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10、また戻ってきてしまった。

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寸前のところでヒューバート様が後ろから支えてくれて、なんとか地面に倒れこまずに済んだ。


「体調が悪いなら無理して動くな。直ぐに医者を読んでくるから君は寝えおけ」
「そんな、お医者様に見ていただくほどではありませんから」
「そういうことはその真っ青な顔色をどうにかしてから言え」


真っ青?


足早に部屋から出ていったヒューバート様の後ろ姿を見ながら、自分の顔を触ってみる。


そんなにも私の顔色は良くないのしら…?
ヒューバート様が急いでお医者様を呼びに行くくらいだから、もしかすると酷い顔色をしているのかもしれないわ。


最近食欲がなくてあまり食べられない時が多いせいか、貧血のような症状によくなる。
今回のめまいもそれが原因かしら。


月のモノがあればよくなっていた症状でもあるので、これくらいでお医者様に来ていただく必要は無いと思うのに。
ヒューバート様は案外心配性なのかしら。


そんなことを考えながら、ヒューバート様が戻ってくるまでは大人しくベッドで横になりお医者様が到着されるのを待った。


お医者様が到着されてからいくつか質問に答え、診察していただく。


診察が終わり、お医者様が最初に発した言葉は。


「おめでとうございます」


だった。


お医者様の言葉に一瞬思考が止まる。


おめでとうございます…?
そんな言葉を仰るなんて、まるで…。
まるで私が…。


「ほぼ間違いなく、ご懐妊されています」
「うそ…」
「………」


お医者様から祝福してもらえたけど、素直に喜べそうにない。
子供は結婚生活の間でずっと望んでいたので、懐妊できたことは本当に嬉しい。
だけど、今はもうお腹の子の父親であるヒューバート様とは離婚している状態で、そのヒューバート様が現在一緒に懐妊した事を聞いているこの状況にいたたまれなくなる。


旦那様からすれば、お腹にいる子は惚れ薬を飲んで正常な判断が出来ない時に出来た子供で、望んでいない子だろう。


1人でも産んで育てていく覚悟はあるけれど、ヒューバート様が産むことを許してくださるかしら。


「妊娠の初期症状として、めまいや食欲不振等の体調不良が見られますので、それらが落ち着くまでは無理をせず安静にお過ごし下さい」
「分かりました。なるべくそうするように致します」
「…………」


実家に戻って事情を説明すれば、きっと部屋で過ごさせて頂けるだろうし、早く荷物をまとめて家に戻った方がいいわね。


懐妊という言葉を聞いてから、ヒューバート様はずっと黙ってらっしゃるけど、堕ろせなんて言われたりしないわよね。
もし言われたとしても従うつもりはない。
だけど、何か言われない為にも早く家に帰らないと。


お医者を見送ってから直ぐに荷物をまとめ、馬車へと乗り込む。
その乗り込んだ馬車の隣で馬に乗ったヒューバート様が並走されているけど、家に帰れるのなら何でもいいわ。


道中ヒューバート様の綺麗な顔を見ていれば、この胸の気持ち悪さも少しは紛れてくれるかもしれない。
妊娠初期については聞いていたけど、まさかこんなにも辛いとは思わなかったわ。


馬車酔いなんて1度もしたことがなかったのに、今は馬車の揺れで吐き気を催してくる。


早く着いてくれれば良いのに…。


馬車での移動がこんなにも苦痛だとは思わなかったわ。
ヒューバート様が私の身体を気遣って休憩を何度も取ってくれたけれど、吐き気は目的地に着くまで収まることがなかった。


「着いたぞ」


結局目的地まで着いてきてくださったヒューバート様の手を取り馬車から降りる。
顔を上げて見た建物は、どこからどう見ても私が少し前まで住んでいたヒューバート様のお屋敷。


「君の家よりここの方が近いだろ。あと何日も馬車で揺られるのは限界だろうし、様態が落ち着くまでここにいろ」


そんな事は出来ません。
と言いたいところだけど、ヒューバート様の言う通り、あと数日馬車で揺られるのは耐えられそうにないので素直にヒューバート様のお屋敷へとお邪魔する。



ここを出る時は、もう二度と来ることは無いだろうと思っていたのに、まさか二週間ほどで戻ってくるとは思っていなかったわ。


私が使っていた部屋は次の伴侶の為のものだから、私がまたそこを使えるわけがないわよね。
それなら、客室にでも泊めていただけるのかしら。


「仕事が終われば直ぐに戻ってくる。大人しく寝ていろ」


そう言ってヒューバート様は私がベッドで横になるのを見届けてから部屋を出ていった。


どうしてまたここで眠ることになったのかしら…。
まさかヒューバート様の部屋に案内してもらえるなんて予想していなかったわ…。


ここに居た方が私を監視出来るからと仰っていたけど、前はどうあれ今は人のお家なのだから勝手に出歩いたりなんてしないのに。
メイドも10人ほど付けて部屋を出ていくなんて、私は一体何をすると思われているのかしら。


体調が悪くて動き回ったりなんて出来ないのに、信用がないのね。
三年も一緒にいたのに、なんだか落ち込んでしまうわ。


3年間過ごしても、私達の間には信頼も何も生まれなかったのね…。




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