元カレの今カノは聖女様

abang

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夜会の主役は私よ!

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「ルシアンっ…….」

「あっ…すまない」


「イブリア様ったら……貴方と別れたばかりなのにもう……」


淑やかに、心底ルシアンを想って悲しんでいる風にしか見えないセリエの内心は久々に姿を現したイブリアにちゃんと自分を引き立てる為の悪役をこなしてもらう計算でいっぱいだ。


けれど、ルシアンもまた目の前でお揃いの装いで仲睦まじそうに入場したイブリアとディートリヒへの嫉妬でいっぱいだった。



「彼は、イブリアの護衛騎士だよセリエ」

「へぇ……そうなの」

(じゃあ、身分は低いのね……)


セリエにとって、いくら容姿が完璧であっても身分が低い男では興味が無い。


聖女に任命されてやっと、田舎から出て高貴な身分の男達の仲から結婚相手を探せるようになったのだ。


至れり尽くせり、今のような贅沢で安定した生活を送るには唯の騎士が相手では無理なのだ。


けれども、ルシアンの嫉妬の表情や王妃の言葉を思い出すとイブリアを苦しめてやりたい気持ちになった。



(護衛騎士が、元彼を奪った女を好きになったら笑えるわよね)



さらりとした清潔感のある黒髪と清涼感のある目元と夜空を閉じ込めたような瞳は一度見たら忘れられないだろう美しい容姿によく映えている。



スラリと長い手足に鍛えられた体格は、憎たらしいかな洗練されたイブリアの隣に並んでも見劣りしない。


一方イブリアは作り物かと見紛えるような美しい容姿に透き通るようなは白い肌、唯一無二のバロウズの桃色の輝きはまるで隙がない。



色んな所から聞こえる無礼な声にも少しも崩さない表情。



凛とした威厳ある雰囲気は生まれながら公爵令嬢である彼女だけのもので、あれこそ王妃がセリエに求めるものだろうと苛立った。



容姿ならば、セリエもまた慈愛を感じる優麗な新緑のような瞳にバランスのとれた小柄で守ってあげたくなるような華奢な身体は決して女性であることを忘れさせないような柔らかく甘美な雰囲気で纏われている。



純真な表情に淡い桃色の唇が放つ声は優しく、聖女という職業がセリエ以上に似合う人が居るのかと言うほどに長く、波打つ神秘的な銀髪が美しい。



(決めたわ。私の騎士にする)



「……ルシアン、知り合いなのだし一応声をかけてあげましょう?イブリア様がどうやら孤立しているように見えるわ」



「ああ、そうだな」



其々、形式上の挨拶に周っているものの聖女を虐げる嫉妬深い悪女イブリアと言葉を交わす者は少ない。


「イブリアお嬢様、何か飲み物を取ってきます」

「ありがとう、ではそこで待ってるわ」

「すぐに戻ります」


ディートリヒを待つイブリアとばったりと会ったのはティアードとレイノルドだった。


「イブリア嬢」

「……」



「お二人とも、ご機嫌よう。どうか夜会を楽しんで」

(お願いだから、構わず行って……)


何か言いたげなティアードと、明らかな敵意を向けるレイノルドに長年鍛え上げられた完璧な公爵令嬢の笑顔で対応する。

内心、早く立ち去ってくれと願いながらも若干早口で捲し立てるよう挨拶するイブリアは表情と所作だけであれば文句のつけようがない。

けれども、苛立った様子でイブリアを引き止めたのはレイノルドだった。


「よく、堂々と顔を出せたねイブリア嬢」

「やめろ、レイノルド」

「ティアード、君この間からどうかしたの?」

「考え無しに突っかかるな」


(ほんと、何がしたいのかしら……)



「セリエを苦しめるのはもうやめなよ、それに殿下を早く解放するべきだ。殿下はもう君を愛してないんだから!」



「レイノルド!」

(違う、きっと婚約をきちんと区切らないのは殿下の方だ)



「……それは私も同じよ。ほんとに解放するべきだと思うわ」



「何を言ってるんだ…!?」


「……」

(やはり……殿下は)


表情を変えずに微笑んで、その場を去ろうとするイブリア。

少しだけいつもより低いディートリヒの声が背後から聞こえる。



「イブリアお嬢様、そちらはご友人ですか?」


「ディート……ええ、ただの知り合いよ」


「はぁ!?」


レイノルドが知り合いという言葉に過剰に反応し怒りの表情を露わにした所で場違いな明るい声がティアードを呼ぶ。



「ティアード?私も皆様とお話したいわ!」


「セリエ……いや、違うんだ」

「ずるいわ!私とルシアンだけ仲間外れにして……」



「イブリア……」

ゆっくりと近づいてくるルシアンに一歩下がるイブリアは、後ろに居るディートリヒにぶつかると彼はイブリアの腰に手を軽く回して守るように支える。


「大丈夫ですか?」

「ええ、ありがとう」


慈しむようなディートリヒの視線に答えるイブリアの視線もまた柔らかい。
ルシアンはどす黒い感情が渦巻き吐き気がした。




「ディートリヒ……!」


「ルシアン殿下にご挨拶を申し上げます」


「少し、イブリアと話があるんだが」


「殿下にはエスコートされているお方が居る筈ですが」


ディートリヒは隣でティアードの腕を取るセリエをチラリと見る。


(彼女には嫉妬しないのか……?)



「殿下にご挨拶を申し上げます。けれどお話する事はありません」


「イブ!」


(レイノルドは一体何なの?ほんとにどうにかして)


「レイノルド卿……失礼ですが……」


イブリアがレイノルドに返事をしかけた時、場違いな声がまた一つ増える。



「あれ?ルシアン殿下!レイノルド!皆、ここに居たのか」



「「セオドア」」

「セオドア……あのね!皆が楽しそうだから来たのに、新しいお友達のことを紹介してくれないのよ?」


「新しい友達?……あぁ」


(ディートリヒの事か?)



「残念だねセリエ、イブはお父上が探して居たようだよ」


「……そう、ありがとうセオドア卿」

「では、行きましょうイブリア様」


「待って、自己紹介くらい……」

そう言ってディートリヒの腕に咄嗟に飛びついたセリエに驚くルシアンと、ティアード達。


突然、身体の奥から寒気がするような魔力の流れを感じる。


「ディート…….」






振り返ったディートリヒの瞳は凍えるほど冷たく、その声は血を這うように低い。思わずその場の全員が黙り込んだ。


「なっ!?」


「……失礼致しました。では」


「ディート、行きましょう」


(またあとで)

セオドアの口元は確かにイブリアに向けてそう動いていた。



(いやよ)


完璧な微笑みで、同じように口の動きだけでそう言ったイブリアをセオドアはキョトンとした表情のままただ見送った。








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