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22、素直に…。
しおりを挟む今のヒューバート様は私の事を一途に想って下さるし、私の気持ちを蔑ろにする事は決してない。
そんなヒューバート様に不満なんてあるはずがない。
「なら、何故夫婦になる事を頑なに拒むんだ」
「それは…」
「やはり俺に不満があるのか」
「いえ、そうではありません!ただ…私が…私が欲張りになってしまいそうで怖いんです!」
今まで秘めていた感情を意を決して伝えれば、ヒューバート様がなにを言われたか分からないという顔をする。
「何に対して欲張りになるんだ?」
「それは…それは…!ヒューバート様からの愛を際限なく求めてしまいそうになるんです!」
私の事を愛していると言って下さったことは、本当に嬉しかった。
だけど、そう言われる度、愛されていると実感する度、もっと愛してもらいたいと心のどこかで思ってしまう。
これは片想い期間が長かった反動なのかもしれないけれど、両想いになれただけでも奇跡に近いのに、これ以上を求めるなんて欲張りが過ぎる。
今は離婚して他人として接しているから自制出来ているけど、夫婦に戻ればどうなるか分からない。
もっと愛してくださいと欲張ってヒューバート様からまた嫌われたくなんてない。
1度愛された経験があれば、もう一度嫌われるなんて耐えられるわけがない。
それなら、このまま他人のままでヒューバート様から嫌われることなく過ごせた方が余程いい。
「ヒューバート様にこれ以上愛してください。なんて言いたくはありません。夫婦に戻れば、きっと貴方は私の事を煩わしいと思うようになるはずです。なので、どうか私と夫婦に戻ろうとしないで下さい」
懇願するようにいえば、ヒューバート様が不思議そうな顔をする。
「愛している者からより愛されたいと思うのは、普通のことだろ。欲張りになってなにが悪い」
「はい…?」
首を傾げるヒューバート様に、私も同じように傾げてしまう。
「俺は君から愛されたいと思っているし、愛せなかった期間分も君を愛したいと思っている。むしろロズが欲張りになってくれるのなら、俺としては嬉し限りだ」
「何を仰っているのですか…?私が、仕事よりも私と一緒にいて欲しいと言うかもしれないのですよ」
仕事を大切にされているヒューバート様がこんな事を言われれば、きっと愛してくれていても不快に思うはずだわ。
「是非言ってくれ。そうやって甘えてくれると俺も嬉しいからな」
嬉しそうなヒューバート様の顔に言葉が詰まりそうになるけど、私の欲張りさを理解してもらう為言葉を続ける。
「何があっても食事は必ず一緒がいいなんて言うかもしれませんよ」
「それは俺も願っていたことだ。今日から君のいる場所で食事をとる事にしよう」
「っ、週に何度かお出かけがしたいです。目的を決めずに街で好き勝手歩いてみたいです」
「体調が良ければ明日行ってみるか」
「……ドレスを選んでいただきたいです。お腹の子の分と一緒に」
「任せろ。すぐに仕立て屋を呼んで君に似合いそうな物をオーダーしよう。子供については男女どちらでも着れそうなものを頼もうか。いや、子供の物ならロズも一緒に選んだ方がいいのではないか?」
ヒューバート様の提案に、それもそうですね。なんてうっかり返しそうになる。
どうして彼は私の言う事全てを嬉しそうに同意されるの。
私の言っていることは、どれも彼が嫌っていた面倒くさい女性そのもののはずなのに。
「ロズ。君は、俺が嫌っている女性がよくする要求をしているんだろう。だが、愛する君からそんなことを望まれて俺が嫌がるわけなんてないだろ」
「どうしてですか…?こんなにもわがままで欲張りな私は面倒ではないのですか」
「そんな訳ないだろ。愛している人から願われることは、どんな事でも叶えたいと思うのが恋というものだろ。そのことは、俺の為にもいつも動いてくれた君がよく分かっているはずだ」
ええ、とてもよく理解しています。
好きな人からお願いされることは、とても嬉しいことで、見返りなんて求めずに叶えたいと思ってしまう。
「ロズ、君が俺にどんなことを望もうとも、俺は君の事を嫌ったりしないと誓う。心配なら誓約書を書いたっていい。だから、俺のことを嫌っているのではないなら、俺とまた夫婦になってくれないか」
「………私、とてもわがままですよ」
「君にわがままを言ってもらえるなら本望だ」
優しく見つめてくるヒューバート様の目がなんだか恥ずかしくて下を向く。
「私、おそらくヒューバート様が想像されているよりもヒューバート様への愛が重いと思いますよ」
「そうか、それは朗報だな。俺も愛は重いようだからお揃いだな」
「…………こんな私で、いいのですか」
呟くようにそう言えば、突然ヒューバート様の匂いに包まれて、唇に柔らかいものが触れる。
ヒューバート様に抱きしめられてキスをされたのだと気付いた時には、キスが深いものに変わり、息をするのも精一杯で何も考えられなくなる。
ようやく唇が解放された時には少しふらつき、ヒューバート様に腰を支えられる。
「ロズでいいんじゃなく、ロズじゃないとダメなんだ。俺が生涯愛したいと思ったのは君だけだ、ロズ。俺ともう一度夫婦になってくれるだろ?」
聞かれた言葉に、キスの余韻でほぼ思考停止している私は何も考えずに頷いてしまう。
「俺をまた受け入れてくれてありがとう。今度こそ必ず君を幸せにすると誓う。愛している、ロズ」
「ん、」
息が整ってきた頃に、再び唇で口を塞がれる。
その後のことは、正直ハッキリとは覚えていない。
覚えていることといえば、終始幸せそうに微笑むヒューバート様と共に婚姻届にサインをしたことくらいだ。
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