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公爵夫人セリーヌ
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話を聞く為に呼び出した姪モニカはどういう訳か笑顔を浮かべていた。彼女の言い分を聞いてみたくて呼んだのに、まるで反省していない様子で、セリーヌは気味が悪かった。
「ようやくですのね、叔母様!」
淑女の礼も忘れてしまったような彼女の姿に眉間に微かに皺が寄る。だが、此方の表情など気にも留めず、彼女は満面の笑みでじゃれつく。
「何の話だと聞いたのですか?」
「私を娘にしてくれるんでしょう?」
「どうしてそう思ったの?」
「だって、呼んでくださったじゃない。最初からそのつもりだったのに、エリザベスのせいで叔母様の対応が遅れたのですよね?わかっています。大丈夫です。私はエリザベスを許します。だって従姉妹ですもの。かわいい妹の我儘だってわかってますから。」
セリーヌは混乱していた。同時に、彼女は確かに姉の娘だと思う。モニカの母もよくセリーヌが理解できないことを口にして周りを掻き乱していた。
「手紙の文面には、貴女は行儀見習いに来たい、という話だったわよね?だから、此方としては家庭教師を派遣して、貴女がこの先使用人として働く為に、教育を施したのだけど、貴女は行儀見習いではなくて、公爵令嬢になるつもりだったの?」
「あら、叔母様。行儀見習いをするっていっても、私たちは親戚なのよ?姪を使用人にするなんておかしいわ。
そんなことより叔母様。このお茶、とても美味しい。おかわりしたいわ。」
「貴女を今日呼んだのは下男達を唆し、エリザベスを貶めた件についてよ。どうしてそんなことをしたの?」
「えー?彼らは私の悩みを聞いてくれただけよ。とても優しい人達なの。優しくない人達もいたけれど、仕方ないわ。私が公爵令嬢になったならちゃんと言い聞かせてあげたら良いのだもの。
エリザベスの件はごめんなさい。ネックレスを奪われたのは黙っていれば良かったわ。私はお姉さんだから、妹を守らなければいけなかったのに。」
出されたお茶とお菓子を食べ続け、何の作法も身についていないことを晒し続けるモニカはぺちゃくちゃと自分の言いたいことだけを、話し続ける。
セリーヌは自らの思い違いに愕然とした。確かに家庭教師として派遣したハリス夫人からそのような報告が来ていた。だが、まさかそこまで恥知らずではないだろうと、目をつぶってしまった。
すっかり忘れていた。彼女は姉の娘なのだ。
「貴女は、貴族令嬢の在り方を理解しているのね?」
セリーヌがそう尋ね、モニカは勿論だと返事した。
「ならば貴女をさる貴族家の養子になれるようにしてあげる。ウチはもう無理よ。エリザベスがいるもの。ウチと同じ家格の公爵家と縁を繋いであげるわ。使用人になりたくなかったのに、そのことを理解できなくてごめんなさいね。そこでは皆に甘えたら良いわ。彼方には令嬢がいないの。」
以前からエリザベスにしつこく言い寄って来た遠い国の公爵家。そこならモニカも幸せになれるだろう。モニカのように身の程知らずな平民を何人も引き取っているというから。何よりこれ以上この娘と話をするのが苦痛だった。まるで昔の姉ではないか。寧ろ姉よりも性根が恐ろしい。
モニカを部屋に下げると頭痛がした。セリーヌは大きくため息をつくと天を仰いだ。
見た目は誰にも似ていない姉の娘。だけど、性格はまるっきり姉だった。そういえば姉もよくセリーヌに冤罪をふっかけていた。盗んだのは自分の癖によく言う。都度、兄が姉の妄言を正して、事なきを得ていたが、セリーヌの元婚約者は姉の言い分を信じたのだった。セリーヌとの婚約が破棄になって、姉と婚約したかった彼だったが、姉の貰い手は元王子。泣く泣く、諦めて、何を思ったかセリーヌに復縁を申し入れた。
本当に馬鹿にしている。セリーヌはさっさと隣国に逃げて、今は夫の妻として、三人の子の母として幸せに暮らしている。姉に騙されたことは気の毒だけど、だから何?誰を信じるかは自分で決められるのよ。
モニカを騙したことに良心は傷まない。だって彼女は当たり前のことをするつもりがないのだ。悪いことをすれば謝罪する、嘘をつかない、そんな単純でだけど一番大切なことをするつもりがないのだから。
セリーヌはお人好しではない。大切な我が子を傷つける害獣には容赦なく、二度と立ち上がれないようにしなければ。とはいえ、セリーヌも鬼ではない。それからも度々姪には救済とも言えるチャンスを与えた。だけど言わずもがな、彼女はそのチャンスを悉く無視し、挙句の果てにまだ幼いサイオンさえも巻き込もうとした。そこでセリーヌは諦めた。姪を救う気も失せた。彼女がそこまで望むのなら貴族令嬢として幸せになってもらおうと。
でも、もしかしたら彼女にこの嫌味は通じないかもしれない。だって元から花畑な思考なのだもの。いつまでもポジティブでいつまでも自分本位。だからある意味、彼女にとってはハッピーエンドになるんじゃないかしら。セリーヌは力無く笑う。姉の娘を唆したのは今もあの男の側にいるあの侍女だろう。彼女の望み通り姪はこちらで片付けよう。
