そう言うと思ってた

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公爵は諦める

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公爵家に戻ろうとしていたアランが、第三王子の元へ向かったという知らせを聞いて、公爵は目を伏せた。アランは昔から人の話は聞かないし、独自のルールで動いてしまう。

アランにはちゃんと説明をして、納得のいく状態で公爵家を去って欲しかった。そんな親心も、本人には伝わらなかった。

そういうところも、息子は弟に似ている。

公爵家には公爵以外には古株の一部の使用人しか知らない秘密がある。妻にも内緒のその秘密はアランが成長するにつれ、隠しきれないものになっていた。

アランが公爵家に来たのは、生まれて三ヶ月ほど経った頃のことだった。当然本人には意識はなかったが、公爵はつい昨日のことのように覚えている。弟によく似た華やかな容姿。見た目は似ていてもこれからの教育で弟とは全く違う、まともな人生を送らせてやるつもりだった。

妻が最初に授かった息子は死産だった。妻は弟と婚約していた時から自分を尊敬してくれて、少なからず好意を持って接してくれていた。彼女は弟には勿体無いぐらい勤勉で真面目で、何より公爵領を愛してくれていた。彼女は幼い頃は、体が弱かったらしく、そのせいか子が授かりにくい体だった。



彼女は子を授かった時、本当に嬉しそうだった。だからこそ、死産で生まれた我が子の話を彼女にするのは耐え難く、ちょうどその時に生まれた弟の子を身代わりとして差しだしたのだった。あの時のアランには、彼を育てる能力が両親にはなく、孤児院に行くか、養子に出されるかの二択しかなかった。



思えばあの時にちゃんと妻本人には話すべきだった。アランは愚弟の子で、私達の愛する我が子はひと足先に天国に旅立ったのだと。それが、自分が臆病なばかりに愛する我が子を愛せない苦悩と罪悪感を妻に背負わせてしまった。

アランはまっすぐにスクスクと、弟にそっくりに育ってしまった。妻がその度に悲しみに包まれているのを理解しながら、遺伝は恐ろしいと、心底思っていた。

遠い親戚筋からトラヴィスを探して連れて帰って来た時は、妻と自分とトラヴィスと、息子が生きていれば、こんな生活を送れていたのだと密かに考えた。それは妻も同じだったらしい。

「貴方に似た息子を私が産めていれば、きっと彼によく似ていたと思います。」

トラヴィスはアランほどの目を惹く容姿ではないが、穏やかな雰囲気が確かに自分によく似ているように思う。

彼は見た目だけでなく性格も、アランよりしっかりしていたし、貴族としての大切な心構えや、覚悟などがちゃんと備わっていた。それは育った環境がそうさせたのだろうと、反省するところもある。アランは良くも悪くも素直で、自分で動くことができないタイプの人間だ。うまく誘導してやれば、自らも動こうとするかもしれないが、それをずっとお膳立てしなければならないのは中々難しい。


愛する夫との子だから、と耐え忍んで見守っていてくれた妻が匙を投げたのは余程のことだ。

公爵はきっと戻らない息子のことは諦めて、トラヴィスとカリナと向き合った。

「アランは来ない。第三王子に捕まったらしい。悪いが愚弟が絡んでいる。公爵家に影響があるかもしれないが、そこはこちらで対処するので安心して欲しい。」

こうは言ってもアランなら不満を口にしているところを、トラヴィスもカリナも何も文句を言わず、いい返事で受け答えをした。

本当の息子は先祖代々の墓に入っている。もしかしたら息子が私達二人をトラヴィスに会わせてくれたのかもしれない。
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