元カレの今カノは聖女様

abang

文字の大きさ
27 / 56

ディートリヒ・シュテルン侯爵

しおりを挟む

「おい……ずっと居ないか?」


「仕事は捗ってる、通っているだけだ」


ディートリヒと剣の稽古を終えソファにも垂れるカミルがふとそう尋ねるほど、ほんの少しの間を見つけてはバロウズ公爵城に通うディートリヒのノクティス侯爵城は、ディートリヒの効率的な魔法と彼に憧れて集まった者達の活躍によってよってもうすぐ完成する。


「もう……さっさと告白しろよ」

「ああ、そうするよ」

「それにしても、お前意外と金持ちだったんだな」


「働いた分の金の使い道と使う暇が無かった、それに爵位に見合った褒賞がでたからな」


「天才魔法師で、俺と同じソードマスターだもんな……」


「名誉な事に、バロウズ家の総副騎士団長だったからな」


「ははっ!こっちが光栄だよ、イブに仕える為にずっと爵位を蹴っていたんだからな」


カミルがディートリヒの出世を喜んでいると、執務をしていたはずのイブリアの声と騒がしい声が聞こえて二人は眉を顰めた。


声と同時に素早く立ち上がる辺り、さすが長い間イブリアの護衛騎士だっただけはあるなと感心しながらカミルも立ち上がった。




「何故、また来るのテディ……お願いだから首都に戻って」


「やだな、騎士様が居なくて寂しいと思ってきたんだけど」


「お前もいたのか、セオドア。私は……その、礼に来たんだが」


「受け取れません。どうか王宮へお戻り下さい」



突然押しかけてきたセオドアとルシアンに、対応するイブリアは酷く疲労しているようにも見えた。



「顔色が悪いな……イブ」

「そう思うなら帰ってテディ」


「私が王宮医師を呼ぼう」

「殿下……やめて下さい」



ならここに居ますが?」


「「ディートリヒ侯爵」」


「ノクティスとアフェットは近くて助かります」


サラリとイブリアを救い出して、自らの後ろに隠すディートリヒの仕草もそれを受け入れるイブリアもまたごく自然で二人の信頼関係が窺えた。



後から来たカミルが、悪戯を思いついたように「茶くらい出しますよ」とルシアンに微笑んだ。


(お兄様、胡散臭いわ)



意図せず、五人でお茶を囲む異様な光景となったが

カミルには、ディートリヒとイブリアの仲睦まじさを見れば二人は諦めるのではないかと企みがあったのだ。


けれど、ルシアンにとっては自分が公言するまではまだイブリアは自分の婚約者であると思っているからこそ嫉妬心と怒りでどうにかなってしまいそうだった。


セオドアもまた、燃えるような瞳でイブリアを見つめていた。


どうにも諦めの悪そうな二人にカミルはため息が出たが、イブリアの全く取り合わない態度にすっきりもした。


「イブリア、私の元に戻ってくれないか」

ルシアンが切り出すと、セオドアもディートリヒも軽く目を見開く。

ゆらりと空間の歪みを感じたのは笑顔の筈のカミルの怒りに比例して魔力が揺れたのを感じたのだろう。



「ーっ、イブリアが必要なんだ。居なくなってからずっと苦しいんだ……ずっと私のものだと思っていたが今更気付いた。私の心はずっとイブリアのものだった」



ディートリヒの魔力とカミルの魔力の歪みで居心地が悪い筈なのに、神妙な顔つきでイブリアを見つめるルシアンと、成り行きを見るセオドア。



「セリエ様はどうしたのですか?」


「違うんだ、何故かイブリアだけは違う。他の男と居ると気が触れそうなんだ」


カミルとディートリヒは、イブリアの眉間の皺を見て口を挟むのを控えた。


(まるで、お気に入りのおもちゃを取られた子供ね)


イブリアがため息を吐くと「頼む……」と縋るように言ったルシアンを見兼ねてイブリアは席を立った。


「貴方の言っている事は子供と同じですルシアン。もうないものは無いの。元々私達に崇高な愛など無かったでしょう。お願いだから帰って」



「もう私を愛していないのか!?」


「愛してないわ、不思議と一ミリも後悔してないの」


「ーっ!」


「ルシアン、もう……」

セオドアが彼を宥めるが、ルシアンはイブリアの「愛していない」という言葉が思ったよりも辛くてその場を動けずに居た。


「お兄様、二人のお見送りをお願いしても?」

「ああ、すまんなイブ」

「後でリシュのケーキを買ってきて貰うわ、行きましょう、ディート」



イブリアはつい癖でディートリヒにそう言うと、ハッと振り返ってディートリヒを見た。

何故か嬉しそうに微笑むディートリヒは「はい、イブリアお嬢様」と彼女の側に立つと手を差し出した。


さっきまで凛としていたイブリアは突然年相応の女性らしい表情で、困ったように「私ったらごめんなさい、ディート」としおらしく謝罪する。



「いいんです」


「でも、もう貴方は侯爵なのに……お嬢様もやめて頂戴」


「イブ……」


ディートリヒは切なさを含む声で甘くそう呟くと、イブリアは顔を真っ赤にした。

困ったような、照れたような表情にディートリヒは我に返ると慌てて訂正する。


「イブリア様と、お呼びします」


すると、イブリアはディートリヒの指先を軽く緩く握って消え入りそうな声で真っ赤な顔のまま言った。



「イブでいいわ……貴方が近く感じるもの」


「ーっ、はい」



そんな二人の様子をこの世の最期でも見るかのように見るルシアンとセオドアの表情に、カミルはニヤリと笑った。


(な?これじゃ割り込もうなんて思えないだろ?)



「「イブ(リア)」」


「あら、貴方達まだ居たのですか?」


眉を顰めて、今度は本当に困った様子で言ったイブリアにルシアンとセオドアは放心状態のまま「「帰ります」」と言うのが精一杯だった。


「では、お見送りは僕が……」



そう言って簡単に王都までのゲートを開いたディートリヒにまた放心した二人はもう何も話さなかった。















しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。

パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。 全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

処理中です...