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愛した彼女の矛盾
しおりを挟むティアードは違和感を感じていた。
(確かにセリエから好意を感じていた。なのに……)
まるで当たり前のようにルシアンと並ぶ彼女は、ルシアンの恋人のように扱われている。
聖女だから当たり前なのかと納得する反面、何故だと問い詰めたい気持ちの時もある。
"私、ティアードといるととても安心できるの……聖女はいつも皆に平等でいなきゃいけないのに……私っていけないわ……"
そう言って肩に頭を預けて甘えるセリエに、当然自分は選ばれるのだろうと思っていた。
レイノルドは盲目的な聖女信者だが、だからと言って寄り添って無邪気に眠るにはセリエもレイノルドももう子供ではないので不自然だろう。
(二人の時は、私を愛しているように感じるのに。皆で居るとまるでそれが夢だったのかと思ってしまう)
先程、ディートリヒに飛びついたのは無邪気からなのかそれとも彼があまりにもいい男だからなのか?
(いや、寄そう……セリエを信じないと)
考えを振り切って視線を上げると、離れた場所にいるイブリアがふと視界に入る。
凛とした威厳ある佇まいは、高貴そのもの。
自分は彼女に憧れて、常に背中を追っていた筈だった。
彼女はいつから嫉妬に狂ってあんな風になってしまったのだろうか……
(いや、どんな風にだ?)
感じる違和感はセリエにだけではなく、イブリアに対してもだった。
どう見ても、イブリアは憧れたイブリアそのままなのだ。
けれどもセリエは確かに涙していた。
ふとイブリアと目があって、どきりとする。
(なんで心臓の音が早くなっているんだ)
思わず、ルシアンと並ぶセリエを見るが、やっぱり感じる彼女への違和感をかき消すように頭を振った。
イブリアがあまりにも完璧だからか、何故か今日に限ってセリエがまるで娼婦のような振る舞いに見えた。
(違う、そんな事はない!)
そして、ルシアンの視線がイブリアばかりを捉えている事にひどく苛立った。
(ずっと、興味がなかった癖に)
「え……私は今何を考えたんだ、酔っているな」
ティアードは飲みかけの酒に口をつけるのをやめた。
そんなティアードを会場の端のソファに座って観察するレイノルドはもまた、妙な違和感に駆られていた。
(イブが変わったというより……僕たちが変わった?)
それとも、セリエが変わったのか。
確かに自分に好意を示していたセリエは、ルシアンの交際相手として隣に並んでおり、近頃は妙にセオドアに構うのだ。
"イブ……疲れたろ?"
"テディ、ありがとう"
女性が好きで、扱いが上手な癖にイブリアの前だと不器用な友人を思い出して少し可笑しくなる。
自分にとってもイブリアは友人だった。
真っ直ぐな所、強情なところ、堂々と凛とした姿、その内面までもがレイノルドにとって友人であり憧れ、尊敬する人だった。
(何度も説教くさい事ばかり言ってた癖に自分が虐めなんて……)
セリエに恋をしたのは自然にだった。
令嬢らしくない天真爛漫で、心優しい彼女に好意を向けられて自分もすぐに好きになった。
(殿下の腕にはしたなくぶら下がってるのは、誰だ?)
彼女は時折、ティアードを愛しているようにも見えるし
殿下の恋人であるかのような振る舞いをし、扱われている。
セオドアを追いかけているように見えるのに、
二人の時は僕だけのセリエなのだ。
なのに……
(さっきのは何だ?しかもあれはディートリヒ卿……)
ルシアンがディートリヒをひどく嫌っていたのは皆が知っている。
何故皆気づいていないのか?
ディートリヒがイブリアの側にいると言うことは、彼女がルシアンとの婚約よりもディートリヒを側に置く事を選んだという事、もしくは……
ルシアンがセリエを選んだという事……
どちらにせよ、イブリアとルシアンの仲はもう終わっているのだろう。
セリエがディートリヒに興味を持つのは何故か?
(何だか、僕はセリエがわからなくなってきたよ)
イブリアはほんとうに変わってしまったのか?
元々説教臭くてうるさい奴だったが、あのように何の感情も籠らぬ瞳でただの知り合いだと言われた事は一度も無かった。
その言葉になぜか酷く苛立った。
憧れでもあり、姉のように慕っていた彼女はセリエとルシアンを……僕たちを拒絶するような態度だった。
(本当に虐げていたのだろうか?)
まるで、セリエの方がイブリアをあえて無視しているように見えたのだ。
迷う二人の心を知らぬセリエは今もいつも愛らしい笑顔でルシアンと並んで沢山の人に囲まれている。
それでも、ディートリヒとイブリアをふと見たセリエの瞳がギラリと光ったそんな気がした。
そして突然、とある令嬢の何気ない一言でそんなセリエの瞳は鋭く細められる。
「聖女様って人に安らぎを与える力が備わっていて皆、聖女様に幸福感や好感を持つんですって!だからかしら……私もとても聖女様が好きなんです!」
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