11 / 24
11、優しくしないでください。
しおりを挟むヒューバート様に一目惚れしてから8年。
私の事を愛してくれる様子もないあの人のことを、よく愛し続けられるなと自分でも思う。
だけど、ヒューバート様の匂いがする布団に包まれれば馬鹿みたいに幸せな気持ちになり、ヒューバート様に話しかけられればどんな言葉でも嬉しくなってしまう。
恋とは、本当に厄介なものね。
相手の言葉に一喜一憂して、本当に疲れるわ。
私がまたここに戻ってこられたのは、私のお腹に彼の子供がいると分かったからでしょうね。
私になんて興味はないでしょうが、子供がいるとなれば話は変わってくるものね。
メイドを10人も付けるほどだから、余程子供のことが気になるのかしら。
子供が生まれれば、もしかすると彼は子煩悩な父親になるかもしれない…いえ、そんな姿は全然想像できないわ。
おそらく私が産むまでは全てメイドに様子を見させて、就寝の時くらいしか顔を合わせることがないでしょうし、子供が産まれてからも子供は全てメイドに任せるでしょうね。
仕事以外の事を気にするヒューバート様なんてありえないもの。
「あの、少しお散歩をしてきてもいいかしら?」
ヒューバート様が子煩悩とか、ありもしない事ばかり考えてしまうから気分転換にお散歩でもしよう。
何もせずにじっとしていると変な事考えばかり浮かんでくるようになるものね。
「承知致しました。では、外出の準備を致します」
「よろしくね」
散歩をしたいと言えば1人のメイドが部屋の外へ出て行ったけど、一体どんな準備をするつもりなのかしら。
「待たせたな」
外へ出て行ったメイドを待っていると、何故かお仕事をしているはずのヒューバート様が部屋へと入って来られる。
「・・・・・・あの、何か御用でしょうか?」
お仕事中に私の所へ来るなんて、惚れ薬を飲んだ時以外見たことがないわ。
一体私にどんな御用なのかしら…。
いえ、よく考えればここはヒューバート様の部屋なのだから、この部屋になにか忘れ物を取りに来たと考える方が普通だわ。
私ったら、何を勘違いしてしまったのかしら、恥ずかしい。
「何をぼーっとしている。外出するなら早く行くぞ」
「外出?ギルベルタ様もどこかへお出かけなさるのですか?」
「なにを言っているんだ。君が外出すると聞いたからここまで来たんだろうが」
「・・・・・・何故ですか?」
私が外出、という名のお散歩をするのに、なぜヒューバート様が付き添われようとしているのか理解出来ないわ。
「そんな身体の君を放っておける程俺は薄情ではない。お腹の子にもしもの事があっても困るしな」
ああ、そういう事ですか…。
私の心配をされているのではなく、お腹にいる子供を心配されていたのね。
それもそうよね、ヒューバート様が私自身のことを心配して来てくださるなんてありえないものね。
私を心配してヒューバート様が付き添って下さると思って嬉しくなるなんて、本当に馬鹿よね。
今もまだ、ヒューバート様が私に好意を持ってくださるんじゃないか、なんて期待して…本当に救いようのない馬鹿だわ。
「では、行くか」
差し伸べられた手を無意識に取ってしまう私も、本当に馬鹿。
手を繋いでくれることに顔が熱くなっていく私も、本当に馬鹿。
「どこへ行くつもりだったんだ」
「外の空気を吸いたかっただけですので、もう部屋に戻ります」
「まだ庭に出たばかりなのにか?」
本当にお庭へ5歩ほど出た所だけど、目的地を決めていたわけでもないし、私に付き添うことでヒューバート様の仕事の時間を削ってしまうのは申し訳ないわ。
「もう十分です。お付き合い頂きありがとうございました」
「体調が優れないのか?」
「いえ、そんなことはありません。ですが、外に出られただけで満足ですので、もう部屋に戻ります」
ヒューバート様から手を離して踵を返そうとすると、ヒューバート様に腕を掴まれる。
「体調が悪くないのなら、俺の散歩に付き合ってくれ」
「え…?……あの、お仕事は?」
「息抜きだ。散歩が終われば直ぐに片付けるから問題ない」
そう言ってヒューバート様は掴んだ私の腕を離して、変わりに手を繋いで庭へと進んでいく。
繋がれた手はとても暖かく、歩く速度は私に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
私の事を気にしてくれているのだと思うと、胸がなんだか暖かくなる。
だけど、これは私が彼の子供を身篭ったからしてくれる事で、私だけの為ではないわ。
油断すると直ぐにヒューバート様が私に好意を抱いてくれているのだと勘違いしそうになるから、気を付けないといけないわ。
じゃないと、ヒューバート様への未練が断ち切れ無くて、彼と離れることを受け入れられなくなりそうだから。
みっともなくヒューバート様に縋ることがないように、彼の言動を勘違いすることなく、彼へのこの気持ちを整理させておかないと…。
656
あなたにおすすめの小説
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
僕の婚約者は今日も麗しい
蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。
婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。
そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。
変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。
たぶん。きっと。幸せにしたい、です。
※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。
心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。
ありがとうございました。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
氷の公爵の婚姻試験
潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。
海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。
「君を愛する気はない」
そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。
だからハッキリと私は述べた。たった一文を。
「逃げるのですね?」
誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。
「レシールと向き合って私に何の得がある?」
「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」
「レシール・リディーア、覚悟していろ」
それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。
[登場人物]
レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。
×
セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする
志熊みゅう
恋愛
伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。
貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?
すれ違いから始まる逆転ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる