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11、優しくしないでください。
しおりを挟むヒューバート様に一目惚れしてから8年。
私の事を愛してくれる様子もないあの人のことを、よく愛し続けられるなと自分でも思う。
だけど、ヒューバート様の匂いがする布団に包まれれば馬鹿みたいに幸せな気持ちになり、ヒューバート様に話しかけられればどんな言葉でも嬉しくなってしまう。
恋とは、本当に厄介なものね。
相手の言葉に一喜一憂して、本当に疲れるわ。
私がまたここに戻ってこられたのは、私のお腹に彼の子供がいると分かったからでしょうね。
私になんて興味はないでしょうが、子供がいるとなれば話は変わってくるものね。
メイドを10人も付けるほどだから、余程子供のことが気になるのかしら。
子供が生まれれば、もしかすると彼は子煩悩な父親になるかもしれない…いえ、そんな姿は全然想像できないわ。
おそらく私が産むまでは全てメイドに様子を見させて、就寝の時くらいしか顔を合わせることがないでしょうし、子供が産まれてからも子供は全てメイドに任せるでしょうね。
仕事以外の事を気にするヒューバート様なんてありえないもの。
「あの、少しお散歩をしてきてもいいかしら?」
ヒューバート様が子煩悩とか、ありもしない事ばかり考えてしまうから気分転換にお散歩でもしよう。
何もせずにじっとしていると変な事考えばかり浮かんでくるようになるものね。
「承知致しました。では、外出の準備を致します」
「よろしくね」
散歩をしたいと言えば1人のメイドが部屋の外へ出て行ったけど、一体どんな準備をするつもりなのかしら。
「待たせたな」
外へ出て行ったメイドを待っていると、何故かお仕事をしているはずのヒューバート様が部屋へと入って来られる。
「・・・・・・あの、何か御用でしょうか?」
お仕事中に私の所へ来るなんて、惚れ薬を飲んだ時以外見たことがないわ。
一体私にどんな御用なのかしら…。
いえ、よく考えればここはヒューバート様の部屋なのだから、この部屋になにか忘れ物を取りに来たと考える方が普通だわ。
私ったら、何を勘違いしてしまったのかしら、恥ずかしい。
「何をぼーっとしている。外出するなら早く行くぞ」
「外出?ギルベルタ様もどこかへお出かけなさるのですか?」
「なにを言っているんだ。君が外出すると聞いたからここまで来たんだろうが」
「・・・・・・何故ですか?」
私が外出、という名のお散歩をするのに、なぜヒューバート様が付き添われようとしているのか理解出来ないわ。
「そんな身体の君を放っておける程俺は薄情ではない。お腹の子にもしもの事があっても困るしな」
ああ、そういう事ですか…。
私の心配をされているのではなく、お腹にいる子供を心配されていたのね。
それもそうよね、ヒューバート様が私自身のことを心配して来てくださるなんてありえないものね。
私を心配してヒューバート様が付き添って下さると思って嬉しくなるなんて、本当に馬鹿よね。
今もまだ、ヒューバート様が私に好意を持ってくださるんじゃないか、なんて期待して…本当に救いようのない馬鹿だわ。
「では、行くか」
差し伸べられた手を無意識に取ってしまう私も、本当に馬鹿。
手を繋いでくれることに顔が熱くなっていく私も、本当に馬鹿。
「どこへ行くつもりだったんだ」
「外の空気を吸いたかっただけですので、もう部屋に戻ります」
「まだ庭に出たばかりなのにか?」
本当にお庭へ5歩ほど出た所だけど、目的地を決めていたわけでもないし、私に付き添うことでヒューバート様の仕事の時間を削ってしまうのは申し訳ないわ。
「もう十分です。お付き合い頂きありがとうございました」
「体調が優れないのか?」
「いえ、そんなことはありません。ですが、外に出られただけで満足ですので、もう部屋に戻ります」
ヒューバート様から手を離して踵を返そうとすると、ヒューバート様に腕を掴まれる。
「体調が悪くないのなら、俺の散歩に付き合ってくれ」
「え…?……あの、お仕事は?」
「息抜きだ。散歩が終われば直ぐに片付けるから問題ない」
そう言ってヒューバート様は掴んだ私の腕を離して、変わりに手を繋いで庭へと進んでいく。
繋がれた手はとても暖かく、歩く速度は私に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
私の事を気にしてくれているのだと思うと、胸がなんだか暖かくなる。
だけど、これは私が彼の子供を身篭ったからしてくれる事で、私だけの為ではないわ。
油断すると直ぐにヒューバート様が私に好意を抱いてくれているのだと勘違いしそうになるから、気を付けないといけないわ。
じゃないと、ヒューバート様への未練が断ち切れ無くて、彼と離れることを受け入れられなくなりそうだから。
みっともなくヒューバート様に縋ることがないように、彼の言動を勘違いすることなく、彼へのこの気持ちを整理させておかないと…。
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