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恩人と、友人の幸せ
スラリと背の高いレイヴ女侯爵は中性的な顔立ちにシンプルなドレスがよく似合っている。
友人なのか取り巻きなのかは分からないが、さっきまで居た他の貴婦人達と離れてどこかへ向かう彼女はきっとこの会場に居るはずの高貴な方々と会うのだろう。
助けてくれたお礼を口実に王族と顔見知りになっておこうと彼女を追って歩く。
(やっぱり……!)
「殿下、お久しぶりですね」
「シャーリー、会えて嬉しいわ!」
この国の唯一の王女、エスメラルダ王女が親しげにレイヴ女侯爵を名前で呼ぶ。王女に気に入られれば王太子の側妃になることも夢ではないかもしれない。
失礼のないように慎重に歩み寄って頭を上げぬまま二人に挨拶をする。「どう言ったご用件でしょうか?」と怯んでしまいそうなほど冷静なレイヴ女侯爵の声に「先程のお礼が言いたくて参りました」とメーデアはニヤケそうになる口元を引き締めながら伝えた。
「シャーリー、どなた?」
「さぁ、マルグリス侯爵の新しい婚約者だそうです」
「まだ少し早いですが……メーデア・マルグリスです」
照れたように装うメーデアは純情そうな雰囲気を演じたつもりだったがレイヴ女侯爵とエスメラルダ王女は思わずゾッとして青ざめた。
「なんて図々しいのだろう」それが二人の率直な意見だった。
彼女がどうやってマルグリス侯爵家の一員に入り込んだのかは皆が知っている
艶やかなドレスを個性として受け止めても、彼女の所作や言動から垣間見える人間性の所為か彼女自身をどうしても受け入れられない。
誰の話にも耳を傾けない当人達以外はみんな二人の行く末に気付いているし、前マルグリス侯爵と国王ならばもう手は打ってあるはずだ。
それにウィクトル大公とは親戚関係にあるが、エスメラルダ王女は彼が愛する人を苦しめたアルベルトとメーデアをこのまま放っておく訳がないと思っていた。
レイヴ女侯爵にとってルージュは友人でもあるが、彼女がまだ令嬢だった頃、爵位を継ぐ際に継父と戦う為に力と知恵を借りた恩人でもある。
ウィクトル大公とも切磋琢磨した友人関係にあるレイヴ女侯爵はやっぱり彼が二人を放っておく訳がないと思っていた。
「そう。別に助けた訳じゃないから気にしないで頂戴」
「シャーリー、行きましょう。ルージュ達が待ってるわ」
「あ……っあの!」
訝しげに振り返った二人にメーデアは間髪入れずに怯えた仕草をする。おずおずと切り出すのは本来はありもなしないルージュの悪事だ。
「ルージュ様は……公子様を大切にされていますか?」
「どう言う意味でしょう?」
レイヴ女侯爵はずっとアルベルトにルージュは勿体無いと思っていたし本人にも苦言を呈していたほどだ。
親友というほどではないが、友人でもあるテンタシオンの方が似合いだと思うし「大切にしない」なんてルージュに限ってはあり得ないと彼女の人柄をよく知っているからこそ言い切れる。
「ルージュ様ってよくおモテになるから……アルベルト様はいつも心配ばかりされていました」
「それの何が問題ですか?」
「なんて言うか……男好きで、その所為でアルベルト様に愛想を尽かされたんです。私に対しても厳しい人でしたし……」
「……」
呆れて何も言えなかった。
それでも続けるメーデアはとうとう涙まで浮かべて震える声で訴えかけた。
エスメラルダ王女に関しては既に退屈そうに扇子を開いている。
「仕事だって苦手のようで、執務はいつも私に任せきりでルージュ様は奔放に生活されていました……だから私、心配で……」
「テンタシオンお兄様がそれほど馬鹿な男に見えますか?」
エスメラルダ王女がメーデアを睨みつけると彼女は大袈裟にハンカチで涙を拭って「いいえ」と身を捩った。
「ルージュ様は魅惑的な方ですから……」
「言いたい事はそれだけかしら?それならば早く去って下さい。私はルージュをよく知っていますが彼女は聡明な女性です」
レイヴ女侯爵が冷たくメーデアを突き放すと、エスメラルダ王女は溜息をついて「行きましょう」と彼女を急かした。
「生憎ですが、貴女を庇ったのではなく大切な友人の婚約者パーティーの品格を守ったまでです。勘違いしないで」
レイヴ女侯爵とエスメラルダ王女が背を向ける。
メーデアの顔は真っ赤になり、屈辱と怒りに染まっていた。
「テンタシオン様はきっと後悔なさる筈です……!!」
「無礼よ、貴女がテンタシオンお兄様の名を呼ぶ事を誰も許していないわ。彼女をどうにかして頂戴」
騎士達がメーデアの両脇に立つ。
肩を揺らしたメーデアは「分かっているわよ!」と自ら会場に戻ることを選んだが彼女が連れられたのは王宮の中でも比較的質素で小さな部屋だった。
「こちらでお待ちください」
そう言った騎士が扉の前にいる所為でメーデアはパーティーに戻ることが出来なかった。
アルベルトが慌てて駆けつけたのは数十分も後の事だった。
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