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大切な人は近頃不調
しおりを挟む食事の最中、いつもと違って酷く顔色が悪いイブリアは、
「ちょっとごめんなさい」と席を立った。
「イブ、大丈夫ですか?顔色が良くありません」
「大丈夫……直ぐに戻るわ」
「無理しないで、イブ。……アンセル医者を呼んでくれ」
「御意」
「ヒッピ、イブに付き添って。頼んだぞ」
「御意っ!」
一大事だとでも言うようなディートリヒの真剣な顔付きにイブリアは大丈夫だと言って笑ったが、ディートリヒはアンセルに命じて主治医の他に直ぐに集められるだけの医者を集めた。
何せこんなことは今日が初めてではなく、気丈に振る舞っているもののイブリアはここ最近ずっとこうなのだ。
明らかに体調が悪そうなのに、まだまだ新興貴族であるシュテルンの為に領地の運営や商いについてディートリヒに教えたり、使用人の管理に尽力していた。
ディートリヒがいくら止めても「少しの不調で休んでいる場合ではないわ」とベッドに運ぶしりから起き上がってくるのだ。
なるべく執務を減らして、ディートリヒが側にいるようにしたものの今日の食事ではとうとう気分が悪そうに席を立つのだからもうディートリヒの顔からは顔色が抜け落ちて、「僕のせいだ」と慌てふためいていた。
自分がハナから大貴族であれば、このような苦労をかけずともすんだのかなどと今まで考えたこともないような事さえ考えてしまう。
「余計な事は考えなさんな、侯爵様」
シュテルンに志願してやってきた者の内、元は子爵令嬢で独身を貫いたまま五十の歳までとある研究に明け暮れていたのだと快活に笑った後、素晴らしい技術でイブリアを夢中にさせた彼女は時には姉のような、母のような存在とも言えた。
今はイブリアのメイドを纏める年長のメイドとして良くやってくれている。
そういう彼女、エミ・レーインもまた何処か心配そうではあったが、何か思うことがあるのか「きっと大丈夫ですよ」と微笑んだ。
アメリアとメアリに至っては何やら指を折って数え始めて、連絡が行ったのか飛んできたカミルはマルティナを連れてゲートを開いてきた。
「ディート、イブは!?」
「イブちゃんは、大丈夫?」
「……今は医者に」
不安げにオロオロするカミルを支えるように付き添うマルティナもまた心配そうで皆で医者の診断結果を待った。
それぞれがソワソワと医者達が出てくるのを待つこと少し、穏やかな表情の主治医に続いて出来た医師達とすこし恥ずかしげなイブリア。
「あんなに沢山医師を呼んだのね、ふふ」
「イブの一大事はシュテルンの一大事ですので」
「ディートは子供の頃なんてイブがちょっと紙で手を切っただけでも抱えて歩くんだ、恥ずかしさでイブ泣かせてオロオロしてたよなぁ」
「カミル、その話は今しなくても良いだろう」
耳を赤くしてカミルを睨んだディートリヒと、無事に自ら歩いて部屋を出てきたイブリアに皆ほっとしたように笑った。
「ディート、沢山呼びすぎよ……けれど心配してくれてありがとう、皆も」
「それで、イブ……」
「ディートリヒ様、一度一緒に部屋でご説明致します」
「イブは悪いのか!?」
「お兄様、大丈夫よ。もう少しだけ待っててくれる?」
「……あぁ」
主治医以外の医者を皆帰すと、主治医とイブリアと共に部屋に入って行ったディートリヒは想像とは違う診断に思わずピタリと一瞬動きを止めた。
「イブリア様は、妊娠二ヶ月です」
「……っ、それは本当か!?」
「ディート、まだ結婚式を挙げられてないけれど私……」
不安げにディートリヒを見たイブリアは突然涙を流すディートリヒに驚いた。
「ディートっ!?」
「イブ!!ありがとう!僕達の子だ、イルザ様には殺されるかもしれないが……それでも嬉しいんです」
イブリアを抱きしめたディートリヒがあまりにも涙を流して喜ぶものだから、ほっとしたイブリアもまた涙を流した。
「良かった……きっとお父様も喜んでくれるわ」
「式は早めましょう。イルザ様にはすぐ報告に行きます、イブは休んでて……」
待ちきれないで扉の前をウロウロしているであろうカミル達に報告すべく二人は手を握り合って扉を開けた。
「イブは、健康です皆さん」
「私達の子が、家族ができたの……」
「「「「「!!!」」」」」
「イブ!!凄いぞっ!!無事で良かった!!!」
「こら、カミル。イブちゃんの身体に障るから下ろしてあげて」
「「やっぱり!」」
「アメリア、メアリ……気付いていたの?」
「さっき気付いたんです」
「二人で一生懸命に考えている内に」
「僕は、父親になりますカミル」
「お、俺も負けねー」
「もう、カミルったら」
「お兄様……」
そしてバロウズ邸では……
「イルザ様、イブリアお嬢様がご懐妊なさいました。只今ご報告が」
「……そうか」
「葉巻が逆です。明日すぐにディートリヒ様が来られるようです」
「そうか」
「涙が……」
「泣いていない、さっさと仕事に戻れ。馬鹿息子を連れ戻せ」
「御意」
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