そう言うと思ってた

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公爵は息子に会う

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「トラヴィスには私の代わりに潜入して欲しいところがあるんだ。」

公爵夫人の実の息子であるディーンは、そう切り出した。

「え?潜入って俺らがいつも行っている場所?其方側の住処とかじゃないのか?」

「ああ、これでいいんだ。私は私のいつも行っている場所に行って、いつもとは少し違う仕草や態度を取る。出会った人が、いつもと違う、と此方に違和感が芽生えるか、勘違いかな?と思われるぐらい小さな仕草で良い。

もしかしたら、別人なのではないか?と一瞬だけ思わせる程度が望ましい。あまりにあからさまだと、怪しさが出てしまう。罠だと思われないギリギリを狙うんだ。」

トラヴィスはディーンと話し合い、互いの癖を覚えつつ、互いに成り切るつもりで情報を交換した。

ディーンの擬態はほぼ完璧で、トラヴィスの擬態は、悪くない程度だったというからまあまあ上手くいったと言っていいだろう。

ディーンは死んだふりをして、逃げ延びた後、第三王子の側近のふりをして、祖国の間者を一網打尽にした。

ディーンを誤って倒したショックで彼方の戦力の一人が使い物にならなくなったことが非常に大きく作用した。

公爵夫人は夫が亡くなるまではトラヴィスは生かそうと考えていたが、全てを夫にバラされるかもしれない、という恐怖からトラヴィスを狙った。

カリナはそのことをとても怒っていた。彼女は約束を反故にし、トラヴィスを殺そうとした。ならば何故反対に此方が公爵に勝手に話してしまうかも知れない、という考えから目を逸らしたのだろう。

「無意識に見下していたんじゃないか?」

自分の力を過信し、その上で彼らが自分の上をいくと思わない。

カリナとトラヴィスは、公爵夫人に真実を告げるとき、公爵に夫人が犯したことを全て暴露した。

初めは驚いていた公爵だが、話が実の息子の話になると、顔色が変わった。

「こんなことを言うと怒られるかもしれないが、私は彼女が本物のエリーヌではないことを薄々気がついていた。本物のエリーヌに私はとても嫌われていてね。だから、結婚式の時の彼女の笑顔は、まるで別人のように見えたんだ。あれはやはり合っていたんだな。」

公爵は現実から目を背けるように遠い目をして呟いた。

「彼女の本当の名前は何というんだ。」

ディーンと同じように潜入に特化した影響で彼女自身もエリーヌ以前の記憶は曖昧だ。

「許されるなら公爵家を君達に譲った後で彼女と最後の刻を過ごしたい。」

公爵は微笑みながらそんなことを言った。

「ディーンも公爵も自己紹介はしないのな。」

自分の家族は祖国にいる人達だと、最初に言い切ったように、ディーンは公爵に自分の生い立ちを話さなかった。顔は親子だから似ているが、トラヴィスのように血は薄くてもそっくりな場合もある。

「やっぱりよく似てる。親子ね。」

カリナは今後トラヴィスとの間に子が生まれたら、どんな理由であれ、離さないでいようと心に決めた。

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