元カレの今カノは聖女様

abang

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崩れていく聖女の微笑み

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何やら急いで陛下の元へと行ったルシアンは、やっぱり近頃様子がおかしかった。

元気がなかったり、上の空だったり、執務で酷く疲れていたり。

前なら「休んでも良いのですよ、ルシアン」と彼の頬を撫でれば、「セリエは優しいな」と私の側に出来る限り居てくれたルシアンは今ではまるでの背を追うように執務に打ちこんでいた。




それは、ティアードやレイノルドも同じで私に対する態度が特別悪くなった訳じゃないが、まるで眼中にないかのようだった。


それでも聖女である私をもて囃す子息達は沢山の居たが、ルシアンが離れて見て分かったことは大人達からの冷たい視線だった。


そしてそれはルシアンも同じだったようで、腹が立つことに偶然聞いてしまったのだ。

"バロウズ嬢が居ない殿下では弱いな……"

"聖女の力はあくまでシンボルだ、バロウズ嬢無しでは殿下は成り立たない"


"そうだ、聖女様では駄目だ……"


落胆する大人達の嘆き、国王陛下はきっと私をよく思っていないし私の味方は王妃様だけだった。


「苦労したんだもの……娘が欲しかった王妃様をイブリアから引き離すのは」


王妃様はイブリアに期待していた。

それも、つい過剰な教育を施してしまうほどかなり執着してた。

だからこそと、私自身が王妃様の娘のように振る舞う事でコツコツと寵愛を稼いだのだ。


「厳しいし、お茶は多いし面倒だったわ……」


「失礼します。ルシアン……孤児院訪問の件だが……」


「あっ、セオドア!ルシアンは突然飛び出して行ってしまって……」



しおらしくそう言ったセリエはもう夕方だと言うのにネグリジェのままでセオドアは目のやり場に困る。

と、同時に冷静だった。


「そうか、じゃあ出直すよ」


「待って、セオドア!」


胸を押しつけるようにセオドアに抱きついたセリエにセオドアは低い声で言う。



「ずっとその格好なのは、男を誘惑する為か?」


「そんな、違うわ!ただ今日は起きるのが遅くてっ」


「イブは……子供の頃寂しがりやだった。奴が居なければいつも泣いてた。なのに引き離された時も、皆が君の味方をした時も、俺は側にいなかった」


「そ、そんなのセオドアの所為じゃないわ!好きな子を優先するのは仕方がないことよ」


「じゃあ、俺は君が好きだったと?」


「そ、それは……」


「ただ、不思議と興味が湧いたし君が言うことに疑問や不快感は持たなかった。隣にいると安らげたし……聖女たる者の力のおかげでね」


「違うわ!私は心からセオドアを想って……」


「それ、何人に言った?何故だろう、今も不快感は無理にかき消されるような感覚がある……けど、冷静だ」


(ルシアンに取っておいたけど、イブリアイブリアとうるさいし仕方ないわね……セオドアは味方じゃなきゃ困るのよ)



「セオドア……傷付いているのね……」


そう言ってネグリジェの肩紐を解いて、セオドアの手を引いてソファへ押すと彼の膝にまたがるように乗った。


(従順じゃない……やっぱりこうするのが一番ね)



「先に言っておくが、俺は初めてだから上手くしてやれないぞ」


全くセリエを愛さない瞳はまるでセリエを拒絶している。


「王妃になりたければ、今まで通りだけは取っておくんだ。ならばお飾りでも王妃になれるだろう」


セオドアはいつも女性に囲まれて居たが、食事以上の先の話は誰の口からも聞いたことが無かった。

てっきりセリエは自分が好きだからだと思っていたが、どうやらセオドアの様子はおかしい。


「私の為に、取っておいてくれたのよね?」


「否……には近づく事が許されなかっただけだ、ずっと君の後盾のヒトにね。彼女が俺を選んだら……俺は王位に近づいてしまうから……だから俺だけは彼女に近づけなかった」



「じゃあ……何故私の味方を」


「だから、冷静じゃなかった。愛する女が面倒を起こすと考える程に、セリエがとても清らかで真っ直ぐに見えた、イブのように……」



「ーっ!」


「そろそろ退いた方がいいよ」


「セオドア、誤解しないで……っ」



セリエが乱れた格好のまま縋るようにセオドアに迫る。


セオドアの顔色は何処か青白い。



「ルシアン殿下!大変だ!」

「ルシアン、もう聞いたか!?」



慌てた様子で部屋に飛び込んで来たのは、幼馴染であり側近でもあるティアードどレイノルドだった。



「「えっ……」」


「あー、誤解してくれるなよ。俺は意外にも潔癖なんだ」

「こ、これは……っ」



「セリエ……もう良い。私達は君を誤解していたようだ」

「不思議と今も怒りは無いよ。でもセリエがだってもう気付いてたから……大丈夫」


ティアードとレイノルドは自嘲気味に言うとセリエに悲しげに微笑んだ。


「君を愛してると錯覚して、大切な人を失ったのに君に怒りは湧かないなんて不思議な力だ……」


「安らぎ、なんてその格好のセリエを前にすれば偽りにしか感じないはずなのに……ねぇセリエは本当は誰を愛してるの?」



ティアードに続いたレイノルドの悲痛な問いかけにセリエはぎくりとする。


「セオドアから退いてやってくれないかセリエ」


ティアードが努めて優しくいうと、ゆっくりと頷いて退いたセリエは泣きまねをする。

「酷いわセオドア……愛してると言ったのに、まるで私が無理矢理貴方を襲ったみたい……っ!」



その場の全員がセリエはセオドアを切り捨てたのだと理解した。



「セリエ……あのね、それは無理があるんだ」


レイノルドが悲しげに、ゆっくりとセリエに言い聞かせるように話出す。



「レイノルド、やめろ」

「セオドア……後ろ盾が誰か忘れたのか?放っておけない、いいがかりで処罰されるぞ」




「セオドアは、だからデキる訳ないんだ」



「幼い頃に、数名の歳上の令嬢達に襲われかけてから女性との距離をコントロールする事で自分を守ってる。は誰も踏み込めない」


セオドアは決して女性が嫌いではない。愛らしくて好きだ。

けれどそれは小動物に対するもののような感情で、ギラギラと燃えるような瞳で迫られると恐怖を感じるのだ。

触れたいとも思えないのだ、イブリア以外には。


「え………?」



セリエは鈍器で頭を打たれた気持ちだった。

力のお陰で、陥れようとしたセオドアもティアードもレイノルドもセリエに怒りをぶつけたり罵倒したりはしないが


今までとは違う、三人の冷ややかな幻滅したような目線にヒヤリとした。




「ルシアンには……言わないで、お願い」



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