元カレの今カノは聖女様

abang

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仲間外れの幼馴染

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社交会は貴族の……女性にとっては特に義務であり、立派な公務とも言えるだろう。



イブリアもまた、この国を支える家門のうちの一つバロウズ公爵家の令嬢であり社交会シーズンである今、やむを得ず夜会に出席している。



聖女セリエとルシアンのロマンスが噂になってからは、まだ一度も話した事の無い聖女に嫉妬し、彼女を虐げていると身に覚えのない噂で評判を落とされ家門に申し訳なく思っており、これ以上家門に迷惑がかからぬようになるべく身を潜めた。



(噂など一時的なものよね、領地に帰るまでの辛抱よ)




勿論、イブリアとしては身に覚えもない話に一々付き合ってやる義理は無いと思っているのだが……


婚約破棄の発表が何故かまだされていない上に、聖女をエスコートして入場した王太子によって会場の好奇の目線は一気にイブリアに向けられた。




「そういえば……イブリア様はお兄様と入場されていましたわ」


「王太子殿下はやっぱり聖女様を……」


「嫉妬深いイブリア様に愛想を尽かしたとか……」




また面倒なことが起きると落胆しているイブリアの隣に守るようにそっと立ったのは、イブリアの兄だった。




「お兄様……」


「イブ、大丈夫か?」


イブリアと同じ淡い桃色の髪と、深く吸い込まれてしまいそうな輝きを放つ、鮮やかに輝く瞳はバロウズ家特有のピンク色だ。



その容姿もまたイブリア同様、真っ白な肌に端正で少しだけ上がりがちな目尻が猫のように魅惑的であった。


イブリアが、水々しい唇で弧を描いて頷くと少しだけ兄も表情を緩めた。




「なら、いい。挨拶だけ済ませたら帰ろう」


「ええ……ありがとうお兄様」



暫くは、兄カミルのお陰で王太子や聖女、その取り巻き達とも最低限の挨拶以外は関わらずに済んだが兄はバロウズ家の小公爵であり父の代理で出席しているのでどうしてもイブリアの傍にずっとはいられずに心配そうにイブリアへと視線を向ける。


「大丈夫よ、少し風に当たってくるわ」


「分かった、なるべく早く迎えに行くよ」





バルコニーに出ると、どうやら先客がいたようで濃紺の髪が夜に馴染む、スラリとしたその男には見覚えがあった。


夜空のような濃紺の瞳は無機質で、まとまりのある髪は清潔感がある。



宰相を務めるトンプソン侯爵家の嫡男である彼は王太子の最側近と言ってもいいだろう彼もまた聖女に想いを寄せる男の一人なのだ。



「ティアード・トンプソン卿……」



「貴女でしたか……。殿下ならここには居ませんよ」



綺麗な二重瞼の切れ長の目が、探るようにイブリアを流し見る。



「ええ、居ては困るの」

(また、面倒な事になるでしょう)



訝しげにイブリアを見るその瞳には警戒心が浮かぶ。



「エスコートの件で話があるのでは?」


「いいえ、無いわ」


「……」


「貴方が噂を信じるのも、疑うのも勝手だけれど。王太子妃の座に興味はないの、勿論、王妃の座にもね」



「ルシアンにもか?ははっ……まさか!」




ありえないと言うように笑ったティアードがそう思うのも無理は無いだろう。

幼い頃からずっとイブリアはルシアンだけを一途に愛してきたのだから。


だがそれも、上辺だけの対応と聖女との浮気によって疲れ果てたイブリアにとってはもう過去の話となってしまった。



「信じて貰わなくても結構よ、ただ人の居ないところで兄を待ちたいだけだからまだ居るなら場所を変えるわ」



「セリエに危害を加えるつもりなら……」



「もう一度言うわね、興味ないの。婚約は破棄される筈よ」

(うーん、かえって怪しまれるかしら?)



真意が分からず言葉を選んでいるのだろう、睨みつけるようにイブリアを見るティアードにイブリアはふわりと微笑んだ。


ティアードは昔から真面目で、ルシアンへの忠誠心も強い。
幼い頃から遊び相手として選ばれた彼らは、イブリアにとっても幼馴染なのだが、いつからかすっかりと壁ができてしまった。



(昔の話よね、今はもうこんなにも嫌われてしまってるのだし)



「私を蔑ろにする人をずっと愛せると思う?ただ……もう疲れたのよ」


王太子妃教育を受け出してからは久々に見たイブリアの柔らかい表情。

綺麗な顔立ちが愛らしくも悲しそうに微笑む。



まるで、突き放すような態度に違和感を覚えたがもうこれ以上話すつもりはないと言うようなイブリアの雰囲気にティアードは押し黙った。



よく考えれば、イブリアは幼い頃はよく笑う子だった。

このように一人でいるようになったのは、いつからだった?

アカデミーに入学する時は皆で国を支えようと笑顔で誓ったし……



(アカデミーに入ってからか?何かが変わったのか?)


初めはイブリアが人を虐げるなんて信じられなかったが、イブリアをやけに怖がるセリエの様子が異常で信じざるを得なかった。


ところが久々に話した彼女は嫉妬どころか、今から居なくなってしまうかのように投げやりで、自分達へ一線を引いたのが分かるのだ。


「なぁ、イブ……」


「へっ?」


「あ、いや。イブリア嬢……何処か遠くに行くのか?」



「……いいえ」

(領地はそんなに遠くないものね)



「そうか。悪かった、もう行く」



「そ」


振り向かずにシッシッと猫でも追い払うかのように手を振ったイブリアに何故かもう疑念や腹立ちははなかった。






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