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保身優先、剥がれるメッキ
しおりを挟む国王の話は驚愕するものであったが、現状況としては致し方ないともいえる考えであった。
当の本人は、眉間に皺を寄せて悩んでいる様子だがディートリヒは相変わらず表情を変えなかった。
「……わかりました。僕は魔法騎士団所属ですのでどちらになっても特に問題ありません」
「まぁそう言うな……魔法騎士団は直に魔塔の復活を遂げるだろう。そうなった時良い関係を築きたいとも思っている」
「……」
考えるような仕草をしたディートリヒに続いて、セオドアもまた俯いたまま、何も言葉を発さない。
「セオドア、よく考えてくれ」
「ですが……俺は、たった一人の女性も守れなかったのに……」
「お前は、元来格好をつけたがる。戯けて一歩下がることでプライドを守っていた。けど今は悩み反省し、前に進もうとしている」
「……」
「王妃の愚行は知っているが、彼女にとって皮肉にもお前だけが今、自分にできる事を探している。お前のそういう所を私は買っている」
「……分かりました、けれど彼が更生し相応しいと感じた場合は」
「ああ、お前が欲のない人間だと言う事も分かっている」
「では……ディートリヒ、セオドア。頼めるな?」
「「御意」」
「今夜の晩餐では様々な顔ぶれが並ぶ。イブリアに容疑はかかっていない、あくまで参考人なので晩餐に並ぶ事となるだろう、身の安全に注意してくれ、もう行っていいぞ。時間を取らせて悪かったな」
(イブはそんなに柔な女性じゃないが……陛下には何か心配事が?)
セオドアは国王の言葉に様々な可能性を脳内で考え、落ち着かなかったが
ディートリヒは至っていつも通りだった。
「なぜ、そう平然としていられる?」
「いつも準備が出来てる……彼女に全てを差し出せる」
言葉足らずだが、セオドアにはディートリヒの言いたい事が分かった。
彼はイブリアを守る為ならその身を犠牲にする覚悟がいつも出来ているという事だった。
彼女の為ならば常に他人の命にも、自分の命にもすぐに決断できる心の準備があると言うことだった。
「迷いが、命取りになる。向かってくるモノには迷わない一瞬の決断力が大切です……もう護衛騎士ではないが」
「なら、俺も準備しておかないとな……せめて友として今度は守りたいんだ」
「セオドア、イブは誰も恨んだりしない」
「わかってる、ただ愛してるんだ。もう遅いけど、せめてちゃんと親友でありたい……」
「……そうか」
晩餐のメンバーは国王、王妃、ルシアンを始めバロウズ公爵家、セオドアの家門であるフォラント公爵家、シュテルン侯爵に聖女セリエ、大神官であった。
「皆、よく集まってくれた」
異色ともいえるその面子に皆、居心地の悪い気分だったが先陣を切って口を開いたセリエの安っぽい言葉に更に居心地が悪くなる。
「そんな陛下……我々は皆神の下に生まれた家族ではありませんか!……ねぇ?シュテルン侯爵?」
席順は国王を上座に、右側に王妃、王妃の向い側にルシアン、その隣にセリエ、大神官と続いていた。
王妃の隣には王妹でありセオドアの母リリーシャ、フォラント公爵と並び、王の向かい側にイルザ、その右にカミルその隣にセオドア、イルザの左側にイブリア、その隣にシュテルン侯爵ことディートリヒであった。
(何故ディートリヒに?)
ルシアンはセリエの発言を不思議に思ったがディートリヒが視線だけを向けて特に返事をしなかったのを見てホッとした。
セリエがディートリヒに話を向けたのが気に入らなかった訳じゃなかった。
仲睦まじく見つめ合うイブリアとディートリヒを見ていると、ルシアンはディートリヒにだけは何一つ負けたくないと感じるのだった。
「……晩餐を楽しんでくれ。バロウズ公爵、此度は迷惑をかけたな」
「いいえ、皆濡れ衣だと気付いておられたので安心しました」
(えっ!?イブリアが犯人ではないと皆そう考えているってこと!?)
「ですが、では聖女様を脅迫したのはどなたなのでしょうか?」
大神官がイブリアを鋭く睨みつけて言うと、ディートリヒが遮るように片手を上げて発言する。
「ひとつ、調べた事があります。あの手紙は何処からも送られていませんでした。自ら運ぶ他方法がありません」
「ほう、それで?」
「王宮とはそれほど簡単な場所でしょうか?扉の前に居る騎士達や、彼女の手紙の整理をする侍女達、どこを考えても人目につかずに置いていく事は出来ません」
「なるほど!」
「どうしたの?セオドア……」
「いえ、母上。手紙はどの機関も通さずに送られているのです。これは王宮内で作られたという事になります」
「では……バロウズ城に居たイブリア嬢には……」
「そうだな……ゲートを使えば目立ちすぎる」
「はい、父上。シュテルン侯爵はそれを伝えたかったのだと」
「それでは……イブリアが犯人ではないと!?」
ルシアンがそう呟くとセリエはバッとルシアンを見て「そんな!確かに筆跡が同じだと……」と動揺した様子で言った。
「だが……王宮内となれば彼女には無理だ、顔を知らぬ者は居ない」
「ルシアンっ!!」
「でしたら、陛下。犯人を早く捕まえなければなりませんね」
そう言ったイブリアがワインを口に近づけた時、彼女の指輪が一つ光ってグラスが彼女の手から弾かれ、床に落ちて割れた。
セオドアが咄嗟にイブリアの方に向いた際に銀のナイフが床に広がったワインの上に落ちると、
「変色してる…….っ!」
セオドアがナイフの色を見てそう言う。
「イブ……怪我は?」
「毒だ」
いつの間にかイブリアの両隣に移動して来たディートリヒとカミルは彼女を守るよに立つと小刻みに震えているセリエを視界の端に捉えて鼻で笑った。
「指輪が役に立って良かった。それは本人の危機信号とは別にあらゆるものから身を守ってくれる」
「陛下!あれは、我が国の国宝のひとつでは!!」
「王妃、持つべき人に譲った。私の意志だ」
「……っ」
顔を青ざめさせるリリーシャを気遣うようなフォラント公爵と、毒を少し魔法で取り出して鑑定魔法にかけるセオドア。
「これは、致死量の三倍……ドゥラアルの花から採取したものでしょう」
ドゥラアルは、その花こそ美しいが毒性が強く危険であると判断され王宮でのみ保管の許可されているものだった。
「ならば、これも王宮でおきた事となりますな、陛下」
「イルザ……手厳しいな。無論放ってはおかん」
先程と変わらず堂々と座るイルザの雰囲気は冷ややかで、同じく冷静に座る国王もまた堂々たる姿であった。
珍しく大人しい王妃は、全てを悟ったようで顔面を蒼白にしたまま震えを収めようとドレスの裾を握っていた。
「あ、あの……王妃殿下。大丈夫ですか?」
「ーっ!」
「いっ!……ごめんなさい。驚かせましたね」
「リリーシャ夫人……」
「どうしたのだ王妃、気分が優れんか?突然辺りがよく見えるようになると気分が悪くなると聞く。王妃は目が良くなかったな……少し休んではどうだ?」
震えるセリエと青ざめた大神官。
何が起きたのか分からず戸惑うルシアンに、
イブリアを囲むディートリヒ、カミル、セオドア。
目を細めた国王とイルザの深みがかった瞳の光にイブリアは胸が騒めいた。
ディートリヒの声だけが聞こえていた。
「イブ、大丈夫です。僕が居ます」
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