元カレの今カノは聖女様

abang

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前夜祭は参加必須

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「はぁ……三日も祭があるのに前夜祭だなんて馬鹿げてるわ」


「俺もそう思うよ……」


窓から使用人達が馬車の準備をしているのを見ながら、げっそりとした表情で呟く淡い桃色の髪が揃いの兄妹は別に社交会が嫌いな訳ではなかったが、今は徐々に人々の視線からフェードアウトしたい時期なのだ。


「ディートは?」

「いつもの顔のまま、イブの選んだ礼服を着せられているよ」

いつもの無表情のままドレスアップされているだろうディートリヒを想像して少し笑う二人の背後から聞こえたのは話の張本人だった。



「お待たせしました」


「「ディート……」」


「イブリア様……そのドレスは……」



「ディートと合わせたのよ、お兄様は婚約者のマルティナ様とお揃いなの」


ディートリヒの瞳のように星空を閉じ込めたようなラピスラズリの石を使ったアクセサリーで揃えたイブリアと、イブリアの瞳の色に似たピンクサファイアの石を使った装飾品で揃えたディートリヒの装いはどちらも濃紺を基調とした生地に繊細な刺繍が美しい。




「それは、僕の瞳の色を……」


「ええそうよ。建国祭のパートナーは、ディートでしょ?」


「……僕にも貴女の色が飾られています」


「えっ?それは私が選んだんじゃないわ……誤解しないでね?貴方に私の色を押し付けるようなそんな厚かましい事を…」


少し焦った様子で弁明するイブリアが可愛くてディートリヒはふと笑った。
その笑顔にカミルまでもが思わず見惚れてしまう。


「大丈夫です、僕が自分で選びました。僕の主君であり大切な貴女の色を身につけたくて……お許し下さいますか?」


(ディート……その笑顔は狡いぞ。顔がいい自覚が無いのは問題だな)


カミルは心の中でディートリヒにヤジを飛ばす。
ディートリヒにそのような笑顔で微笑まれてしまえば、ほとんどの女性は骨抜きになってしまうだろうと。


けれどもイブリアは鈍感な所がある上に、カミルやディートリヒと日常を過ごしているので耐性があるのだろう、骨抜きにされる事はない。

それでも微かに頬を染め、嬉しそうに細められた目はディートリヒだけを見つめていた。


「勿論よ、とても嬉しいわ……ディート」


「あーなんか俺もマルティナに会いたいよ」


「お兄様は早くマルティナお姉様をお迎えに上がって」


「そうするよ……ディート頼んだぞ。くれぐれもには注意してくれ」


「もう、子供じゃないのよ……」


「あまり多く飲むなよ」


「分かっているわよ…ふふっ」


「大丈夫だ、僕がイブリアお嬢様の側にいる」

「ええ、お願いね?ディート」



「頼むぞー」とゆったりと降りて行くカミルを見送った二人もまた、最終準備の為にその場を後にした。



王宮では、王妃に呼び出された聖女セリエが作法の最終確認やドレスの調整を行っていた。


「セリエ、貴女にとても似合っているわ。さぁ教えた通りに歩いてみて」

「はい、王妃様……」


真っ直ぐに、背筋を伸ばして優雅に歩く。たったそれだけなのだ。それでも幼い頃から身体に作法が染み付いたイブリアとセリエではその歩き姿や姿勢、雰囲気までもが雲泥の差であった。


眉を顰めて、少し声を低めた王妃はため息をついてセリエを睨んだ。


「もう少し、本気でやって頂戴。聖女といえどそのような所作でルシアンに並べば笑いものよ……あの者はもっとすぐに覚えたわよ!」


王妃の指すあの者とは、きっとイブリアの事だろう。


何を学んでも比較される上に、自分は全く上達する様子がない。
子息達を誘惑する仕草はあんなにもしなやかに甘美に振る舞えるのに、イブリアごときに出来る、王妃になるべく者の美しくも威厳ある所作ができないのだ。

セリエは内心苛立っていた。

優しいばかりだった王妃は、ルシアンといざ交際するとなると途端に厳しい顔を見せるようになった。



(私は聖女として祈りを毎日捧げたり、慰問を行ったりと仕事があるのよ!ルシアンも私を放って何をしているのかしら……)



結局、王妃もセリエもお互いに不満の残る状態のまま時間切れとなり前夜祭の夜会の時間はやって来た。


「セリエ、美しいな……」

「そんな……私なんて、ルシアンの方が素敵よ」


そう言って頬を染めるセリエの姿に周囲は「愛らしい」「なんて清純な……」と感嘆した。



「皆、君の美しさを讃えているなセリエ」

「……ルシアンったら今日はとても上手なのね」


セリエの純白のシルクとレースをふんだんに使った高貴な生地に、黄色のバラの装飾を施したドレスは彼女の清純さを引き立てていた。


セリエのドレスに合わせた白を基調とした装いのルシアンもまた、彼の王族の証である金髪と金色の瞳によく似合っている。


「まぁ……あれは殿下とお揃いかしら?」

「では、やはりイブリア様とは婚約を解消されるのか?」


貴族達の興味はやはり高貴な者達のゴシップで、渦中のイブリアの家門である、バロウズ公爵家の入場を知らせる声に会場はシンとした。



「セリエ様と殿下を見たら……イブリア様はまた嫉妬されるんじゃ……」


「シッ!もう入場されるだろっ」


「セリエ様、お可哀想に……」


ティアードや、レイノルドもまた警戒するように入場口へと視線を向けた。


父イルザが入場したのに続き、兄カミルと婚約者のマルティナ


そして……その後に続くドレスコードを揃えたイブリアとディートリヒの入場に会場は一瞬どよめく。



(……なに、あれ)


悪女の筈のイブリアのその穏やかな表情と、凛々しく美しい姿に皆がため息をついて見惚れる。


隣の美しい男は一体誰だと誰かが言い始めると、ルシアンもまた険しい表情でイブリアとその男を睨みつける。




(なによその表情は、…….嫉妬でもしてるみたい)

セリエは思わず舌打ちをした。




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