教育のおかげか、それを顕にすることはなかった。
「これで彼女が幸せだと思ってくれたら一番いいのだけれど。」
面食いな彼女は第三王子に満足しているだろうから当分は誤魔化せる、と見ているが、それもいつまで続くかはわからない。
彼女は一人の男性だけで満足するような人ではない。色んなタイプの男性にあらゆる方面からチヤホヤされなければ嫌なタイプ。誰からも好かれるのが当たり前。本気でそう思っているから、あんなに自信満々に過ごせたのだろう。
「あ、でもその方が都合が良いのね。」
争いの種ではある彼女だが、現状はただ婚約者のいる男を誑かしただけ。表立って処罰できるものではない。ならば、「罰を与える大義名分」を作り出す為に、彼女に舞台を用意する。
アナスタシアについてはあまり知らないが、こうなると可哀想な気もする。どういう理由があるにしろ、罰することを前提に囲われ、監視されるなんて、酷いことを考えたものだ。
侯爵家からの頼りで、アランが侯爵領へ向かったと告げられる。やはり思った通り馬で向かったらしく、一週間は時間を稼いだことにカリナはほくそ笑んだ。
アナスタシアは男爵家の庶子である。それは間違いないが、問題は彼女の母の血筋だ。彼女の母はすでに鬼籍に入っている。ついこの間まで彼女を育てていたのは血縁関係は全くない他人だった。アナスタシアの実母が流行病で亡くなった後、彼女を哀れんだ平民の夫婦がつい最近までアナスタシアを育ててくれたのだ。
他人ゆえに全く似ていない夫婦を両親だと思えなかったアナスタシアは、男爵が迎えにきた時には飛び上がって喜んだらしい。
彼女の態度に眉を顰めたのは男爵の方。だけど思い直して、これなら駒として使えると、確信したのだから、やっぱり血は争えない。アナスタシアを産んだ人だって、娘に負けず劣らずの他人のものが欲しくなる人だったと言うし、普段は気にならないけれど、親子は似るものだ。
カリナはふと自分の両親と、よく似ている自分自身を思い、こればかりはどうしようもない、と諦めた。その考えで言うと、アランは異質なものに見える。公爵夫妻は彼とは違い、自分を律することができる人達だ。
彼のように真実を色眼鏡で捻じ曲げることはしない。
「本当に誰に似たのかしら。」
「多分、公爵の弟に似たのだろう。確か学生時分に、問題を起こして、廃籍になっている。私も詳しくは知らないが、確か女関係だったと思うぞ。」
独り言に返されて振り向くと、そこにはトラヴィスがいた。彼は侯爵家の使用人で普段はカリナに付いているが、今日はアランを監視してもらっていた。
何故か彼はヴィクトールに嫌われている。
「アレはとても小さい男だから。」などと、不敬な発言をしているが、カリナから見れば、「同族嫌悪」と言うものだと思っている。
ある意味、王子に同族と思われている彼は大物じゃないだろうか。
「婚約者様は、どれだけサボっていたのか、馬で向かうのは早々に諦めた様だ。近くの街で馬を預けて、馬車を借りたみたいだからな。馭者にお願いして、大回りで向かって貰ったから、二週間ぐらいは時間を稼げるぞ。」
トラヴィスはとても良い笑顔を浮かべている。
「奴が戻って来たら、びっくりするだろうな。」
「そうね。彼……喜んでくれるかしら。」
「喜ぶのは流石に無理がないか?」
「でも、彼方の国に駒にされることはきっともうないのよ。彼女が第三王子の庇護下に入ったのだから。」
トラヴィスは、首を横に振ると、呆れた表情でカリナを見た。
「そう言うことじゃないんだよな。」
彼に馬鹿にされたことがわかって、カリナは少しむくれたが、淑女教育のおかげか、それを顕にすることはなかった。
346
あなたにおすすめの小説
大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました
ミズメ
恋愛
感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。
これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。
とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?
重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。
○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます
我慢しないことにした結果
宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
私から婚約者を奪うことに成功した姉が、婚約を解消されたと思っていたことに驚かされましたが、厄介なのは姉だけではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
ジャクリーン・オールストンは、婚約していた子息がジャクリーンの姉に一目惚れしたからという理由で婚約を解消することになったのだが、そうなった原因の贈られて来たドレスを姉が欲しかったからだと思っていたが、勘違いと誤解とすれ違いがあったからのようです。
でも、それを全く認めない姉の口癖にもうんざりしていたが、それ以上にうんざりしている人がジャクリーンにはいた。
婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね
うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。
伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。
お互い好きにならない。三年間の契約。
それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。
でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。
殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
だって悪女ですもの。
とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。
幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。
だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。
彼女の選択は。
小説家になろう様にも掲載予定です。
その結婚は、白紙にしましょう
香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。
彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。
念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。
浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」
身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。
けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。
「分かりました。その提案を、受け入れ──」
全然受け入れられませんけど!?
形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。
武骨で不器用な王国騎士団長。
二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる