迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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4章

第13話

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「どうかな?」
 
 ゼノがそう訊ねると、ベルは首を横に振る。
 
「あれっ……。俺に引き取られるのがイヤだった?」

「……!(ぷるぷる)」 

 今度は慌てたように首を振った。

「じゃあ、なんで……」

「……」 

 そこでベルは、何か思い悩むように一度俯いてしまう。

 夕陽はすでに地平線の向こうへと落ちて、紫色の光がベルの頬を鮮やかに染めていた。
 その姿は、ゼノの目にどこか儚く映った。

 やがて。

 自身の中で一つの決断を下すように、ベルは静かに言葉を絞り出す。

「……ベルの故郷は、もうないの……。焼かれちゃったから……」

「っ?」

 ベルはそれから、自分の過去について口を開いた。



 故郷の島に、ネクローズという悪徳な奴隷商団の人族が押しかけてやって来たこと。
 彼らが数人のエルフの子供たちを攫い、島に火を放ったこと。
 誘惑に負けて、自分が奴隷商の者たちについて行ってしまったこと。
 両親に何も告げずに家を出てしまい、それを長い間ずっと後悔していること。

 また、レヴェナント旅団の鬼士たちに利用されてきたことや、ラチャオの村を焼き払うようにルーファウスに指示されたことも、ベルは包み隠さずに話した。

「……つまり、自分の身に命の危険が迫った時、〔ブレイジングバッシュ〕っていうスキルが発現するってことなのか?」

 ゼノの言葉に、ベルは力なく頷く。

「村を焼くように、強制的に仕向けられたなんて……ひどいです……」

「本当にふざけたクソ野郎だぜ……」

 ゼノも、モニカも、アーシャも。
 彼女の過去を聞いて胸を痛めた。

 1人の少女の人生が、身勝手な大人たちによって翻弄されるさまは、聞くに堪えないほどであった。

「……ベルには、もう家族って呼べる人はいなくて、それで……」

「もういい。十分だぜ……ベル」

「?」

「その、悪かった……。いろいろと失礼なこと言っちまって。あんたは、ガキんちょなんかじゃねーよ。誇り高き亜人族のエルフだ!」

 アーシャは、これまでの不寛容な態度を恥じるように、唇をぎゅっと結んで、ベルの肩に手を置いた。
 
「……わたしもです。ごめんなさい……。奴隷商会に話を通す必要があるなんて、勝手なことを言ってしまいました……」

 ベルは2人の謝罪に対しても、ぷるぷると首を横に振った。
 その顔はどこか赤い。

 そして、ゼノの方を向くと、不器用にもこう続ける。

「……だから、ゼノの提案は嬉しいけど……だいじょうぶ。大切なお金は、自分のために使ってほしいから」

「ベル……」 
 
 彼女は、そこで初めて笑顔を作ってみせた。
 だが、それが心からの笑みではないことに、ゼノはすぐに気付く。
 
 放っておけなかった。

 気付けば、ゼノの口からはこんな言葉が溢れ出ていた。

「ならさ……。俺がベルの家族になるよ」

「……え?」

「今日から君は、ベル・ウィンザーだ」

「ベル……ウィンザー?」

「ウィンザーっていう名は、お師匠様のファミリーネームなんだ。俺のゼノっていう名前も、その人が付けてくれたんだよ」

「お師匠様?」

「400年以上の時を生きる魔女――エメラルド・ウィンザー。それが俺のお師匠様なんだ」

「え……。400年……魔女……?」

 突然の提案に、ベルは理解が追いついていない様子だ。
 その他にも気になる点があるのか、頭にハテナマークを浮かべている。

「ま、待ってください……ゼノ様っ。ファミリーネームを与えるということは、ベルちゃんを養うってことですか?」

「うん。責任を持って俺がベルの面倒をみるよ。というわけで、今日から君は俺の妹だ。そうだな……これからは〝お兄ちゃん〟って呼んでくれてもいいぞ?」

「お兄ちゃん?」

「これなら、もう寂しくないでしょ?」

「!」

「そんな作り笑いはもうさせないから。悲しい思いも絶対にさせないよ。だから……どうかな? 俺と家族になってくれないか?」

「…………。お兄ちゃん……」

 ベルはその言葉を小さく口にする。
 まだ馴染みがないのか、どこか不安そうに目を彷徨わせていた。

 そんな姿を見て、モニカが話に加わってくる。

「でしたら! わたしはお姉ちゃんでいいですよぉ、ベルちゃん♪ 一度でいいからお姉ちゃんって呼ばれてみたかったんです♡」

「お……おい、ずりぃーぞ! モニカだけ!」

 アーシャも照れくさそうにしながら続いた。
 
「アタシも……! 姉ちゃんって、そう呼んでくれてもいーんだからな!?」

 モニカとアーシャの顔を交互に見ながら、ベルは唖然とする。

「お姉ちゃんも2人……?」

「そうだな。俺たちは全員家族だ。何かあったら、俺が絶対にベルを守る。約束だ」

「……」

 何か込み上げる想いがあったのか、ベルはそこで俯いてしまう。
 
 が。

 すぐに顔を上げると、パッと笑顔を輝かせた。

「うん……。ありがと……お兄ちゃん……」 

 それは、ベルがゼノたちの前で初めて見せた心からの笑みであった。



 ◆



 その後、4人はカロリング侯爵騎士団の監視塔まで行き、レヴェナント旅団のルーファウス一味をラウプホルツ古戦場跡で拘束した旨を伝えた。

 当然、その報告を受けた副団長は驚きの表情を浮かべたが、職務を全うするためにすぐに団員を引き連れて現場へと赴き、ルーファウス一味を王都へと連行したようであった。

 また、すでに辺りは暗くなっていたということもあり、この日は侯爵騎士団の好意に甘える形で、監視塔の騎士団宿舎に泊まらせてもらうことになった。



 翌日。
 ゼノたちは、侯爵騎士団に送迎されて、イニストラードへと帰還する。

 そのまま冒険者ギルドへ立ち寄ると、すでに侯爵騎士団から連絡が行っていたのか、入館と同時にギルド職員総出で感謝をされた。

 マシューが代表して、ゼノの前に出る。

「【天空の魔導団クランセレスティアル】の皆さんなら、やってくれると思ってました! これで、ラチャオと同じような悲劇を繰り返さなくて済みます。本当にありがとうございます!」

「いえ。俺たちは鬼士の1人を捕らえただけですから。そこまで感謝されると、恐縮してしまうというか……」

「何を仰いますか! レヴェナント旅団の鬼士を捕らえたのは、これまででゼノさんたちが初めてなんですよ? もっと、ご自身の功績に自信を持ってください!」

「はぁ」

 自分の領内でレヴェナント旅団の鬼士が捕まったということもあって、マシューは終始興奮気味だった。
 アスター王国だけでなく、メルカディアン大陸の国々も、今回の報せについては喜ぶに違いない、とマシューは嬉しそうに口にする。



 今回の報酬である金貨60枚を手渡すと、そこでマシューは思い出したように声を上げた。

「あっ、そうでした! 実は、ゼノさんたちに、お礼をお伝えしたいという者が来ておりまして……」

「お礼……ですか?」

「少々この場でお待ちください」

 マシューは一度席を外すと、受付カウンターの奥から白髪まじりの老人を連れて来る。

「……どなたなんでしょうか?」

「んだぁ? このじいさんは?」

 モニカとアーシャが疑問の声を上げると、マシューがそれに答える。 

「この方は、ラチャオで村長をやられていた方なんです」

 老人は、ゼノたちの前に出ると、深々と頭を下げた。

「このたびは、村を襲撃した者たちを捕らえていただきまして、誠にありがとうございました。なんとお礼を申し上げればよいか……」

 その時。
 ベルの目がハッと見開くのがゼノには分かった。

「じいさん、んな謝ることなんかねーぜ。そっちも大変だったろ」

「そうですね、お辛かったと思います。それに、レヴェナント旅団は大陸中で悪事を働いてますし。わたしたちも、ゼノ様が捕まえてくれてよかったぁーって感謝してるんです♪」

 そう言って、モニカが嬉しそうにゼノに抱きつく。
 それを目にして、村長は不思議そうに声を上げた。

「……ゼノ? そちらの殿方のお名前は、大賢者様と同じお名前なんですか?」

「はい。お師匠様にそう名付けてもらったんです。この度は、ご丁寧にどうもありがとうございます。本当に嬉しいです」

 ゼノも村長と同じように頭を下げた。

「魔法を使う姿なんか、ホントかっこいいんですよぉ~♪」

「ゼノはよ、天才魔導師なんだぜ!」

「魔導師……。なるほど、そうでしたか」

 それを聞いて、村長は納得したように頷いた。

「人魔大戦の頃にも、ラチャオは魔獣の襲撃に遭って壊滅の危機に陥ったことがあるのですが、その時に、大賢者様に救っていただいたという伝承が我が村には残っております。ゼノ様、これも何かの縁でしょう。本当に感謝いたします」

「いや……。俺はただ、自分にできることを必死にやっただけですから」

「ご謙遜なさらないでください。すべてゼノ様のおかげです。村人を代表してお礼申し上げます」

 村長がもう一度、深く頭を下げようとしたところで――。

「ごめんなさいっ!!」

 そんな大声がギルド全体に響き渡った。
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