68 / 69
何一つ手に入らずに
しおりを挟むメリーの処刑はすぐに決まった。
ジェレミアはやっとこの日が来たと言わんばかりにメリーの刑の執行までの処理が早く、まるでこの日を準備していたかのようだった。
「この者を、断首刑とする」
ジェレミアのその一言で静まり返る法廷。
顔に深い傷を負ったメリーの姿は痛々しかったが、読み上げられた罪状の所為か何故か同情の声は皆無だった。
意気消沈したメリーの様子に涙を流すのは両親と侍女だけにも関わらず、辛うじて個人的な犯行だという証拠付けがはっきりとしていた為に家門だけでも助かった実家すら、メリーは最後まで一言も気遣わなかった。
「何か、言っておくことはない?」
ジェレミアにはそのような感情は無かったが、一応メリーの両親を気遣っての言葉だった。
最期に両親に向ける言葉くらいはあるだろうと……
けれどもメリーの口から出た言葉は、最期には相応しいものとは言えなかった。
「最期……?シエラ、あんたが憎い。あんたの所為で私は死ぬのよ、一生覚えてなさい、あんたがズタボロにしたこの私の姿を」
「……」
「戯言だ」
ただメリーを見つめたシエラの心情を察してか、シエラを抱きしめるようにして言ったリュカエルの姿を見てまたメリーは一層シエラが憎かった。
自分はこのような姿で、シエラにはあんなにもいい男が隣居る。
愛してやまないリヒトの瞳は今もシエラを心配そうに見つめていて、そんなリヒトの隣には別の女が婚約者として座っていた。
射殺すような視線を感じてハッと顔を上げたメリーは、急に実感した。
ぶるぶると震える身体は止まらない。
あの青い瞳が見下ろしていた。
愛した男が、誰もが羨む男が愛してやまないシエラを、狂おしいほどに愛するシエラの弟だった。
「……全部、この人だったのね」
まんまと嵌められたのだと気付く。
「何か言った?震えてるね……」
皇座を降りて近づくジェレミアが怖くて、怖くて仕方が無かった。
シエラの背後でずっとこの男が自分を睨んでいたのだと何故気付かずにシエラを執拗に狙い続けた自分が愚かに思えた。
(完璧とはいえないけれど、固い護り、歪んだ愛情、狂ってる……!)
「あんたが、死ねば良かったのに!!」
そう叫んだメリーの声が響く、ジェレミアの笑い声がそれをかき消すように響いたが彼の青い目は決っして笑ってはいない。
けれども、愉快だと雰囲気が語っていた。
怒りをも感じるその姿はチグハグで不気味だった。
「ち、近寄らないで……」
「僕が、君に興味あるわけないだろう?ほんと期待を裏切らないな……」
「へ?」
「面白いが、これでサヨナラだ」
そう言って剣を抜いたジェレミアを無表情でみるリュカエル。
彼もまた王として時に残酷な手段を取ることもある。
いい見せしめになるだろう。そう思う反面ジェレミアの狂気を危険だとも感じた。
けれどそれはシエラへの、姉への愛からだと知っていた。
この瞬間、どのような想いなのかは曖昧だったがそれでもジェレミアは今、弟としてシエラに家族としての愛を向けている。
弟として、リュカエルにシエラに純粋に家族を求めている。
だからこそ彼の行動に少しでも彼の正義があるならば、リュカエルは彼を咎めないでおきたかった。
「どの道、あのような無礼者はいつか俺が斬ってたな」
「リュカ……っ」
「冗談という事にしておく、だがジェレミアは今愛する者を傷つけたらどうなるか見せしめたんだ」
「……」
「お前は、加えて皇帝を侮辱したという罪で今すぐに処刑する。僕直々にだ」
「ひっ!」
「良かったね」と、何が良かったのかは分からないが愛らしく笑ったジェレミアをリヒトとミリアーヌは青い顔で見ていた。
「見ていられない者は目を閉じておきな」
そう言って鳴った音が思ったよりも静かで彼の剣の腕がいい事を証明した。
そう、冷静に考えているリヒトは自分が思ったよりもメリーに愛情を持っていなかったことに気づく。
(何の為に、シエラ皇女を蔑ろに……)
ただ、無くした家族に縋っていたのだろう。
家族の大切にした者を大切にしたかったのだ。
メリーに対しての情など、その程度だった。
余計に、リュカエルに支えられて涙を流すシエラを抱きしめるのが自分ではない事に後悔の念が湧いた。
「私の為にジェレミーの皇座を血に染めてしまったわ……ごめんなさい」
「シエラ……義弟君は涙を望んでいない。俺には分かるんだ」
「姉様、泣かせてごめんね」
口元だけを動かしてシエラに向けて言ったジェレミアの表情が、あまりにも頼りなくて、返り血がアンバランスだった。
けれどそんな皇帝を、彼らは恐れながらも愛おしく感じた。
家族を守る為に、正しい方法などないのだから。
ほんの一瞬だけ、彼が年相応の青年に見えた。
55
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。
愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。
ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。
ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。
二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。
時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し……
全ては、愛する人と幸せになるために。
他サイトと重複投稿しています。
全面改稿して投稿中です。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
売られた先は潔癖侯爵とその弟でした
しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。
潔癖で有名な25歳の侯爵である。
多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。
お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる