28 / 56
僕と婚約してください
しおりを挟むルシアンとセオドアを兄に任せて、温室へと逃げこんだイブリアはつい癖で護衛騎士のように一緒に連れてきてしまったディートリヒにしっかりエスコートされていた。
けれども、慣れた筈のディートリヒの温もりが
彼の声も、視線さえも、彼の全てがイブリアの心の音を早まらせた。
ディートリヒは寧ろ、昔からイブリアの些細な仕草ひとつひとつに心を動かされていた為にそれが日常だったので表情こそうまく取り繕えられたが、その熱を帯びた瞳の奥だけは隠せなかった。
(長い間離れていたからかしら……意識してしまうわ)
「イブ」
まるでイブリアの存在を確かめるような、強く彼女を求めるようなディートリヒの声色にじわりと熱が全身に広がりもどかしい気持ちになる。
「な、に……」
「ただ、貴女を呼びたくて。護衛騎士ではないディートリヒとして、一人の男として」
イブリアはどうしようもなく、ディートリヒが愛おしかった。
不規則に早まる音がディートリヒに聞こえてしまってもいい、寧ろ聞こえてしまったほうがこの言葉では表しきれない感情を伝えられるのではないかとすら思った。
ディートリヒもまた、イブリアから感じた事のない感情に舞い上がってしまいそうで怖かった。
(まるで、僕と同じ気持ちのようだ)
イブリアの瞳がまるでディートリヒと同じ気持ちなのだと訴えかけているようで、勘違いだったら?と不安に感じながらももう、ディートリヒは自分の想いを伝えずにはいられなかった。
「何だか、ディートと折角また一緒に居られると思ったのに離れちゃうなんて変な感じね……」
「イブ……僕とずっと一緒に居てくれませんか?」
「え……」
「貴女を愛しています。ずっと昔からひとりの女性としてイブが好きです」
何故だかイブリアはとても嬉しかった。
彼のそばに居ても良い事が、いつか隣に立つだろう女性が他の誰かではなく自分でもいいと言われた事が。
漠然と考えていた、ディートリヒと本当に離れなければならない日がイブリアにとってはとても辛い事だったからだ。
いくら鈍感なイブリアでももう認めざるを得なかった。
「ディート、私も貴方が好きみたい……信じて貰えないかもしれないけど」
ディートリヒはイブリアを抱きしめて目を合わせると微笑んだ。
「いいえ、僕がイブの言葉を信じない事はこの先ずっとありません」
「……貴女を、愛していると気付いたの」
「僕と、婚約して下さい」
「嬉しいわ。けれど……」
「殿下との事は任せて下さい。婚約の破棄は済んでいるのですから、心配は要りません」
「私ね、ずっといつか貴方とほんとうに離れなきゃいけない時が来るのが怖くて不安だった、離れててもそばに居ても貴方が味方でいてくれるだけで、ディートの存在だけで私は強く居られたの」
「イブ……僕は今とても幸せです」
「私こそよディート」
二人はそっと触れるだけのキスをした後、今までの関係とは少し違う甘くて蕩けてしまうような雰囲気に赤面し何となく身体を離すと、ディートリヒの咳払いを合図に赤い顔のまま少しだけ笑った。
その日の晩餐では、二人の雰囲気の少しの変化に気付いたイルザによって報告するよりも先に「上手くいったようだな」と早々に切り出されてしまい、
「!」
「……はい。ご報告が遅れて申し訳ありませ……」
「ええっ!!いつの間に!?俺の可愛いイブが……」
ディートリヒを遮るように驚いて大袈裟に落ち込むカミルに呆れるイルザとイブリア。
こほんと咳払いすると、仕切り直したように改まってイルザに報告した。
「イブリアお嬢様に、婚約を申込みました。お許し頂きたく願います」
「お父様……、私からもお願い致します。ディートとの婚約を認めて下さい」
「……」
暫く沈黙したイルザの様子があまりにもわざとらしく、内心で笑いを堪えるカミルは心配そうなイブリアを安心させるように小さく頷く。
真剣な表情でイルザを見つめるディートリヒは、黙って返答を待っている様子だった。
「……条件がある」
「はい」
相変わらず、言葉少なに受け入れるディートリヒにイルザはふと微笑む。
彼の昔から変わらず飾らない姿に安心したのだった。
ディートリヒの夜空のような瞳の星のような輝きを真っ直ぐ見つめるとゆっくりと、けれどもハッキリとした威厳のある声で言った。
けれどその瞳はどこか悲しそうでもあった。
「イブには今度こそ……幸せになってほしい。不幸にするな絶対だ」
「ーっ、勿論です!」
イルザの表情からは過去への後悔と、ディートリヒへの信頼が感じられた。
思わず涙が溢れたイブリアにあたふたとハンカチを渡したカミルと、
イブリアの手に自らの手を添えたディートリヒ。
「そして、ディートリヒ。お前にも幸せになって欲しい」
「!!」
「それが約束できるなら、二人の結婚を認める」
「僕の幸せはイブリアお嬢様の側にいる事です」
「そうか、頼んだぞ……ディートリヒ」
「はい!ありがとうございますイルザ様」
「お父様っ!!ありがとう!!」
「王宮へは私からまず報告しておく。有無は言わさん、そろそろ陛下とて目を瞑れないだろう……。私に任せておきなさい」
「「……!!」」
「本当に、ありがとうございます」
「いい。礼を言うのはこっちだ、お前達の幸せそうな様子に妻との幸せな日々を思い出した。私も妻には長く片想いしたものだった」
「「えぇ!!」」
「……意外でした」
ふっと微笑んだイルザは「食事が冷めるぞ」と食事を促しただけだったがその表情はよく知る愛情深いものだった。
翌日、王宮へとバロウズ公爵家から王宮へと届いた手紙を知りルシアンは国王である父の元へと急ぐことになる。
「父上!これはどう言う事ですか!?」
206
あなたにおすすめの小説
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。
パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。
全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる