『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼

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学院最強の魔術師を名乗り、クレイヴ先生を陥れた男を、私たちは打ち倒したのだ。
その時だった。

「なんだ!?ここで何が起きたんだ!!!」

鋭い声が森の静寂を切り裂いた。
振り返ると、学院の教師たちが数人、武器を手にこちらへ駆けつけてきていた。

「……『保険』達が遅ればせながら登場ですか。――少々、派手にやりすぎましたね」

マーカスが肩をすくめながら呟く。
確かに、既にリューガスの研究室だった部屋、そして用務員用の備品室だったものと学院の周辺の建物は全て吹き飛び、その上魔法の衝突による爆発や吹き飛んだ木々が周囲に散らばって、ここに大規模な隕石でも落ちたのかとすら思うくらいには酷い状態になっていた。こんな魔法をどかどか撃って、学院の建物を耕していたら、遠くからでも異常に気づかない方がおかしい。

私は胸を張り、凍りついたままのリューガスを指差した。

「この男がクレイヴ先生を陥れた張本人です!これが証拠です!!」

私は懐から事前に集めていた書類や証言の記録を取り出し、かつ先程の会話も全てこそっと記録しておいたシュリンガ―を見せつける。会話の一部が再生されて、教師たちが騒然としていた。ちゃんと私達もクレイヴ先生もどちらも有責にならない確かな証拠を自身の服の中に仕込んでおいて正解だった。

「これは……リューガス先生の筆跡……?」
「まさか、懲戒免職の報告書を改ざんしていたのか!?しかも、この研究、クレイヴ先生のものではなく、リューガス先生のものだった、と!!?」
「クレイヴ先生の無実を証明する証拠もあるぞ!しかもこの音声……リューガス、とんでもないことを――って君たちが、あの場所を吹き飛ばしたのか!!?……流石だな」

教師たちは次々に書類を手に取り、その内容に顔を強張らせた。なんだか最後の教師は私達にドン引きしながら、呆れていたような気がするが。失礼だと思う。
やがて、怒りに満ちた視線がリューガスに向けられる。

「リューガス、お前……! これはどういうことだ!」

ひとりの教師が彼を問い詰める。
だが、リューガスは何も言わなかった。ただ、封印の中で悔しそうに眉をひそめ、氷に縛られた体を微かに震わせるだけ。そう、動けなくはしてあるが、私たちは犯罪者になりたくはないので、きちんと彼の生命を保持していた。彼からしたらとどめを刺してやる方が優しさなのかもしれないが。
やがて、拘束のための魔法具を持った教師が彼に近づき、私に慎重に氷の拘束魔法を解除させてから、魔力封じの手枷をはめた。

リューガスはもう抵抗できない。

――完全に勝った。
そう思った瞬間、彼がぼそりと呟いた。

「私は……教師だったはずなのに、生徒からの好意すら、あの男に負けたのか……何も、勝てない」

その声には、怒りよりも、深い絶望が滲んでいた。
私は、一瞬言葉を失った。

マーカスも、普段なら軽口を叩くのに、今回は何も言えない様子だった。
だけど、私はすぐに息を吸い込んで、きっぱりと言い放った。

「……いいえ、あなたは最初から勝負になんてなっていなかったわ。だって、クレイヴ先生は私たちを利用しようとはしなかったもの」
「は……?」
「私たちは、誰かに強制されたからってその人を好きになるわけではありません。クレイヴ先生が生徒に慕われるのは、彼が誰かを利用しようとしなかったから。その言葉からして、あなたが負けたのは、勝負や勝つことにこだわりすぎて、好意すらもを『勝ち取るもの』だと勘違いしていたからですよ。……とはいっても、私達が敵に回っただけで、貴方を慕う生徒はいたかもしれませんが」

リューガスは、愕然とした表情で私を見つめた。
そして――力なく、静かに笑った。

「俺を慕っている生徒なんてきっといないよ……。ああ、そうだ。君たちの頑張りを評価してこれだけは。俺は計画の一部であって、結局はただの操り人形だ。覚悟しておくといい。本番は、これからさ」

教師たちはどういうことだと問い詰め続けていたが、結局そのまま、彼は何も言わずに連行されていった。本当に空っぽな人だと思った。勝ち負けや才能、注目されることにこだわり続けると、人間はあんなことになってしまうのだろうか。別に私は興味がなかっただけかもしれないが、あの人のことを悪く言っている生徒や教師の評判は聞いたことがない。今回だって、クレイヴ先生よりもリューガスの方を信じた人間がそれなりにいたから、こんなことになったのだろう。
だから、彼はもうクレイヴ先生と自分に関する勝ち負け以外は何も見えていない、悲しい状態だったのかもしれない。
彼の背中が消えていくのを見届けながら、マーカスがぼそっと呟く。

「……なんだったのでしょうか、最後の」
「分からないわ。興味ないですし。私はクレイヴ先生さえ帰ってきてくれればなんでもいい」
「それもそうですね」

勝ったはずなのに、心にはほんの少しのわだかまりが残った。
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