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第九章 遠征討伐訓練
9-26 道草から学びを得る
しおりを挟む「うわぁ……すごいですねぇ」
「たかーいたかーいなのー!」
「リュートが小さく見えるよー!」
きゃっきゃはしゃぐ私たちは現在、ボーボの上で召喚獣団子状態である。
スムージーが良かったのか、それともココアが良かったのか、力が溢れた状態になったボーボが巨大化し、私たち召喚獣全員を背中に乗せて移動を開始したのだ。
最初は、それぞれの主が心配そうに見ていたのだが、全員が一塊になってはしゃぐ姿を見ていて和んだのか、今では談笑をしながら前へ進んでいるようである。
私は人型ではなく、エナガの姿で背中に乗っていたのだが、飛ばされたら危ないと、チェリシュが私と真白を抱えてくれた。
チェリシュを中心とした召喚獣団子の様子は、神界の太陽神と月の女神からも見えているのだろうか、しきりに空を見上げて笑うチェリシュの様子に、此方まで和んでしまう。
上から見ているとわかるのだが、リュート様たち特殊クラスと元クラスメイトたちで構成された黒の騎士団には余裕があるのだが、1年の違いしか無いはずの騎士科の人たちでもキツイのか隊列を乱す姿がうかがえた。
そこまで厳しい道のりなのか……と、一見なだらかに見える草原を見渡す。
背の高い草や、意外とキツイ傾斜が確実に体力を削っていくのだろう。
後方の魔法科などは、ついてくるだけでもやっと、といった状態である。
「そのうちへたり込みそうだよねー」
どうやら同じところを見ていたらしい真白の言葉に頷くと、「僕たちのご主人様はすごーい!」と召喚獣達が騒ぎ出す。
その気持ち、よくわかります! 私も、リュート様は凄いでしょう? って、言いたくなりますもの!
「ルナー! みんな、大丈夫そうかー?」
「はーい! 全員元気に『主すごーい!』と自慢大会をしておりますー!」
「え……あ、うん……そ、そうか……」
私の言葉を聞いた特殊クラスの全員が何とも気恥ずかしげに笑い合い、自分の召喚獣にサインを送ったり手を振ったりしている中、リュート様からは極上の笑みをいただいた私は、思わず翼で顔を覆い隠してしまった。
「……ルー……ベリリ……なの?」
「ち、違います。嬉しかっただけです」
チェリシュのベリリセンサーが発動する前に平常心へ戻った私は、心地良い日差しの中でうつらうつらしはじめた真白を見つめる。
どうやら、此方の世界へ渡ってくるために無茶をしたようで、疲れが溜まっているらしい。
本人は何も言わないが、リュート様が真白に聞こえないよう耳打ちをして心配していたので間違いないだろう。
本当にこの子は……
寄り添って少しでも元気になるように祈りながら、召喚獣たちの声に耳を傾ける。
楽しそうに、主の話をしたり、この世界へ来てからの生活を語ったり、元いた世界の話をしたりと話題に事欠かないようだ。
暫く和やかな雰囲気の中で目的地へ向かっていたのだが、急にチェリシュが顔を空へ向け、緊迫した空気を纏う。
「リュー! 二時の方向から何か来るの!」
「トリス!」
すぐさま反応をしたリュート様の指示に従い、トリス様は周囲をサーチしたようで、細かい情報を周囲へ伝達しているようであった。
リュート様は腰の刀――三日月宗近・神打を確認した後、ロン兄様と二言三言交わしてから黒の騎士団数名を連れて、チェリシュが言った方角へ走り出す。
リュート様の後ろを問題児トリオが走り、数名が左右へ展開する。
アクセン先生は全体の進行を止め、リュート様たちの状況が確認出来る位置へ移動するが、雰囲気から察するに問題はなさそうであった。
「んー……アレは、ボックルドリーの群れだねー。わぁ……リュートたちの圧勝だぁ」
いつの間にか起きてきた真白が、リュート様たちの状況を見るために目をこらして翼で器用に双眼鏡を持つような仕草をしているが、効果はあるのだろうか。
そんな事を考えながらボックルドリーとは何か質問すると、真白はニンマリとして「教えてあげるー!」と嬉しそうに此方を見て説明を開始してくれた。
どうやらこの地方ではよく見かける鳥の魔物らしく、群れとなって一直線に走るため、巻き込まれた人が怪我をし、畑を荒らされる被害も多いらしい。
ただ、それほど頭が良くないことと、進行する方角に壁を作ったり、罠を作ったりすることで対処できるため、そこまで危険視されていないようであった。
クラーケンも平気で相手をするリュート様たちからしたら、強い魔物では無かったようで、すぐさま片付けて戻ってきたのだが、怪我をしていないか心配でリュート様の元へ、チェリシュや真白と共に駆けつける。
すると、彼は私たちを抱きかかえて、上機嫌で話しかけてきた。
「ルナ、明日はチキンカレーにしようぜ! いい鳥肉が手に入ったからさ」
「え、えっと……ボックルドリーって……美味しいのですか?」
「肉質は硬いが煮込み料理に最適で、味も濃いからカレーにはよく合うだろうと思って……って、見えていたのか?」
「いいえ、真白が……」
「ああ、そういえば、お前は共食いになるのか」
「真白は神獣! 神獣の頂点にいる真白とあんなのを一緒にしないでよ! 形が似ていても、全くの別個体なのー!」
