王子は真実の愛に目覚めたそうです

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生き餌

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風呂に入り、形を整えられた平民は、元の顔立ちの良さのおかげで、何とか見られるようにはなった。王女の茶会には、まだ時間がある。それまでにたくさん、やらかして能力のなさをアピールしなくてはならない。

王女の婚約者のダミアンに、兄ウィルヘルムに似た男の存在を見せるには良い機会だ。向こうも、来て早々仕掛けることはしないだろう。

彼を見て驚くか否かで、こちらの情報をどれだけ知っているかを測るつもりだ。

兄に似た男には、何の期待もしない。ただ、何もするな、と念を押したところで、やらかすことはわかっている。

彼は生まれついての、ゴミなのだ。ゴミがゴミらしくあることに期待する。

後付けはこちらに任せて、生を楽しむと良い。少なくとも王女を無事逃すことができたなら、それだけで、こちらの仕事は終わる。その後煮るなり焼くなりすれば良い。


思っていた通り、平民男には何らかの接触があったようだ。クロエ嬢だったか。彼女から、第一王子かどうか聞かれたバカは、否定も肯定もせずに不機嫌に無視をした。あの女好きが、一度でも無視できるなんて凄いじゃないか。いや、初対面だと、誰でもそうか。私にも身内贔屓と言うものがあったようだ。いや、もう、アレは身内ではないけれど。


クロエ嬢は、王宮に来る暇も無いはずなのに、何かと理由をつけては、王宮内をうろうろしている。その姿はまるで、スパイのようだ。実際その任務を負っているのかもしれない。私に脈がないとなると、私ではなく、学園内で高位貴族を誑かすなりできるだろうに、未だにこちらに目を向けている気がする。それが凄く不気味だ。


さらに、クロエ嬢は、初日に感じていた不快感極まる頭の悪い会話ではなく、きちんと節度を持った様子で過ごしていることから、王女と同じく素はこちらかもしれない。


王女が亡命したら、生じる争いについて、何も知らないに等しいが、調べる限り、ダミアンとクロエは、王女の監視以外に命を帯びているように感じる。

それが分からないだけに不気味で、だからこそ目が離せない。兄上には悪いけれど、生き餌として、二人の前に飛び込んでもらう。彼らが飛びついてくれるといいのだが。

王女が訪れた執務室に次に訪れたのは、意外な人物だった。

「遅くに申し訳ない。少しお願いがあって、話を聞いてもらえるだろうか。」

こちらを睨みつけたまま、眼光鋭く、でも少し申し訳なさそうに、ダミアンは入ってきた。彼はその、睨むような目つきが素なのか。悪人顔だなぁ。

「勿論、どうぞ。」
腰をかけ、第一声に、私達は驚愕した。

「王女の身柄をこちらで守っていただけないだろうか。」

んん?どうゆうこと?
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