八年間の恋を捨てて結婚します

abang

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痴話喧嘩というにも稚拙

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駆けつけたアルベルトにメーデアは「アルベルト様……」と弱々しく抱きついた。

そんなメーデアに今までだったら甘ったらしく「どうした?」と尋ねるはずのアルベルトはメーデアの両肩をつかんで引き剥がすと慌てた様子で「今度は何をした?」と苛立ちを隠さない表情を見せた。



「何もしていないわ!私の心配はしないんですか!?」

「だから来ただろう?すぐに癇癪を起こさないでくれ」

「なんですって!?」

「王女殿下とレイヴ侯爵様に無礼を働き、やむを得ず別室にお連れしました」

「無礼なのはどっちよ!私なにもしてないわ……!」



アルベルトを案内した従者が大まかな説明をするとさらにメーデアは声を大きく反論したが、表情の変わらない従者は頭を下げて部屋を出ただけで彼女に反応を示す事はない。


納得のいかない様子のメーデアにアルベルトもまた構っている心の余裕が無いのか、落ち着かない様子で「陛下に呼ばれているんだ、その後にウィクトル大公との約束もある」と扉の方をチラチラと見ながら伝えた。


どうせ、結婚についての話だろうとメーデアは渋々と簡単に身なりを整えるが「ウィクトル大公との約束」については全く検討が付かなかった。

そんな事を考えている暇など無くアルベルトの後ろをついて歩くメーデアは内心ひどく緊張していた。

国王に一目会う機会など、今までの人生では考えられなかったし今日は印象こそ良くなかったが王女と女侯爵とも話せた。

社交会の大物達と言葉を交わし、こうして国王と謁見することもできる。自分の人生が侯爵夫人として劇的に変化していることに歓喜で震え、それと同時に先ほどの王女と女侯爵の反応を思い出して「上手くやれるだろうか?」と不安を感じていた。

こちらを振り返ることも無いアルベルトが何を考えているのか、メーデアは気付いているがそんな事気にもならなかった。
侯爵夫人になれる、それにルージュはもう他の男の婚約者だ。


自分より格の高い嫁ぎ先にモヤモヤするが、まぁルージュは大した事ないしウィクトル大公妃が自分達の言いなりだというのも気分がいいだろうし……なんて思いながら廊下を進んでいた数分前に戻りたいとメーデアは厳格な目で見下ろす国王夫妻を前に慣れないカーテシーの所為か、最悪と言えるだろう雰囲気の所為か小刻みに震え足がすくんでいた。



「どう言う意味でしょうか!?」



この場に立ち会うマルグリス前侯爵夫人と、表情の読めない前侯爵を見てから、受け入れ難い言葉を発した国王へとアルベルトは訴えかけるように言った。


「アルベルト、お主からはマルグリス侯爵の爵位を剥奪し臣下である空いたブリーズ男爵の爵位を与える。その言葉通りだ」


「そんな事……!マルグリス侯爵家が許すはずがありません!」


「そのマルグリス侯爵家及び、傍系の大半が合意し決定した事だ」



(何ですって……!?男爵?しかもブリーズ領と言ったら作物も育たない極寒の地。前領主の死後荒れた氷山地帯となった場所……)



崩れ落ちるアルベルトは「何故ですか……?」と力無く呟いたが、国王はチラリとメーデアを見て「選択肢を誤ったな」とだけ言った。

確かに「侯爵家」として今のマルグリス家がきちんと機能しているかといえば、全くの逆だ。
国王からしても国内にそう多くない侯爵家の失墜を黙って見過ごすわけには行かないのだ。


「人々からの信用を損なった時、それを取り戻すのは安易なことではありません。心改めなさい」


王妃が二人に優しく説くが、アルベルトは呆然とするばかり。


メーデアはわなわなと震えて「承服しかねます。家門会議の機会を下さい」と発言したがそこに丁度遅れて来た王太子が「ふっ」と小さく笑った。

パッと顔を上げたメーデアはまるで先ほどまでの歪んだ表情が無かったのように艶やかな表情でしおしおと潤んだ瞳と高く粘着質な声で彼に訴えかける。


「私の噂は存じ上げています。けれどそれはルージュ様が嫉妬で故意に流し巧妙に操作したものなのです…….!」


「へぇ」

「やめろ、メーデア」

「アルベルト様だってルージュ様には困ってたじゃない」

「別にーーー」


アルベルトの言葉に被すようにメーデアは猫撫で声で必死に苦しい弁解を続ける。


「まるで一人前の貴族令嬢のようですね」

「そんな……、意地悪を言わないで下さい。身分のことは自分でも理解しております」


無意識か故意か、崩れ落ちる仕草の際に淫らに投げ出した剥き出しの太ももと寄せた胸元はあからさまに王太子に向けられている。


「なんと無礼な……!」


穏やかな王妃がまるで悲鳴のようにそう言ったのを合図に国王は冷ややかに二人に言い放った。


「我が国の貴族としての品格を損なう行為の数々、家門からの不信任、加えて王族への不敬。けれどお主達も我が国民だ。ブリーズ領の復興に尽力し行いを悔い改めよ」


「ああああ、嘘よ!どうしてあんな荒れた地に……」

「メーデア!お前の所為だろ!男を見れば誘惑し、女を見れば優位に立とうとする!」


言い争う二人に「やめよ!」と語気を強めた国王が突き放すようにアルベルトとメーデアに言い放つ。


「寛大にもウィクトル公子の提案でブリーズ領の復興程度で済んでいる。婚約者のアザール伯爵令嬢への謝罪と今後の接近禁止の誓約を望んでいるので別室で済まるように」


「そんな……」


もう力無く頷くだけのアルベルトとは対象にメーデアはありったけの言葉を並べたが国王夫妻も王太子ももう言葉を発することは無かった。

すぐに公表され広まる前に覆そうと必死で髪を振り乱して抵抗するメーデアの所為で二人は騎士達に引き摺られるように謁見室を出る事になった。















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