セリーヌはもう会う気もない姉を思い浮かべる。男爵夫人など狙っていなかった野心家の姉はその地位を引き摺り下ろされた時にどんな表情を浮かべるのかしら。それを見ることは叶わない。それだけがセリーヌにとっては心残りではあるが、そんな些細なことは子供達を見るとその内忘れてしまった。
「ようやくですのね、叔母様!」
淑女の礼も忘れてしまったような彼女の姿に眉間に微かに皺が寄る。だが、此方の表情など気にも留めず、彼女は満面の笑みでじゃれつく。
「何の話だと聞いたのですか?」
「私を娘にしてくれるんでしょう?」
「どうしてそう思ったの?」
「だって、呼んでくださったじゃない。最初からそのつもりだったのに、エリザベスのせいで叔母様の対応が遅れたのですよね?わかっています。大丈夫です。私はエリザベスを許します。だって従姉妹ですもの。かわいい妹の我儘だってわかってますから。」
セリーヌは混乱していた。同時に、彼女は確かに姉の娘だと思う。モニカの母もよくセリーヌが理解できないことを口にして周りを掻き乱していた。
「手紙の文面には、貴女は行儀見習いに来たい、という話だったわよね?だから、此方としては家庭教師を派遣して、貴女がこの先使用人として働く為に、教育を施したのだけど、貴女は行儀見習いではなくて、公爵令嬢になるつもりだったの?」
「あら、叔母様。行儀見習いをするっていっても、私たちは親戚なのよ?姪を使用人にするなんておかしいわ。
そんなことより叔母様。このお茶、とても美味しい。おかわりしたいわ。」
「貴女を今日呼んだのは下男達を唆し、エリザベスを貶めた件についてよ。どうしてそんなことをしたの?」
「えー?彼らは私の悩みを聞いてくれただけよ。とても優しい人達なの。優しくない人達もいたけれど、仕方ないわ。私が公爵令嬢になったならちゃんと言い聞かせてあげたら良いのだもの。
エリザベスの件はごめんなさい。ネックレスを奪われたのは黙っていれば良かったわ。私はお姉さんだから、妹を守らなければいけなかったのに。」
出されたお茶とお菓子を食べ続け、何の作法も身についていないことを晒し続けるモニカはぺちゃくちゃと自分の言いたいことだけを、話し続ける。
セリーヌは自らの思い違いに愕然とした。確かに家庭教師として派遣したハリス夫人からそのような報告が来ていた。だが、まさかそこまで恥知らずではないだろうと、目をつぶってしまった。
すっかり忘れていた。彼女は姉の娘なのだ。
「貴女は、貴族令嬢の在り方を理解しているのね?」
セリーヌがそう尋ね、モニカは勿論だと返事した。
「ならば貴女をさる貴族家の養子になれるようにしてあげる。ウチはもう無理よ。エリザベスがいるもの。ウチと同じ家格の公爵家と縁を繋いであげるわ。使用人になりたくなかったのに、そのことを理解できなくてごめんなさいね。そこでは皆に甘えたら良いわ。彼方には令嬢がいないの。」
以前からエリザベスにしつこく言い寄って来た遠い国の公爵家。そこならモニカも幸せになれるだろう。モニカのように身の程知らずな平民を何人も引き取っているというから。何よりこれ以上この娘と話をするのが苦痛だった。まるで昔の姉ではないか。寧ろ姉よりも性根が恐ろしい。
モニカを部屋に下げると頭痛がした。セリーヌは大きくため息をつくと天を仰いだ。
見た目は誰にも似ていない姉の娘。だけど、性格はまるっきり姉だった。そういえば姉もよくセリーヌに冤罪をふっかけていた。盗んだのは自分の癖によく言う。都度、兄が姉の妄言を正して、事なきを得ていたが、セリーヌの元婚約者は姉の言い分を信じたのだった。セリーヌとの婚約が破棄になって、姉と婚約したかった彼だったが、姉の貰い手は元王子。泣く泣く、諦めて、何を思ったかセリーヌに復縁を申し入れた。
本当に馬鹿にしている。セリーヌはさっさと隣国に逃げて、今は夫の妻として、三人の子の母として幸せに暮らしている。姉に騙されたことは気の毒だけど、だから何?誰を信じるかは自分で決められるのよ。
モニカを騙したことに良心は傷まない。だって彼女は当たり前のことをするつもりがないのだ。悪いことをすれば謝罪する、嘘をつかない、そんな単純でだけど一番大切なことをするつもりがないのだから。
セリーヌはお人好しではない。大切な我が子を傷つける害獣には容赦なく、二度と立ち上がれないようにしなければ。とはいえ、セリーヌも鬼ではない。それからも度々姪には救済とも言えるチャンスを与えた。だけど言わずもがな、彼女はそのチャンスを悉く無視し、挙句の果てにまだ幼いサイオンさえも巻き込もうとした。そこでセリーヌは諦めた。姪を救う気も失せた。彼女がそこまで望むのなら貴族令嬢として幸せになってもらおうと。
でも、もしかしたら彼女にこの嫌味は通じないかもしれない。だって元から花畑な思考なのだもの。いつまでもポジティブでいつまでも自分本位。だからある意味、彼女にとってはハッピーエンドになるんじゃないかしら。セリーヌは力無く笑う。姉の娘を唆したのは今もあの男の側にいるあの侍女だろう。彼女の望み通り姪はこちらで片付けよう。
セリーヌはもう会う気もない姉を思い浮かべる。男爵夫人など狙っていなかった野心家の姉はその地位を引き摺り下ろされた時にどんな表情を浮かべるのかしら。それを見ることは叶わない。それだけがセリーヌにとっては心残りではあるが、そんな些細なことは子供達を見るとその内忘れてしまった。
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