元カレの今カノは聖女様

abang

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白が黒になるとき

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イブリアは一晩の間力尽きたように眠ると、彼女の性分なのか朝にはきちんと目を覚ましていた。


「イブリアお嬢様…...っ!」


「アメリア……私……」


「ご心労の所為です。もう少し眠っていた方が……」


 
「もう大丈夫よ、ありがとう」




「「イブ!!!!」」


「イブ……良かった!」


メアリが扉の前で待つ三人に伝えると、勢いよく入ってきたカミルとディートリヒは酷く動揺して眠っていなかったせいで昨日よりも少し疲れて見えた。


イルザはホッとした様子だった。

公爵として人目のある所では堂々と振る舞ったものの、妻亡くし、娘まで居なくなったらと気が気ではなかった。



涙と鼻水でイブリアのシーツを汚してしがみつくカミルと、カミルの勢いに完璧に出遅れてそわそわとベッドの傍に立つディートリヒのそのような姿を見るのは初めてだったので、思わずイブリアは笑った。


「なんで笑うんだ?イブが倒れるなんて初めてだから驚いたんだからな!!生きててよかった~っ」


「カミル、泣くな。全くお前は感情が隠せんで困る!」


「ふふっ、お父様……お兄様の良い所ですよ」


半ばイルザに引きずられるように部屋を出たカミルを見送ってから、イブリアはディートリヒに少し恥ずかしそうに言った。


「ディート、こんな姿でごめんなさい」


「長い付き合いで、倒れたのも寝起き姿も初めてですね」


「少し怒ってるのね」


「無理をしないで下さい。何の為に僕がいるのですか」


「もう、護衛騎士じゃないもの……貴方は侯爵なのよ」


「それでも僕は……貴女の男です!」


そう言ったディートリヒは「あっ」と声を漏らすとカァッと顔を赤くして背けた。


イブリアもまた顔を赤くして俯いたが、ディートリヒの手を遠慮がちに握って「そうね、ごめんなさい」と言った。





「謝る必要など……」

「貴方にもっと頼ってもいいのよね、私のディートだもの」


「……! ええそうですよ、私のイブ」


「なんだか照れてしまうわね」



そんな和やかな朝も、朝食の席では新たな嵐によってかき消される事となる。



「婚前交渉……だと」


「はい、お怒りになった陛下はルシアンと聖女に謹慎を申し渡したらしいです」


「これは、本格的に王太子の交代もあり得るだろうな」


「お父様、お兄様……この国は大丈夫でしょうか?」


イブリアは国を憂いた。


どうやら聖女の肩を不自然なほどに持っているという王妃を訪ねることにしたイブリアは、国王に呼ばれたディートリヒ達とは別行動となった。


ディートリヒはかなり反対したが、イブリアは自領の国民達の為に少しでも状況を良くしたいのだと彼を説得した。




「イブリア……よく来たわね」




「王妃殿下にご挨拶申し上げます」

(今日は妙に落ち着いて感じるわ……)




「丁度良かったわ、協力して頂戴。セリエが閉じ込められているの」



どこか朧げな王妃はそう言ってイブリアにセリエの謹慎を解く協力を求めてきたがイブリアにはどこか不自然に感じた。


(何かがおかしいわ……王妃であって別人ようにも感じる……)



「それは出来ません、陛下の決定を一介の公爵令嬢である私がどうにかすることなど不可能なのです」



「……困ったわね」

そう言った王妃の手首にチラリと見えたのは棘の紋様、手首を巻くようにして浮かび上がっているソレは今まで王妃の手首に見たことのないものだった。



「殿下、それは……」


「あぁ、気に入っているのよ」


「少し失礼しても?」


王妃の手を取ったイブリアが紋様に触れると、魔力とは事なる力の気配が感じられる。


(王妃殿下のものとも違う……何故か知っているような感覚)



何らかの力が王妃にかけられているというのは間違いなかった。


そして、その相手は王妃に近づける者の内の誰か……

自ずと犯人は絞られてくるが、何らかの制約があり王妃を傷つけてしまう場合もあるので下手な質問は出来ない。


「何かしら?」

「いいえ……素敵ですね」


そう言って王妃の手を離した時だった。


「いけません、セリエ様!!」

「お願い、王妃様に会わないといけないのっ」



半ば強引に入ってきたセリエに驚いて扉の方向に顔を向けるイブリアと王妃。


「セリエ……」

「王妃殿下……謹慎だなんてあんまりです!」


「けれど、それは陛下の決定なの……」


「私はルシアンの子を宿しているかもしれないのですよ?早く、正式に婚約しなければなりません」


「……そうね、私が陛下にかけ合うわ」


「王妃殿下!?」


「あら、イブリア様……何か?」


「イブリア、悪いけれど帰って頂戴」

どう考えても不自然だった。


まるで上下関係が逆転したような、奇妙な感覚だった。


「王妃、殿下……?」


「イブリア様?王妃殿下の言う通りにした方が良いかと」


そう言って口元を吊り上げたセリエの笑みはとても不気味で、イブリアはなぜかセリエが関係していると確信した。



(確かめてみないといけないわね)


















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