元カレの今カノは聖女様

abang

文字の大きさ
44 / 56

変化する白は黒に

しおりを挟む


セリエの監獄での日々は静寂と屈辱の繰り返しだった。

大抵は暗い最下層で一人きり過ごす事が多かったが、時折ほかの囚人達と仕事をする時間があり、初めは親切に振る舞っていた者達の狙いが何なのかを知った時には屈辱と怒りの感情に苛まれた。


それでもあの時ディートリヒに封じられた声は出ないままで、ただ耐えるしか無かった。

ふと、誰にも声が届かずに孤独になるという状況はこんなにも辛いものかとイブリアを思い浮かべたが、「イブリアは他の物は何でも持ってた」と憎しみを取り戻してかき消した。



ある程度の日数が経ってセリエに王族の子が宿っている可能性が無くなると、セリエの刑務の時間は他の者と同じだけ増えて、過酷な労働を強いられた。


囚人の頭的存在であるマンボハは体格のいい囚人にしては優しげな風貌の男だった。

彼は初めこそ親切にしたが、たちまちセリエを力と恐怖で従わせて自らの女だと言い放った。


皆に知られながら辱められ、暗い闇に一人堅いベッド眠る生活はセリエの心をさらに闇に染めていった。


(イブリアさえいなければ、王妃さえ言う事を聞いていれば……)


恨みは募るばかりで、取り繕う余裕もない程に負の感情で溢れていた。


ある日自らの身体を治癒しようとした時に、聖女の力を失ってしまった事に気付いたセリエ。


けれども、もう一つ気付いた事があった。



「聖女、お前は俺の女だとまだ自覚が無いようだな」


「……」


「こいっ!!」


「ーっ!」

(殺してやる、殺してやる、殺してやる)



絡めるマンボハの手に爪を立てたセリエの所為で彼の手からは血が出る。

跨るマンボハを睨みつけ、何度も殺してやると呟いた。

彼はたちまち苦しみもがき始め、息絶える。


聖力とは異なるものが身体を巡る感覚がした。

セリエはその日から自分を襲う囚人達でを繰り返した。


セリエの力では、精々魔法を使えない者を死に至らせる事はできるが大抵の魔力保持者には跳ね返されてしまうこと。


彼女が魔力保持者に対して使いこなすのに成功した技は精々「眠れ」「止まれ」「黙れ」程度のものだったがこの得体のしれない力は使い方次第では復讐を遂げるのに役立つだろうと、常に思案した。


(この状況から抜け出さないと……)


それから暫く経ってからだった。


セリエが何者かに連れ去られ、彼女が脱獄した事を報告された国王は混乱を避ける為に秘密裏に厳重体制を取った。


ヒガン監獄はそれほど甘い場所ではない。

誰が、どうやって、目的は聖女だったのか?様々な疑問と、綺麗に消されている形跡はプロの仕業だったことに国王はやはりバロウズとシュテルンを頼らざるを得なかった。


「イルザ……すまんな」

「いいえ、臣下としてすべき事をするまでです陛下」


「もう、隣国ケルエンとの交流会の時期だというのに……」


「あまりに綺麗に痕跡が経たれていますが、うちの者達がなるべく早く解決するでしょう。私も警備に尽力します」


イブリアとディートリヒが受け持って調査している内に、ケルエンとの交流会の日になった。


ディートリヒは監獄での調査に残ったが、イブリアはケルエン使節団の出迎えでの重要な役割を担っている為にディートリヒとは別行動となった。


無事に役割を終えて、王宮を早足で歩くイブリア。


彼女を引き留めたのは、ケルエンの王子イスルカだった。


「イブリア殿」

「イスルカ王太子殿下……お部屋には城の者が案内致しますわ」


「少し、話がしたいんだが……」

そう言ってイスルカが目を細めた時だった。

数人の者達がイブリアを取り囲むと素早く攻撃を仕掛ける。


「殺すなよ!」


(王宮内だけれど……仕方ないわね)


イブリアが魔法を使用し、総攻撃を咄嗟に防いだ時だった。

彼女が攻撃魔法に転換する寸前に取りこぼした小さな攻撃がひとつ彼女の手の甲を擦り血が床に落ちると、黒いフードを被った者がその血を自らの指先で拭う。


(取りこぼしたわ……けれどただの擦り傷ね……っ!?)


途端に耐えがたい眠気に襲われ瞬時にその場に崩れ落ちる。

イブリアな大きな魔力を使ったのに気付いたディートリヒがその場にゲートを開いた頃にはもうイブリアの姿は無かった。


「…‥イブっ!」


争った形跡が残るそこには、手袋が片方落ちており裏側にはケルエンの紋章が刺繍されていた。



大きさから女性か小柄な男性のものだろうその手袋を手にとってディートリヒは堪えきれない不甲斐なさと怒りが溢れるのに耐えた。



(僕が、守ると誓ったのに……っ)


ゲートでは痕跡が残る為、途中からはイブリアを抱えて逃走するケルエンの者達は人間とは思えない魔力の圧力に思わず足がすくんだ。


「化け物がいるな……」


「追いつかれる前に次のゲート地点まで急ぐぞ!」


「おい女!一度は不意をつけたが二度目はこの令嬢に瞬殺されるぞ!本当に目を覚さないんだろうな?」


「……」

頷いたフードの女に舌打ちしたケルエンの者達は、迫るディートリヒの魔力に怯えながら急いだ。








しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。

パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。 全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

処理中です...