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意外な反応に少し
しおりを挟む「どう考えてもおかしい……」
何がおかしいというのだろう?
自分でも笑ってしまうほどに安っぽく自分勝手な考えばかりが脳内に浮かぶ。
王子であれば、慈悲深くも美しい聖女を娶り、国を導く良い王になるのだと一度は夢見たことはある筈だ。
多くの物語や、他国の王族達の馴れ初めが大抵そうで幼い頃は私も憧れていたものだったが父上と母上の見初めた私の婚約者は私の幼い頃の憧れさえも一瞬で吹き飛ばしてしまう程に、美しく愛らしい少女だった。
家門の遺伝からしてもどちらかといえば聖女とはかけ離れた派手な攻撃魔法を 得意とする彼女だったが、そんなイブリアを魔法も華やかで美しいのだと自慢に思っていた。
そしてイブリアは、時に鬱陶しく感じる程に私を愛していた。
王太子妃教育によって、殆どを王宮で過ごし幼い彼女には似合わないハイヒールは血が滲み、扇子で叩かれた手の甲は赤くなっていたにも関わらず彼女はいつも吊り目がちな目を輝かせて、剣術の授業を終えた私に
「お怪我はありませんでしたか?」と聞いた。
自分よりも私を優先し、王太子妃教育を終えるとすぐに王妃教育を終了させたイブリアと競える令嬢は誰一人といない筈だった。
アカデミーに編入してきたセリエは神殿により発掘された聖女だった。
初めは遠巻きにその存在を認知している程度だったが、市井育ちのセリエは誰に対しても気さくで距離の詰め方が上手く、それでいて無礼ではなかった。
幼い頃、男ならば誰でも恋するだろう物語の聖女様そのもののセリエはあっという間に皆を虜にした。
忙しいイブリアとは中々一緒にいる時間が無かった為、紹介する暇もなくよくセリエとふたりで話すようになったがある時セリエは泣いていた。
「イブリア様という方は……殿下の婚約者様なのですね」
「イブリア?ああ、そうだ。彼女はとても……」
「殿下に色目を使うなと、突然怒鳴られて……私そんなつもりじゃなくて、謝りたいのですが……」
自分とセリエの立場から、物語を連想してロマンスを想像する者達が居るのは薄々知っていたがまさかイブリアがそれを信じるとは思わなかった。
セリエと居る時間はとても楽しくて、執務に追われる心が癒された。
「時には休んでもいいのですよ、殿下。人間は皆完璧ではありませんもの」
「セリエ……ありがとう。でも私は」
「いいから、私の膝で良ければ使って下さい」
そう言って顔を真っ赤にするセリエが可愛くて笑った。
「遠慮しておくよ。けれどセリエは本当に優しいのだな」
イブリアは愛らしい表情を潜め日に日に、貴族らしい仮面のような表情になっていく。
ヒールはもう身体の一部のように履きこなしているし、手の甲も綺麗だ。
それでも、執務や社交、母上とのお茶会に父上との食事……魔法や勉学でも常にレディの中では一番だった。
未だに人生の殆どを私の為に捧げる彼女に妙な罪悪感を抱くようになった。
そして同時にセリエはよく泣くようになった。
(私の所為だ……)
嫉妬に狂うイブリアの噂は日に日に酷くなり、セリエも笑顔が減るばかりで申し訳なくなった。
嫉妬に狂うイブリアの所業を聞くたびに、彼女と話すのが嫌になった。
政略的な婚約だと言う事もあったが……元々、いつも堂々として美しい彼女に圧倒されて殆ど話せていなかった。
(そもそも、いつも何故か胸が苦しくなって窮屈なんだ、イブリアは)
母上に至っては、聖女の仕事で何度か会ったセリエの気立の良さにすっかり気に入ってしまったようで、イブリアが嫉妬に狂わされ彼女を虐げる事をとても怒っていた。
父上は何も言わなかったが、聖女が伴侶となる事は国益になる。だから母上に反論もしなかった。
セリエを気になる気持ちのまま、イブリアを縛り付けているような気分だった。妙にいつも落ち着かなくて遂に別れを切り出した。
もう解放するべきだ。
自分の優柔不断な気持ちが恥ずかしくて、平然としている振りをした。
私を愛し、私の為に生きる彼女はひどく傷つくだろうと彼女にかける言葉も用意していた。
なのに……
「分かりました」と平然とした様子で言った彼女の言葉が妙に遠く感じた。
何故、あんなにも簡単に受け入れられたのか?
あれほどまでに私を愛していたはずなのに。
何故かとても胸が苦しかった。
自分勝手な思いではあるが、何故か彼女には私を愛したままで居て欲しかったのだろう。
私だけを見つめていた魅惑的なピンク色の瞳は、もう私をその世界から締め出してしまったかのようだった。
(私はセリエを笑顔にしてやりたいと思った筈なのに)
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