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下女見習いモニカ
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下女の部屋には何もない。かわいいぬいぐるみも装飾品も宝石もドレスも何もない。モニカはずっとエリザベスとか言う従妹のせいで冷遇されていた。
エリザベスを貶めたことに叔母様は怒っていたみたいだけど、カーテシーを見せた時に笑ったのは彼女だもの。きっと馬鹿にして笑ったのだわ。見た目は可愛くて可憐なお嬢様だけど、女って大概新参者には冷たいものなのよ。
男爵家の侍女ナディアも言ってた。「彼方ではくれぐれも品良くするのですよ。彼方には公爵令嬢エリザベス様がいらっしゃるので彼女以上に頑張らなくては強制送還されてしまいますよ」と。
確かに私がどれだけ頑張って公爵家に相応しくなっても本物の公爵令嬢には敵わない。
だからできれば令息達を味方に取り込みたかった。だけど令息には自由に会えなかった。下女達は何故か私に仕事を覚えさせようとする。そんなことしたら手が荒れてしまうでしょう。そばかすだらけの若い女が、良く効くハンドクリームを貸してくれたけど、いかにも庶民の持ち物でうんざりした。最初の頃付き纏って来た下女は、何日かすると絡んで来なくなった。代わりに下男達が近づいてくる。見た目は平凡な彼らだけど、モニカに下心があるみたい。にっこり微笑んでやればすぐに顔を赤らめる。モニカは何人かの手駒を手に入れた。
手紙の書き方にも、貴族には作法がある。モニカは教師が作った見本の通りに書いたのだが、返事は来なかった。
叔母様はこの家の令嬢になるのは許してくれなかった。叔母様はエリザベスに配慮したのね。相手が公爵家だと言うから、ここは私が引いてあげるわ。だってお姉さんだものね。しばらく日にちが経って、モニカを迎えに来た男性を見て、びっくりしてしまった。
モニカと同じ髪色、同じ瞳をした男性が現れたのだ。彼は年齢から言ってもモニカの父でもおかしくない風貌で、これまで会ったこともないのに、妙に親近感を覚えた。モニカの母とも面識はあったらしい。これはいよいよ本当に自分の実父なのではないか?とモニカは思った。叔母様ったら、こんな隠し玉を持っていたのね。
自分の実父ならば立場上養子となるしかなくてもただの養子ではなく、愛されるに違いない。モニカはさっきまで全力で取り入ろうとしていた公爵家よりも父親の元で過ごしたいと思うようになった。彼はモニカに養子になってくれる見返りとしてドレスを贈ってくれた。モニカの初めてのドレスはとても品の良い白いドレスだった。
叔母様は何故かずっと表情が変わらなかった。モニカは喜んで欲しかったのに、それもない。やっぱり実の母ではないから冷たいのだと悲しくなった。
モニカは養子縁組の書類にサインした。書類にはたくさんの事柄が書かれていたけれど、父がモニカの不利益になるようなことを説明しない訳がない。よく読まずにサインしたモニカのことを叔母様は難しい顔で見つめていた。
それからのモニカは幸せだった。実父の公爵家へ移動するのは驚くほど豪華な馬車である。座り心地を確認しようにも、まだ数えるほどしか馬車に乗ったことがないモニカには難しい。
父の名前は、ヴィンスと言った。そういえばどこかでそんな名前を聞いたことがある気がする。でも何処で聞いたのか、それは思い出せなかった。
彼は結婚して娘がいたが、遠い昔に亡くなったと言う。政略結婚の相手との間に生まれた娘。公爵家の令息ならば政略結婚は仕方がない。モニカは父に同情した。好きでもない相手と結婚しなければならないなんて可哀想。愛のない相手と家族にならなければいけないなんて、と。
父はモニカを愛してくれた。モニカの感じる愛情はドレスや宝石の数によって決まる。これまで与えられなかったそれらを当たり前のように与えられる日々。使用人達も皆モニカの言う我儘を聞いてくれ、傅かれる毎日。
モニカが最初からハリス夫人の教育をきちんと受けていればこれからの展開に予想がついたかもしれない。だけど、貴族社会の表に憧れを抱いていた曇り眼のモニカにはその裏が読み取れないでいた。
ましてやここには叔母も従兄妹もいないのである。その自覚が圧倒的に足りていなかった。そしてモニカの立場は公爵家に入り込んだ哀れな平民であることも。
モニカは知らない。叔母を含め彼方の公爵家ではモニカのために彼女がわかる言葉を使って生活を送れるように配慮してくれていたこと。文章の読み方だって彼女が望むならと、教えてくれようとしていたこと。
公爵家の下女だって皆平民のモニカより立場は上である。下女の中には他国出身の者もいたからだ。だから、カタコトでも意思疎通が取れるように配慮されていた。
此方に来てからのモニカには話し相手がいなかった。誰も、父以外はモニカの言葉を理解していない。モニカは元から人の言葉を聞いていないから全くそのことに気づいていなかった。
父だと思っているヴィンスはモニカに言語を教えてくれる気はないらしい。
「お前はただ笑ってそこにいるだけで良いんだよ。」
優しく諭されるも、モニカは頷けない。だって意思疎通ができないと、此方がやってほしいことが伝わらないじゃないか。侍女は微笑んでいるけれど、モニカの意思を汲み取ってはくれない。綺麗なドレスも宝石も美味しい料理、デザートもたっぷりもらえるけれど、それだけ。
彼女達はモニカの話を聞いてはくれない。
モニカの言葉を理解してくれるのは公爵であるヴィンスだけ。そんな生活に唐突に終わりが来た。モニカに縁談が齎されたのだ。モニカは貴族にはなりたがったが、好きでもない相手と結婚するのは嫌だった。だが、やはり自分は愛されている。相手の男性はモニカの話す言葉を知っていた。見目の良い男性に久しぶりに聞いた祖国の言葉。モニカの取り止めのない話を聞いてくれ、声を褒めてくれた。聞くと彼はこの国の第四王子で、モニカを妃に迎えたいという。
モニカはその申し出を受けたいと思った。自分はきっとこの人と一緒になるためにこの国に来たのだ。父ヴィンスは、叔母とは違い、この縁談を受け入れたモニカをとても祝福してくれた。
エリザベスを貶めたことに叔母様は怒っていたみたいだけど、カーテシーを見せた時に笑ったのは彼女だもの。きっと馬鹿にして笑ったのだわ。見た目は可愛くて可憐なお嬢様だけど、女って大概新参者には冷たいものなのよ。
男爵家の侍女ナディアも言ってた。「彼方ではくれぐれも品良くするのですよ。彼方には公爵令嬢エリザベス様がいらっしゃるので彼女以上に頑張らなくては強制送還されてしまいますよ」と。
確かに私がどれだけ頑張って公爵家に相応しくなっても本物の公爵令嬢には敵わない。
だからできれば令息達を味方に取り込みたかった。だけど令息には自由に会えなかった。下女達は何故か私に仕事を覚えさせようとする。そんなことしたら手が荒れてしまうでしょう。そばかすだらけの若い女が、良く効くハンドクリームを貸してくれたけど、いかにも庶民の持ち物でうんざりした。最初の頃付き纏って来た下女は、何日かすると絡んで来なくなった。代わりに下男達が近づいてくる。見た目は平凡な彼らだけど、モニカに下心があるみたい。にっこり微笑んでやればすぐに顔を赤らめる。モニカは何人かの手駒を手に入れた。
手紙の書き方にも、貴族には作法がある。モニカは教師が作った見本の通りに書いたのだが、返事は来なかった。
叔母様はこの家の令嬢になるのは許してくれなかった。叔母様はエリザベスに配慮したのね。相手が公爵家だと言うから、ここは私が引いてあげるわ。だってお姉さんだものね。しばらく日にちが経って、モニカを迎えに来た男性を見て、びっくりしてしまった。
モニカと同じ髪色、同じ瞳をした男性が現れたのだ。彼は年齢から言ってもモニカの父でもおかしくない風貌で、これまで会ったこともないのに、妙に親近感を覚えた。モニカの母とも面識はあったらしい。これはいよいよ本当に自分の実父なのではないか?とモニカは思った。叔母様ったら、こんな隠し玉を持っていたのね。
自分の実父ならば立場上養子となるしかなくてもただの養子ではなく、愛されるに違いない。モニカはさっきまで全力で取り入ろうとしていた公爵家よりも父親の元で過ごしたいと思うようになった。彼はモニカに養子になってくれる見返りとしてドレスを贈ってくれた。モニカの初めてのドレスはとても品の良い白いドレスだった。
叔母様は何故かずっと表情が変わらなかった。モニカは喜んで欲しかったのに、それもない。やっぱり実の母ではないから冷たいのだと悲しくなった。
モニカは養子縁組の書類にサインした。書類にはたくさんの事柄が書かれていたけれど、父がモニカの不利益になるようなことを説明しない訳がない。よく読まずにサインしたモニカのことを叔母様は難しい顔で見つめていた。
それからのモニカは幸せだった。実父の公爵家へ移動するのは驚くほど豪華な馬車である。座り心地を確認しようにも、まだ数えるほどしか馬車に乗ったことがないモニカには難しい。
父の名前は、ヴィンスと言った。そういえばどこかでそんな名前を聞いたことがある気がする。でも何処で聞いたのか、それは思い出せなかった。
彼は結婚して娘がいたが、遠い昔に亡くなったと言う。政略結婚の相手との間に生まれた娘。公爵家の令息ならば政略結婚は仕方がない。モニカは父に同情した。好きでもない相手と結婚しなければならないなんて可哀想。愛のない相手と家族にならなければいけないなんて、と。
父はモニカを愛してくれた。モニカの感じる愛情はドレスや宝石の数によって決まる。これまで与えられなかったそれらを当たり前のように与えられる日々。使用人達も皆モニカの言う我儘を聞いてくれ、傅かれる毎日。
モニカが最初からハリス夫人の教育をきちんと受けていればこれからの展開に予想がついたかもしれない。だけど、貴族社会の表に憧れを抱いていた曇り眼のモニカにはその裏が読み取れないでいた。
ましてやここには叔母も従兄妹もいないのである。その自覚が圧倒的に足りていなかった。そしてモニカの立場は公爵家に入り込んだ哀れな平民であることも。
モニカは知らない。叔母を含め彼方の公爵家ではモニカのために彼女がわかる言葉を使って生活を送れるように配慮してくれていたこと。文章の読み方だって彼女が望むならと、教えてくれようとしていたこと。
公爵家の下女だって皆平民のモニカより立場は上である。下女の中には他国出身の者もいたからだ。だから、カタコトでも意思疎通が取れるように配慮されていた。
此方に来てからのモニカには話し相手がいなかった。誰も、父以外はモニカの言葉を理解していない。モニカは元から人の言葉を聞いていないから全くそのことに気づいていなかった。
父だと思っているヴィンスはモニカに言語を教えてくれる気はないらしい。
「お前はただ笑ってそこにいるだけで良いんだよ。」
優しく諭されるも、モニカは頷けない。だって意思疎通ができないと、此方がやってほしいことが伝わらないじゃないか。侍女は微笑んでいるけれど、モニカの意思を汲み取ってはくれない。綺麗なドレスも宝石も美味しい料理、デザートもたっぷりもらえるけれど、それだけ。
彼女達はモニカの話を聞いてはくれない。
モニカの言葉を理解してくれるのは公爵であるヴィンスだけ。そんな生活に唐突に終わりが来た。モニカに縁談が齎されたのだ。モニカは貴族にはなりたがったが、好きでもない相手と結婚するのは嫌だった。だが、やはり自分は愛されている。相手の男性はモニカの話す言葉を知っていた。見目の良い男性に久しぶりに聞いた祖国の言葉。モニカの取り止めのない話を聞いてくれ、声を褒めてくれた。聞くと彼はこの国の第四王子で、モニカを妃に迎えたいという。
モニカはその申し出を受けたいと思った。自分はきっとこの人と一緒になるためにこの国に来たのだ。父ヴィンスは、叔母とは違い、この縁談を受け入れたモニカをとても祝福してくれた。
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