そう言うと思ってた

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それぞれの道はもう交わらない

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全てが終わった後、取り残されたのは、元公爵家次男の男爵だった。

「アナスタシアが娘ではない?」

元王女と元婚約者に計られたと息巻いているが、元は自分の浅慮で身勝手な行動が招いたものだ。

公爵は時が経ち、離れていた期間が長いせいか、昔ほど弟を可愛いとは思えなくなっていた。

そうなると、残るのは単なる傍迷惑な元身内。もう公爵家とは縁が切れているからこそ、庇い立てする必要も感じなかった。

「男爵が、国家反逆を企てていたことは事実であるので、極刑となります。まあ、二回目ですからね。仕方ないでしょう。それで宜しいですね?」

縋るような視線を男爵はかつて兄だった男に送ったが、彼は二つ返事で了承した。

「大好きな娘と一緒に死ねるんだ。良かったな。」

アナスタシアが娘ではない、と判明した上でのこの発言はただの嫌味でしかなかったが男爵には効いたようだった。

「自分の血が入ってなかったから、あんな風になったのだ。私の子ならもっとちゃんと出来たはずだ。あの女が嘘をついたのが悪いんだ。」

仮にも一度は娘だった少女を庇おうともしない時点で、彼は父親ではないのだと思う。

自分の保身のことばかりを叫び、元婚約者にしたことも、実子であるアランのことも、何も言わない。

アランと言えば、実の父が暴れているのをただ見ていた。公爵家の嫡男として生まれ、ずっと、思っていた。どうして、自分は父に似ず会ったこともない叔父に似てしまったのだと。

公爵家で聞く叔父の話は、話し手がため息をついたり、言葉を濁したりする所為で、あまり良くないことなのだと思わずにはいられなかった。

アランの処遇はそこまで酷くはない。ヴィクトールに驚かされたものの、騙されていた部分が大きくて、酌量の余地を与えられた。

カリナは最後にアランに会いにいく。

アランは何を思ったかやたら清々しい顔で、笑う。

「私はようやく目が覚めた。君はもう私ではなく彼を選んでしまったんだな。悲しいけれど、二人が公爵領を守っていけるよう微力ながら、手伝っていけたら良いと思っている。」

カリナの怪訝な顔を見て、また笑い、「冗談だよ、流石に。」と言った。

「笑えない冗談はやめて。本当に貴方そんなこと言いそうじゃない。」

アランは婚約者だった頃には考えられない軽口を今のカリナとできるとは思っていなかった。

そうか。こうすれば良かったのか。

カリナとトラヴィスの二人のやりとりを見ながら少しだけ、しみじみした気持ちになるが、アランは目を覚ましたのだから、ここに居続けることはできないとわかっていた。

皆とは道を違えてしまった。自分が恵まれていたと気がつくのはそう遠くはない未来だろう。

アランに新たな居場所を用意してくれたのは、ディーンという青年で、本当ならアランの位置に生まれていた男だが、彼はその位置には何の思い入れも執着もないらしく、自分の家族のところに帰りたいという。

アランは自分の性根の醜悪さに涙した。今更ながら後悔が押し寄せる。迎えに来た彼は泣いてるアランをかすかに笑いながら馬車に力強く押し込んだ。
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