離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

しあ

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16、まだ信じられません。

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必死な形相のヒューバート様に、なんと答えていいか分からない。


素直に私も同じ気持ちですと言えばいいの?
だけどこれがまた惚れ薬を飲んだ時みたいに一時的なものだったらどうするの?
ヒューバート様の言葉を信じたいけど、信じられない。


「今まで君を蔑ろにしていた俺が言っても信じられないかもしれない。だが、少しだけでいい。俺の気持ちを信じてくれないか」
「惚れ薬の事もあるので……申し訳ありませんが、すぐに信じることはできません」


これが、今私が答えられる精一杯。
やはり、ヒューバート様の言葉を今すぐに信じることは出来ない。


「わかった…。それなら、子供を産むまでの間だけでもいいから、俺の傍で俺の気持ちが本心なのかを見極めてほしい。そして、信じてくれたのなら、俺とまた夫婦になってくれるかを考えてほしい」
「本気なのですか…?」
「ああ、ここにいる間は決して君が嫌がることはしないと誓う。だから、ここに残ってほしい」


切実な表情で言われた言葉に、無意識に口が動いてしまう。


「わかりました」
「本当か!?」
「!」


自分の口から出た言葉に自分で驚く。


私は、一体なにを言っているの…!
もうヒューバート様とは離れると決めたのに、どうして了承してしまったのかしら。
今からでも否定しなくては…。


「ありがとう、ロズ」


手首を離されたと思えば、嬉しそうに笑うヒューバート様に優しく抱きしめられる。


こんなにも嬉しそうな顔、惚れ薬を飲んだ時でさえ見たことがないかもしれないわ。


「さっきは俺のせいで走らせてしまったから、身体を休めるためにもベッドに戻るぞ」
「きゃ、!」


突然横抱きされて、思わず声が漏れる。


「あの、自分で歩けますから下ろしてください」
「ダメだ。医者から安静にしろと言われているんだ。それなのに走ってしまったのだから俺が連れて行く」
「これくらい問題ありませんわ」
「身体を大事にしてくれ。君に何かあれば俺が平常心でいられないんだ。部屋に戻ってから医者に見てもらうぞ」
「それはいくらなんでも過保護過ぎます」


走ったと言っても全力ではないのだから、そんなに心配されなくてもいいのに。


「俺が心配なんだ。悪いが俺の心配性に付き合ってくれ」


ズルい。
そんな風に笑顔を見せられたら、何も言えなくなってしまうわ。


「それで、何か食べたいものはあるか?」
「……………いちごが食べたいです」
「わかった。イチゴだな」


ズルいヒューバート様に少し仕返しをしようと思って言った言葉だったのに、何故か嬉しそうに目を細められてしまう。
少し困らせようと思ったのに、私の顔を赤く染められるなんて予想外だったわ。


なんだか恥ずかしくなって両手で顔を隠せば、ヒューバート様がクスリと笑う声が聞こえた。
今顔を覆っている手を離せば、目を細めたヒューバート様と目が合う気がして余計に手を外すことが出来ない。


「もっと遠慮なく言ってくれ。ロズの望むことはなんでも叶えたいからな」


なにを仰っているのかしら。
この人は本当に、女性嫌いで妻だった私にも無関心だった旦那様なの?
本当にまた惚れ薬を飲んでしまったのでは無いかしら…。


顔を覆いながらヒューバート様を疑う。
けれど、お医者を呼んでヒューバート様を診てもらっても惚れ薬を飲んでいないと言われてしまう。


惚れ薬の効果が切れる1ヶ月まで様子を見てみたけど、ヒューバート様は相変わらず私に優しく接してくれて、隙あらば愛を囁きかけてくる。


「今日でロズに告白してから、1ヶ月と1週間経つが、まだ俺の気持ちが本心だと信じてくれないのか」


寂しそうに笑うヒューバート様に少し申し訳なくなるけど、まだ信じられそうにない。
いいえ、正確には信じられそうにないのではなくて、信じるのが怖い。


ヒューバート様に愛されていると喜んで、その後に嘘だったと言われるのが怖い。
自分でも臆病になり過ぎていると思う。


だけど、ヒューバート様が私を愛して下さる理由が全く分からない。


ヒューバート様が変わったのは惚れ薬を飲んでから。
だとすると、惚れ薬の副作用か後遺症によって私への気持ちを錯覚されているという可能性も捨てきれない。


「なにをそんなに悩んでいるんだ。眉間にシワがよっているぞ」


ツンと眉間がつつかれて顔を上げれば、心配そうな顔をしたヒューバート様と目が合う。


「そんなにも俺の事が信じられないのか?今までの俺が招いた事とはいえ、ここまで信じてもらえないとは予想外だったな」
「申し訳、ありません…」
「いや、ロズが謝ることじゃない。元々長期戦覚悟だったからな、これくらいなんともない」


全然めげないヒューバート様に、ふつふつと疑問が溢れてくる。


どうして素っ気ない私にそんな優しい眼差しを向けてくるのかしら。
どうして私を視界に入れただけで、そんなにも幸せそうに笑うのかしら。
どうして毎日飽きもせずに、時間が出来たら共に過ごそうとして下さるのかしら。




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