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その壁は固く守られて……
イブリアは一通りをディートリヒに伝えると、まだ納得のいっていない様子のディートリヒにぎゅっとしがみつくように抱擁した。
「でも、なにより……」
「イブ?」
「貴方が来てくれた事が何より心強いわ……」
そう言ってディートリヒに顔を埋めたイブリアが愛おしくて、弱いわけがないのに庇護欲を刺激された。
ディートリヒはイブリアを大切に抱きしめながら、
「僕は昔から、貴方だけの側に居ますよ」と慰めるように伝えると、顔を上げて嬉しそうに微笑んだイブリアがあまりに愛らしくて驚いた。
「そんな顔をされると、堪えますね」
「何に堪えるの?」
「僕も、男だと言うことです」
そう言ってイブリアの唇に優しく口付けたディートリヒが大人でイブリアは慌てて離れた。
「笑わないで!ディート」
「可愛いです」
「ディート……っ」
二人は向かい合って幸せそうに笑い合った後、ディートリヒは申し訳無さそうにイブリアに「少しだけ、行かないといけません」と言う。
「用があるのね、私は部屋にいるわ。行って来て」
「陛下に呼ばれています。おおよそ同じ内容でしょう」
「分かったわ、気をつけて行ってね」
またいつ絡んでくるか分からないセリエを思うと、イブリアの胸はチクリとして思わずディートリヒを引き止めた。
「ディート!」
振り向いたディートリヒにイブリアから口付けると、
「ほんとに、気をつけて……」
そう言ったイブリアにディートリヒは頬を赤らめながらも眩しい限りの笑顔で、「大丈夫です、安心して」と言って部屋を出た。
そんなイブリアの心配は的中したようで、歩くディートリヒの向こうから歩いて来るのはセリエだった。
騎士達を携え歩く姿はまるで誰より高貴な者のような振る舞いだが、その所作や雰囲気はセリエの努力不足が滲み出ている。
(無視しよう)
頭を軽く下げて通り過ぎようとしたディートリヒの隣でドンと大きな音が鳴って、ぶつかってもいないのにセリエが倒れた。
明らかに自分で倒れたように見える騎士達も戸惑っているようで、
ディートリヒもまた何がしたいのかと言うようにただ眉を顰めた。
「ごっ、ごめんなさい!私がぶつかったから……!」
騎士達を有無を言わさぬ視線で黙らせると、ディートリヒが手を貸してくれるのが当たり前かのように地面に着いていない方の手をおずおずと差し出した。
「いいえ、ぶつかって居ません」
ディートリヒはただ無表情でそう言うだけでセリエに手を貸そうとはしない。
騎士達はというと、生で見るディートリヒに見惚れており内心で彼に会えた事の感動や賞賛を繰り返していた。
(ディートリヒ様だ、まさかこんなに近くで会えるなんて!)
(近頃、よく拝見できてツイてるな……)
「ちょっと、貴方達……ディートリヒ様にお怪我がないか確かめて頂戴!」
「……!まずは、お手をどうぞ」
セリエはチラリとディートリヒを見てから、動く気配が無いと判断すると、不服そうに騎士の手を取って立ち上がった。
「私がお確かめします!これでも治癒は専門なので……っ」
そう言ってディートリヒに触れようとしたセリエを避けて、ディートリヒが言った言葉はセリエの怒りを誘発するものだった。
「シュテルン侯爵とお呼び下さい、聖女殿」
「は?」
「あと、無闇矢鱈に異性に触れようとするのははしたない行為ですよ」
「ーっシュテルン侯爵!どうして貴方はそう意地悪なのです!?私はただ貴方と仲良くしたいだけなのです……」
「突然隣でひとりでに転んで、まるで僕と当たったかのように振る舞う不審な人にどうやって親切にするのですか?」
「それは……っ、そんな事をしていません!貴方は、イブリア様に言われて私に冷たくしているのでしょう?」
「いいえ。単純に貴女を不審がっているだけです」
「では……ちゃんとお友達になって下さい」
「失礼します、陛下に呼ばれていますので」
「シュテルン侯爵!!」
「聖女様、行きましょう」
「陛下の御用でしたら引き止めてはいけません…….っ」
「シュテルン侯爵!!!絶対に私とお友達になりましょうね!!」
「「聖女様!行きましょう!」」
「……お断りします」
「!!??」
騎士達に引き止められるセリエを尻目に、その場を後にするディートリヒ。
「シュテルン侯爵!貴方は私を誤解しています!!」
(今日はやけにしつこいな)
「気をつけて」と言っていたイブリアの不安げな瞳を思い出して、ふっと笑うディートリヒ。
「嫉妬だと……嬉しいな」
「何がだ?」
「セオドア、出てこないのかと思っていたが」
「手厳しいね、気付かれてたんだ」
「悪いが僕は用事がある」
「その件なら俺も呼ばれていますよ」
「「……」」
「まさか、一緒に行くつもりか?」
「同じ方向なので」
二人は不本意そうな表情のまま謁見室までの道を無言で歩いた。
「お先にどうぞ」
「いや、ディートリヒ侯爵から入るべきですよ」
「わかりました、ではお先に」
そして、扉を開くとそこに座っていたのはイルザの時と同様に国王だけで、ニコリと何か企みのありそうな笑みで微笑みかけた。