「まあ、ボックルドリーは、こんなにもちもちしてねーし、伸びねーわなぁ」
「流れるように、もにもにしないでええぇぇぇっ」
上機嫌で帰ってきたのはリュート様だけではなく、元クラスメイトたちも嬉しそうだから、彼らにとってボックルドリーは魔物であっても馴染みのある食材なのだろう。
「さーて……お前ら、反省会だ」
「了解っす!」
「やっぱり、あの動きは良くなかったよな」
「いえ、それよりも……」
私とチェリシュをロン兄様へ預けたリュート様は、モンドさんたちを引き連れて、少し前へ歩いて行ってしまう。
真剣な表情で話し合っている様子のリュート様と元クラスメイトたちの様子を見ているだけで、気持ちが引き締まる。
魔法や武器の確認だけではなく、先ほどの動きや連携の反省点を各々考え、次へつなげる議論をしているのだ。
急なことで対応せずに傍観者となるしか無かった特殊クラスの面々も、その内容に耳を傾け、少し驚いた様子を見せている。
「こういう道草をしながら学び、経験を積んでいく。それが黒の騎士団の本質ですよねぇ」
「全くその通りです。今年度の新人は、リュートのおかげで神力や大きな魔物にも臆さない手練れが多いから期待しているんですよ」
「元クラスメイト全員が黒の騎士団志望で全員合格なんて、今までにありませんでしたしねぇ」
「ええ、嬉しい限りです」
「それに、彼らであったからこそ、何の被害も無いどころか、瞬時に対処出来たと思っていますからねぇ……ボックルドリーとはいえ、壁や罠も無く戦えば危険ですし、昨年の卒業生だったら、確実に怪我人が出ていたでしょうねぇ」
「俺の同級生でも、新人の時は怪我人を出していたはずです。連携がよく取れて、魔物を倒すことに抵抗感が無い……いや、きっと……リュートを見てきた彼らは、もっと多くの事を学んでいるはずでしょう」
「そうですねぇ……学ぶべき相手、尊敬する相手、目標とする相手がいるということは、成長に繋がりますからねぇ」
特殊クラスの面々でも驚くほど真剣な討論を繰り返すリュート様たちを見ていると、彼らが背負った物の大きさを感じ取ることが出来たような気がした。
クラーケンと戦った時もそうだが、彼らは臆することが無かったし、リュート様を信じて前へ走り出すことが出来たのだ。
それが、どれほどの勇気を必要としているのか、私はまだ本当の意味でわかっていないのかもしれない。
ただ、どんな魔物であっても逃げることは許されないと考えて立ち向かうリュート様と、肩を並べて戦おうとする彼らは、とても貴重だということだけは理解出来る。
きっと、リュート様にとって元クラスメイトたちは安心して背中を預けられる仲間なのだ。
「リュート様は……とても良い仲間を得ているのですね」
「そうですねぇ。ラングレイ家の者が卒業する時に、黒の騎士団へ入団を希望する人は増えますが、リュート・ラングレイほど影響力がある者は、そういませんねぇ。きっと……彼は優しすぎますから、それがわかっているのでしょうねぇ」
それを理解しているアクセン先生も凄いのです……そう呟くと、彼は驚いたような顔をしてから、柔らかく微笑む。
「彼は、誰よりも過酷な人生を歩んでいますからねぇ。教師として手助けをしたいのは、当たり前ですねぇ」
それが当たり前ではないと、陰険教師を見た後の私は知っている。
召喚獣愛が強くてクセのある先生だけれど、常に生徒のことを考えてくれていることを知っているからこそ、特殊クラスの生徒は何も言わずについてくるのだろう。
一癖も二癖もあるクラスなのに、大した問題が起きないのは、そのせいではないだろうか。
「アクセン。道中は黒の騎士団とリュートがメインで動くのか?」
「そのつもりです。この道のりは、君たちでも体力が削られますからねぇ。初日でバテてもらっては困るのですよ」
レオ様の質問にニッコリ笑って答えているが、言っていることは辛辣だ。
どうやら、ここからが正念場になるらしく、さらに厳しい道のりとなるらしい。
リュート様やロン兄様たち黒の騎士団は平気だが、レオ様たちにとっては苦難の道となるだろうとアクセン先生は予測しているのである。
「召喚獣をボーボくんに任せたのは、そのためでもあります。できる限り、消耗を防ぎ、体力を温存してくださいねぇ」
そう言って、小高い丘を越えた向こう――アクセン先生が指し示した先に広がっていたのは、広大な湿地帯であった。
湿地を抜けた先に、目的地である森があるのだという。
既に、リュート様たちは湿地へ足を踏み入れており、スピードを落とすことも無く平然と突き進んでいる。
「リュートたちって……体力の化け物か何かか?」
「湿地は聞いてねぇよ……」
「マジかぁ……これは……キツくなるぞ……」
特殊クラスの面々が辟易した表情をしている中で、イーダ様が涙目になっているのは気のせいではないはずだ。
た、体力がもつのでしょうか……最終手段は俺が背負うからとレオ様が励ましながら、湿地帯へ足を踏み入れる一行をロン兄様の肩から眺め、なんだかとても申し訳ない気持ちになってしまったのは言うまでも無い。
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