15 / 56
愛した彼女の矛盾
しおりを挟むティアードは違和感を感じていた。
(確かにセリエから好意を感じていた。なのに……)
まるで当たり前のようにルシアンと並ぶ彼女は、ルシアンの恋人のように扱われている。
聖女だから当たり前なのかと納得する反面、何故だと問い詰めたい気持ちの時もある。
"私、ティアードといるととても安心できるの……聖女はいつも皆に平等でいなきゃいけないのに……私っていけないわ……"
そう言って肩に頭を預けて甘えるセリエに、当然自分は選ばれるのだろうと思っていた。
レイノルドは盲目的な聖女信者だが、だからと言って寄り添って無邪気に眠るにはセリエもレイノルドももう子供ではないので不自然だろう。
(二人の時は、私を愛しているように感じるのに。皆で居るとまるでそれが夢だったのかと思ってしまう)
先程、ディートリヒに飛びついたのは無邪気からなのかそれとも彼があまりにもいい男だからなのか?
(いや、寄そう……セリエを信じないと)
考えを振り切って視線を上げると、離れた場所にいるイブリアがふと視界に入る。
凛とした威厳ある佇まいは、高貴そのもの。
自分は彼女に憧れて、常に背中を追っていた筈だった。
彼女はいつから嫉妬に狂ってあんな風になってしまったのだろうか……
(いや、どんな風にだ?)
感じる違和感はセリエにだけではなく、イブリアに対してもだった。
どう見ても、イブリアは憧れたイブリアそのままなのだ。
けれどもセリエは確かに涙していた。
ふとイブリアと目があって、どきりとする。
(なんで心臓の音が早くなっているんだ)
思わず、ルシアンと並ぶセリエを見るが、やっぱり感じる彼女への違和感をかき消すように頭を振った。
イブリアがあまりにも完璧だからか、何故か今日に限ってセリエがまるで娼婦のような振る舞いに見えた。
(違う、そんな事はない!)
そして、ルシアンの視線がイブリアばかりを捉えている事にひどく苛立った。
(ずっと、興味がなかった癖に)
「え……私は今何を考えたんだ、酔っているな」
ティアードは飲みかけの酒に口をつけるのをやめた。
そんなティアードを会場の端のソファに座って観察するレイノルドはもまた、妙な違和感に駆られていた。
(イブが変わったというより……僕たちが変わった?)
それとも、セリエが変わったのか。
確かに自分に好意を示していたセリエは、ルシアンの交際相手として隣に並んでおり、近頃は妙にセオドアに構うのだ。
"イブ……疲れたろ?"
"テディ、ありがとう"
女性が好きで、扱いが上手な癖にイブリアの前だと不器用な友人を思い出して少し可笑しくなる。
自分にとってもイブリアは友人だった。
真っ直ぐな所、強情なところ、堂々と凛とした姿、その内面までもがレイノルドにとって友人であり憧れ、尊敬する人だった。
(何度も説教くさい事ばかり言ってた癖に自分が虐めなんて……)
セリエに恋をしたのは自然にだった。
令嬢らしくない天真爛漫で、心優しい彼女に好意を向けられて自分もすぐに好きになった。
(殿下の腕にはしたなくぶら下がってるのは、誰だ?)
彼女は時折、ティアードを愛しているようにも見えるし
殿下の恋人であるかのような振る舞いをし、扱われている。
セオドアを追いかけているように見えるのに、
二人の時は僕だけのセリエなのだ。
なのに……
(さっきのは何だ?しかもあれはディートリヒ卿……)
ルシアンがディートリヒをひどく嫌っていたのは皆が知っている。
何故皆気づいていないのか?
ディートリヒがイブリアの側にいると言うことは、彼女がルシアンとの婚約よりもディートリヒを側に置く事を選んだという事、もしくは……
ルシアンがセリエを選んだという事……
どちらにせよ、イブリアとルシアンの仲はもう終わっているのだろう。
セリエがディートリヒに興味を持つのは何故か?
(何だか、僕はセリエがわからなくなってきたよ)
イブリアはほんとうに変わってしまったのか?
元々説教臭くてうるさい奴だったが、あのように何の感情も籠らぬ瞳でただの知り合いだと言われた事は一度も無かった。
その言葉になぜか酷く苛立った。
憧れでもあり、姉のように慕っていた彼女はセリエとルシアンを……僕たちを拒絶するような態度だった。
(本当に虐げていたのだろうか?)
まるで、セリエの方がイブリアをあえて無視しているように見えたのだ。
迷う二人の心を知らぬセリエは今もいつも愛らしい笑顔でルシアンと並んで沢山の人に囲まれている。
それでも、ディートリヒとイブリアをふと見たセリエの瞳がギラリと光ったそんな気がした。
そして突然、とある令嬢の何気ない一言でそんなセリエの瞳は鋭く細められる。
「聖女様って人に安らぎを与える力が備わっていて皆、聖女様に幸福感や好感を持つんですって!だからかしら……私もとても聖女様が好きなんです!」
163
あなたにおすすめの小説
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。
愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。
ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。
ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。
二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。
時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し……
全ては、愛する人と幸せになるために。
他サイトと重複投稿しています。
全面改稿して投稿中です。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる