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シュテルン侯爵の婚約者は……?
ディートリヒ・シュテルン侯爵は、戦地や国境地帯での活躍やその整った容姿とイブリアに使える忠実で紳士的な姿から多くの令嬢達が目を光らせる優良物件である。
基本的に貴族の令嬢が家門に利益のない婚姻を許される事は珍しく、ディートリヒが爵位を授かった途端に皆ディートリヒに近づこうと躍起になった。
それ故にディートリヒの情報を集めようとする貴族達によって、シュテルン侯爵の婚約の噂はすぐに広がった。
けれどもその相手が誰かはまだ掴めず、さまざまな憶測が広がったがその中には勿論イブリアの名もあった。
「知って居ますか?シュテルン侯爵のご婚約相手」
「私はイブリア様だと聞きましたが…….長い間想い合っていたのだと」
「えぇっ!?私はセリエ様だと聞きましたわ、何よりイブリア様は王太子殿下とご婚約中では?」
「ですか、ルシアン殿下はセリエ様に懸想しておられるのでは?」
「「「………」」」
「はぁ…‥.私もディートリヒ様とお近づきになりたいわ……」
そう呟いた令嬢に頷く令嬢達のお茶会はその後もディートリヒやルシアンの話題で持ちきりだった。
そんな王都での噂など思いもしないディートリヒとイブリアは、初めてのイブリアのノクティス訪問を楽しんでいた。
「まだ城が出来たばかりです。住人よりも国境を守る為に雇われた者たちの方が多い土地ですのでまだ課題は多いですが、皆温かくて良い所です」
「ええ、そうね。今度はゆっくり視察したいわ」
「いいのですか?」
「ええ、いずれは貴方の妻になるのだもの。私にもお手伝いさせて頂戴」
「妻……」
「あっ!つい……気が早かったわね」
「いいえ。貴女以外を願った事はありませんので」
「ディートっ」
珍しく甘えるようにイブリアを背後から抱きしめると、頭を肩に擦り寄せるディートリヒに思わず照れた様子のイブリア。
だが、長くはこうして居られない。
二人は今日、城に使える者達を面接するのだ。
「よ、…….なんだディート。俺の妹に手を出すんじゃない」
ゲートを開いて無遠慮にやってきたカミルは二人を見るなり目を釣り上げた。
「お兄様…‥.本当に来たのね」
「当たり前だろ!俺とディートは兄弟同然、これでも俺は小公爵だぞ?心配だから立ち会いに来たんだ」
イブリアとディートリヒでは心配だと無理やり立ち会いに来たカミルにディートリヒは少しだけ照れくさそうに「恩にきる」と言うとイブリアの髪を優しく撫でて彼女から離れた。
「またっ……もういい、さぁ準備する事は沢山あるぞ」
「そうね、じゃあ行きましょう」
「イブ……気の荒い者ばかりですが大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。心配しないで」
ディートリヒの言う通り、国境地帯を守るこのノクティスには傭兵を生業とする者が多くその為にノクティスの住人達は宿泊所や、酒場、道具屋など騎士や傭兵、旅人などに焦点を当てた商いが主だった。
前に領主のように振る舞っていた者は、税だと言ってそんな住民達から売上のいくらかを気分で取り上げていたらしくノクティスの発展はそれほど著しいものではなかった。
それ故に、兼ねてより戦地やあらゆる国境地帯で功績を上げてきたディートリヒが領主になったと聞いた地元の傭兵達や住人達はとても喜んだという。
こちらから声をかけた者もいるが、大抵は志願した者達がディートリヒと共にノクティスを守りたいと集まった。
一人目は白髪の年配の紳士であった。
それなりに良い素材で誂えたスーツはよく似合っている。
年齢の割には鍛えられた身体は洗練されていてかなりの手練れだとディートリヒとカミルは見てすぐに分かった。
ピンと伸びた姿勢も温厚な言葉遣いもまるで両家の執事のように丁寧で、一般人というにはかなり浮いた存在だった。
「よく来てくれた、名は何と?」
「アンセル・スワードと申します」
「貴方は、ただの紳士ではありませんね。何処かで仕えていた経験が?」
「ええ、王宮で王妃殿下にお仕えしておりました」
「「!!」」
「……何故ここへ?」
「実は……私の妻は、聖女様の逆鱗に触れ陥れられた末に亡くなりました。処罰を下したのは王妃殿下でした……私は王妃殿下の個人的な護衛でしたので命を助けられましたが、自ら職を降りました」
「王妃殿下はそれ程ぬるい方ではないと思いますが」
イブリアが悲しげにそう尋ねると、
「はい、最近までは追手から隠れる生活をしておりましたが……何故か突然追手が来なくなり……きっと忘れられたのでしょう。復讐などは考えておりません、もう老いぼれです」
「では何故この話を?」
「信頼を得る為です。隠せどいずれ分かる事、幼いイブリア様の成長を陰ながらいつも拝見しておりました。ディートリヒ様……貴方の事もです」
アンセルは、生きる為に若い頃より戦いに生き、功績を上げ王妃によって彼女の影となり護衛する役割を担った。
アンセルの実力を独占したい王妃は、
幼馴染であり、妻であるクレアもまた王宮に呼び身の回りの世話を仕えさせたが近頃、お気に入りだった聖女セリエの逆鱗に触れた事によってセリエの策略に陥れられ王妃によって処罰されたのだった。
「生活の為に長く、お仕えしましたが……妻の死をきっかけに私は妻の為にもちゃんと生きたいと思いました、せめて命を捧げるに相応しい人にこの命を懸けたいのです」
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その場で決まったのはほんの数人であったが、新しくシュテルン侯爵家の仲間となった者達に感謝し、出会いを祝った。
そしてまた、王宮では床に座り込みノクティスにいるイブリアに怒りを呟くセリエが居た。
「なんで……ルシアンはイブリアばかりを気にするの!?」
「なんで、皆私を愛さなくなったの……っイブリア、許さないわ!」
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