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父の決断と、愛の答え
しおりを挟む其々が国を想って、出来る行動を探しながら過ごした。
国王からの呼び出しは決して突然ではなかった。皆が国王の決断を待ち侘びていたしこの国を率いる王族が向く方向を見極める必要があった。
そしてイブリアは国を憂い方向を見極めることは勿論、妙な言い掛かりで行動の制限をされている今にうんざりしていたのでようやく決着がつけられるのだとホッとした。
(気を引き締めなくちゃね…….)
ディートリヒにとっては国の行方など些細なことだった。
ただイブリアが安心して暮らせるように。それだけが彼の願いでその為になら国を救う為に協力だってするし、イブリアに仇をなす者は全て排除する覚悟だった。
「行きましょう、イブ」
「ええ、行きましょう。ディート」
城で一番大きな広間に集まった貴族達は、現在この国を支えている有力な家門の者ばかりで今から何か重要な話があるのだとすぐに分かった。
「皆、よく集まってくれたな」
重々しい空気の中、嬉々とした表情の王妃とセリエが不気味だった。
表情では分かりにくいが、瞳の奥に不安に揺れているルシアンはそれでも口元を綻ばせ決定に満足している様子だった。
(愛があれば大丈夫だ、私がきっとセリエを立派なら王妃にする……いずれ良き王になればいつかイブリアとて喜んで私の元に戻るだろう……)
「ルシアン、もう一度聞く。その者で良いのだな?」
「はい!父上」
「王妃よ、これでいいのだな?」
「はい、陛下……セリエは良い王太子妃となるでしょう」
「セリエ、お前にとって過酷な結婚生活となるだろう。良いのだな?」
(王妃教育の事かしら?……適当にサボればいいし)
「……はい陛下!未熟者ですが、愛の力で乗り越えます。……愛があればほかには何もいりません」
「そうか。では……ここにルシアン・ランベールと聖女セリエ・ジェスランとの婚約を発表する」
会場は騒然とする。
中には喜んで祝う者も居るが、多くの貴族達は冷ややかな目をセリエとルシアンに向けた。
「皆静かに!」
「そして、もう一つ発表することがある……が、その前にバロウズ公爵から先日の事件について報告がある」
セリエは一瞬、表情を失って硬直した。
(大丈夫よ、もう王太子妃確定だし。バレる筈がないわ)
けれどもセリエはイルザの話に見る見る内に顔色を悪くした。
イルザ達の徹底的な調査により発見されたのは、焼き残したとある紙切れだった。
たった少しの切れ端だが、そこには文字が見えた。
それらをいくつか並べてから脅迫状を広げて説明する。
「……そしてこれが、この部分です。所々とはいえ文章を読むからにまるでこの脅迫状を書く練習をしているように見えます」
「では、どなたかが練習したのですね……っ!恐ろしいわ……」
セリエが瞳を伏せて弱々しく言うと以前ならば皆セリエに見惚れて、心配そうにした筈なのに、今はセリエから見えるセオドアも、ティアードも、レイノルドも、ましてや他の紳士達の誰もがセリエではなくイブリアの様子を気にしていた。
(なんで、イブリアの方が注目を受けているの……っ!)
けれどもそんなセリエの耳にイルザの冷たい声が届く。
「本当に怖いのは、ここからです聖女殿」
「な、なんでしょう……公爵」
「この切れ端はイブリアの筆跡ではありませんでした。どうしてだか、所々とある人物の筆跡に似ているそうです」
「へ、へぇ……そうですか」
「準備したものを頼む」
イルザの合図と共に彼の部下が持ってきたものは、聖女が孤児院や病院へと送った手紙だった。
「ここをハネる癖も、少し丸い字も、そして何故か段々とイブリアの字に似せているもののここの部分……我が娘イブリアは自らの名を綴る時の字の癖があります」
段々と説明するイルザにセリエは徐々に胃が軋む。
(バレない、あんな切れ端を集めたもので誰が分かるの)
セリエが王妃をチラリと見ると、王妃はイルザの言葉を遮る。
「そんな小さな紙切れでは説明されても、よく分かりませんわ、公爵」
「そうですか……では、彼の手を借りるしかありませんね」
「ディートリヒ、手を貸してくれるか?」
「勿論です」
ディートリヒがイルザに呼ばれて前に出ると、ディートリヒは燃え残った切れ端の紙に手をかざす。
「……ほう」
「あれは!?」
国王とルシアンは段々と復元されていく紙を見てすぐに分かった。
ディートリヒが、紙切れの時間を戻したのだと。
「そんな……あれはかつて三代目魔塔主だけが使えたという!」
「あんな魔法がまだ存在したのか!?」
皆が口々に賞賛と驚嘆の声をあげている内にあっという間に元に戻った数枚の紙には脅迫状と同じ文面が書かれていた。
所々、字がイブリアのものに似せられているがイルザの指摘した通りイブリアを名を綴る文字だけは圧倒的に違った。
「あれは……どちらかというとイブリア嬢よりも……」
「そんな!!嘘よ!!誰かが私を陥れようとしているわ!ねぇ?王妃様!」
「聖女殿の字に、似ていると思いませんか?陛下」
「聖女よ、ここにイブリアの名を書いてくれぬか?」
「え……っ、その、それは……」
すると、セオドアが手を挙げる。
「書かなくても、俺がセリエからの手紙を持ってる。そこにイブリア嬢の名も書いてありましたよ」
「セオドア!いい加減になさい!!」
王妃が徐に立ち上がり、勢いよくセオドアの元へと行くと彼の手紙を奪おうと手を振り上げた時……
背後からイブリアが王妃の手首を掴み、棘の紋様を国王に見せながら問う。
「王妃殿下?この贈り物はどちらから贈られましたか?」
「な!何するの!?不敬よ!!」
「「「!!!」」」
国王はソレが何か知っていた。
文献でしか読んだ事のないその力を使える者がたった一人しか居ない事も。
「イブリア……離してやりなさい」
「はい、陛下」
セリエは国王の言葉にニヤリと口元を歪める。
「私からの報告があると言ったな」
国王のどこか怒りの含まれま低い声に、皆が静まる。
「王太子ルシアンを廃嫡し、新しくセオドア・フォラントを立太子する」
「え"!?」
「愛があればなにもいらないと言ったな?」
「で、でも……ルシアンを廃嫡だなんて!」
「ルシアン、お前には騎士爵を与える。王宮騎士団で鍛え直す事だ」
「父上!!!これはどう言う事ですか!?!?」
「そ、そんな……」
「これでイブリアへの冤罪は晴れた。バロウズ公爵家はもう帰っても良い」
「!」
「イブ……帰ろう」
ディートリヒはふわりと微笑むとイブリアをエスコートする姿勢をとった。
立ち上がって怒る二人を無視した形でいくつかその件について国王が話すと、その場は解散となり、残されたルシアンとセリエはただ無言で床に座り込んだ。
「イブリアを……、正妃にすべきだった」
「えっ……」
「セリエ、証拠が揃えば君は罪に問われるぞ、何故……そんな事を」
「わ、私何もしていないわ!信じてルシアン……」
(まだきっとルシアンは戻れるし、私は王妃がどうにかする)
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