「よく来たな、二人共……部屋に防音の魔法を頼めるかな?」
「でも、なにより……」
「イブ?」
「貴方が来てくれた事が何より心強いわ……」
そう言ってディートリヒに顔を埋めたイブリアが愛おしくて、弱いわけがないのに庇護欲を刺激された。
ディートリヒはイブリアを大切に抱きしめながら、
「僕は昔から、貴方だけの側に居ますよ」と慰めるように伝えると、顔を上げて嬉しそうに微笑んだイブリアがあまりに愛らしくて驚いた。
「そんな顔をされると、堪えますね」
「何に堪えるの?」
「僕も、男だと言うことです」
そう言ってイブリアの唇に優しく口付けたディートリヒが大人でイブリアは慌てて離れた。
「笑わないで!ディート」
「可愛いです」
「ディート……っ」
二人は向かい合って幸せそうに笑い合った後、ディートリヒは申し訳無さそうにイブリアに「少しだけ、行かないといけません」と言う。
「用があるのね、私は部屋にいるわ。行って来て」
「陛下に呼ばれています。おおよそ同じ内容でしょう」
「分かったわ、気をつけて行ってね」
またいつ絡んでくるか分からないセリエを思うと、イブリアの胸はチクリとして思わずディートリヒを引き止めた。
「ディート!」
振り向いたディートリヒにイブリアから口付けると、
「ほんとに、気をつけて……」
そう言ったイブリアにディートリヒは頬を赤らめながらも眩しい限りの笑顔で、「大丈夫です、安心して」と言って部屋を出た。
そんなイブリアの心配は的中したようで、歩くディートリヒの向こうから歩いて来るのはセリエだった。
騎士達を携え歩く姿はまるで誰より高貴な者のような振る舞いだが、その所作や雰囲気はセリエの努力不足が滲み出ている。
(無視しよう)
頭を軽く下げて通り過ぎようとしたディートリヒの隣でドンと大きな音が鳴って、ぶつかってもいないのにセリエが倒れた。
明らかに自分で倒れたように見える騎士達も戸惑っているようで、
ディートリヒもまた何がしたいのかと言うようにただ眉を顰めた。
「ごっ、ごめんなさい!私がぶつかったから……!」
騎士達を有無を言わさぬ視線で黙らせると、ディートリヒが手を貸してくれるのが当たり前かのように地面に着いていない方の手をおずおずと差し出した。
「いいえ、ぶつかって居ません」
ディートリヒはただ無表情でそう言うだけでセリエに手を貸そうとはしない。
騎士達はというと、生で見るディートリヒに見惚れており内心で彼に会えた事の感動や賞賛を繰り返していた。
(ディートリヒ様だ、まさかこんなに近くで会えるなんて!)
(近頃、よく拝見できてツイてるな……)
「ちょっと、貴方達……ディートリヒ様にお怪我がないか確かめて頂戴!」
「……!まずは、お手をどうぞ」
セリエはチラリとディートリヒを見てから、動く気配が無いと判断すると、不服そうに騎士の手を取って立ち上がった。
「私がお確かめします!これでも治癒は専門なので……っ」
そう言ってディートリヒに触れようとしたセリエを避けて、ディートリヒが言った言葉はセリエの怒りを誘発するものだった。
「シュテルン侯爵とお呼び下さい、聖女殿」
「は?」
「あと、無闇矢鱈に異性に触れようとするのははしたない行為ですよ」
「ーっシュテルン侯爵!どうして貴方はそう意地悪なのです!?私はただ貴方と仲良くしたいだけなのです……」
「突然隣でひとりでに転んで、まるで僕と当たったかのように振る舞う不審な人にどうやって親切にするのですか?」
「それは……っ、そんな事をしていません!貴方は、イブリア様に言われて私に冷たくしているのでしょう?」
「いいえ。単純に貴女を不審がっているだけです」
「では……ちゃんとお友達になって下さい」
「失礼します、陛下に呼ばれていますので」
「シュテルン侯爵!!」
「聖女様、行きましょう」
「陛下の御用でしたら引き止めてはいけません…….っ」
「シュテルン侯爵!!!絶対に私とお友達になりましょうね!!」
「「聖女様!行きましょう!」」
「……お断りします」
「!!??」
騎士達に引き止められるセリエを尻目に、その場を後にするディートリヒ。
「シュテルン侯爵!貴方は私を誤解しています!!」
(今日はやけにしつこいな)
「気をつけて」と言っていたイブリアの不安げな瞳を思い出して、ふっと笑うディートリヒ。
「嫉妬だと……嬉しいな」
「何がだ?」
「セオドア、出てこないのかと思っていたが」
「手厳しいね、気付かれてたんだ」
「悪いが僕は用事がある」
「その件なら俺も呼ばれていますよ」
「「……」」
「まさか、一緒に行くつもりか?」
「同じ方向なので」
二人は不本意そうな表情のまま謁見室までの道を無言で歩いた。
「お先にどうぞ」
「いや、ディートリヒ侯爵から入るべきですよ」
「わかりました、ではお先に」
そして、扉を開くとそこに座っていたのはイルザの時と同様に国王だけで、ニコリと何か企みのありそうな笑みで微笑みかけた。
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