元カレの今カノは聖女様

abang

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別れてほしい王子様

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「イブリア……私と別れてほしい」


全然申し訳無さそうにしない、目の前の男は私がこの間まで愛してやまなかったルシアン・ランベールで王太子でもある。



「理由をお伺いしても……?」



「聖女が……セリエが気になるんだ。純粋な彼女を放っておけない」



(幼い頃から婚約者として過ごした私達がこんなにあっさりとした別れをするなんてね……)


「これ以上このような気持ちのままそなたと共に居る事は失礼だと……」



「分かりました。ですがこれは私一人で決められません……家に持ち帰っても宜しいでしょうか?」


言い訳がましい言葉をこれ以上聞いていられずに、半ば遮るように答えたイブリアに少しだけ傷ついたような表情をするルシアンに苛立った。


(なんでそっちがそんな顔をするのよ)


「ああ、勿論だ。国の決めた婚約だからな……イブリアの気持ちを聞きたかっただけだ」



(なら、愛しているから嫌だと言えば取りやめるのかしら?)


「おかしな事を言うのね、選択肢なんて無いじゃありませんか」



「イブリア、怒っているのか?やはり嫉妬でセリエを虐げたのは君だったのか……!?」


「はぁ……私が手を下すならばそんな生温い事をすると思いますか?これ以上お話がなければ失礼致しますわ」



呆れた様子でそう言ったセリエに、ハッとしたルシアンは「すまない」とイブリアの背中に呟いた。




「イブリア様……、王妃様がお呼びです」



慣れた王宮の廊下で私を引き止めたのは王妃付き侍女長のマーサで彼女は王宮で厳しい王太子妃教育、そして王妃教育を受ける私に優しくしてくれた人だ。


彼女の悲しそうな表情から今から起きる良くない事が予測出来たが、そのはどのレベルで良くないことなのかが重要だった。




(婚約破棄だけならば、寧ろまだ今の段階で喜ぶべき所よね)



もし、聖女には別の仕事があるから今からでは王妃教育が間に合わないなどと言われて側妃にでもなれと言われてしまえばこの先待つのは地獄。


そうならない為には一度で成立した婚約を白紙にする必要があった。


そうして、さっさと領地に引っ込めば冷遇されながら公務の為だけに在る愛されぬ側妃などという結婚からは遠ざかる事ができるだろう。



イブリア達の母親である妻を早くに亡くした父と、兄はイブリアを溺愛しており家に帰った所で手放しで喜んでくれるだろう。


そう考えてている内に、王妃の部屋の近くまで来ており侍女は立ち止まってひっそりと小さな声でイブリアに伝えた。



「イブリア様、例え殿下を愛されていても、どうか王宮からお逃げ下さい」



マーサも同じことを考えていたのだろう、イブリアが泣いて縋ると思っているだろう王妃は、それならば……と公務の為に側妃になる案を出すだろう。

そうなる前に、身を引くのが今イブリアにとって一番良い策なのだと言いたいのだとすぐに分かった。


「マーサ、大丈夫よ。ありがとう……貴女が居てとても救われていたわ」




「……お元気で」

「ええ。どうか無礼に振る舞う今からの私を許してね」


「ふふっ、理解しておりますよ。いってらっしゃいまし」





温かい彼女に見送られて、開けた扉の向こうに豪華なティーセットを広げて座る王妃は優雅で、高圧的だった。



「王妃殿下にご挨拶を申し上げます」


「あぁ、座らなくていいわ。そのまま聞いて頂戴」


(いくらなんでも無礼すぎるわ……)



「ご用件は?」


「あら、あれ程厳しくしたのに礼節を忘れたの?」


「それは王妃殿下にも言える事だと思いますが」


「……っ貴女!まぁいいわ。ルシアンと別れて頂戴」


「……」


決して、ショックで黙り込んだ訳では無かった。

慰謝料は請求できるのだろうか?彼方の有責で別れて貰えるのだろうか?と損益の計算をしていただけだったが、王妃は勝ち誇ったようにわらった。



「そちらのご実家にもお伝えしてあるわ。イブリアの心に任せると仰っていたわ」


「そうですか……」



「これを受け取って頂戴、手切れ金よ。それでもうあの子達には近づかないで。嫉妬に狂う令嬢なんて見苦しいわよ、聖女の方がよほど妃に相応しいわね……」



「分かりました。ではお受け取り致します」


(えらく奮発したわね!それほど嫌われていると言う事かしら)




「……えっ!?」

(お金は余る程ある筈……プライドが傷ついて断ると思ったのに……)



「何か?」



「あ、貴女ルシアンを愛しているんじゃないの!?」



「そうでしたが……先程ほど、殿下から他の方を想う気持ちを打ち明けられたばかりですので、さほど驚きません」


(一度も驚く訳ないですよ王妃様……皆が公認中の浮気なので……)




「……勝手になさい!二度と顔を見せないで!」



「仰せのままに。今までありがとうございました」


そう言って清々しいといわんばかりに微笑んだイブリアをポカンと眺めるしかできない王妃は珍しく感情を丸々に出してイブリアに投げつけるように声を荒げた。



「嫉妬などに振り回されて……台無しにするなんて!!貴女に期待していた私が馬鹿だったわっ」




「嫉妬などする理由がありません。元々殿下は私を愛しておりません故……お元気で、お身体にはお気をつけて下さいね」


(いくら厳しかったとはいえ、急に嫌えないわよねぇ)










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