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13話:異世界の奴隷制度と意外な美少女
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「10人の奴隷で、今までの10倍の生産が可能になると思うわ」
そう言うとツユクサ先生は、出された紅茶を手に取った。
それを少し口に含む。
ここに案内されたときに女中が出してくれたものだ。
熱そうなので、俺はまだ手を出していない。
前世から俺はネコ舌気味なんだ。
ここは食堂だった。
工房の中を区切って作った場所だ。
4~6人が座って食事がとれるだろうと感じのテーブルと椅子。
「んん? そうかい……」
カタクリ親方が揶揄の響きを持った声を発した。
凶相と言う言葉をそのまま、ビジュアル化したような顔が先生に向けられる。
その瞳が「これからオマエを殺す」と言っているような錯覚に陥るレベル。
ドンと無造作に太(ブ)っとい腕をテーブルに置いた。
太さはツユクサ先生のウエストといい勝負かもしれない。胸でも勝てるか?
忙しい仕事の最中に結構丁寧に仕事の内容を説明してくれたわけだし、それほど凶悪な人格ではないだろう。
ただ、説明の最中に混じる冗談はかなり下品だったが。
まあ、言葉は荒っぽく下品。
兇悪な相貌。しかし、そう悪人ではないだろう。
「ええ、そうですね。多分その程度は軽いでしょう」
ブルーの瞳が平然と見つめ返す。そして、自信たっぷりに言い放った。
トンと紅茶の入ったカップを置いた。先生の細い指に不釣り合いな武骨なカップだ。
カップというより「湯呑」と言った方がいいか。
「若い男性の奴隷。激しい肉体労働に耐えられる者となると…… 5グオルドはするんじゃないですか?」
先生の年収の半分だ。
平均的な一般家庭の年収からみれば2倍以上か。
「ん~ん。 先生、男の奴隷が欲しいのかい? 活きのいいヤツ。 げへへへへ」
「個人的にはこれっぽちも必要ないです。ただ、私の研究の実証実験には必要です」
21世紀であればセクハラ間違いなしのセリフ。
ツユクサ先生はそれを軽くいなす。
「若い男は高いんだよ。坊主どもも、若い男の奴隷のケツが好きだからかね」
平然と切り替えされ、ばつが悪そうに親方は言った。
下品なネタは挟んだままだったが。
「奴隷は教会認可の奴隷商人から?」
「まあな。昔は教会傘下のギルドに属していない自由奴隷商人も多かったがな。最近はトンと減ったな」
そういうと親方は馬鹿でかいカップでグイッとお茶を飲む。
ふぅ~と息を吐き出す。
先生相手に、話すのがやりにくそうな感じだ。
親方はテーブルに肘をつき、手を組んだ。
一転して真面目な顔で話しはじめた。
「安い奴隷を売ってくれる奴もいるんだろうが、質がなぁ…… 教会認可の奴隷商の方がしっかりしてらぁな」
この世界は奴隷で溢れている。
俺の家だって、細々とした家の雑事をこなす奴隷は何人もいた。
ただ、実家の場合女性の奴隷が多い。
主人に直接接するのは、奴隷ではない雇われたメイドや使用人だった。
ただ、それ以外の雑務を奴隷がこなしているのは、俺でも知っていた。
この王国で奴隷になるのは、戦争捕虜とか、戦争で流入してきた難民だ。
この王国は平和だ。
しかし、ユラシルド大陸では小競り合いを含めた戦争は絶えていない。
大陸全体に宗教的な支配力を持つ教会が、戦争捕虜の買取や、難民救済という名の奴隷の仕入れを行っていた。
で、そういった奴隷は、教会が認可した奴隷商人によって、大陸各地に出荷される。
経済的破綻で奴隷になる者もいたが、親族に資産のある者がいる場合、奴隷になることができない。
奴隷全体からしたら、数はそう多くない。
ああ、後は親が奴隷だと子ども奴隷だ。
この大陸の文明というか社会基盤は「奴隷」で支えられている。
でもって、これは幻想もクソもないこの異世界のどす黒い部分じゃないかと思う。
ラノベとかでよくある「奴隷ハーレム」やつ。
俺だって、ちょっと夢見たことも無いではない。
でもな、そんな甘いもんじゃないだよな。奴隷は……
そんな夢を持てる存在じゃない。
奴隷とは簡単にいえば、「人間の家畜」だ。
人間としての尊厳や自由は一切ない。
そりゃ、家畜が丁寧に扱われるのと同じくらいは、丁寧に扱われるのが普通だ。
肉体的に酷い目に遭うということは稀だろう。
労働効率をよく売るための「飴」もある。
奴隷の身分から解放される手段もある。
ゼロじゃないという意味では。
とにかく、人間が「家畜」として取引され、その労働が社会を支えている。
この異世界の現実ってやつだ。
貴族のボンボンでも、それは知っている。
別に「奴隷ハーレム」目指そうと思ってて、奴隷に詳しくなったわけではない。絶対にだ!
この世界はありとあらゆるところに奴隷がいるんだ。
そして、あらゆる仕事をこなしている。
ここ製紙工房だけでなく、あらゆる生産現場に奴隷は存在する。
性的な奉仕って場面で奴隷を使うこともないこともないと聞く。
貴族の中にも、そういう趣味を持つ者はいるという「噂」は聞いたことあった。
言ってみれば「奴隷ハーレム」を実現している貴族だよな。
ただそれは、この世界でも特殊な趣味だ。
公言できない。公言したら社会的に即死。
隠れてやってるの奴が、ゼロということではないというだけだ。
「奴隷」といっても生物的には「人間」だ。
中には凄まじい美少女奴隷もいるだろう。
しかし、その前に立ちふさがるのが、性的な道徳とか社会規範ね。
奴隷を性的な対象にするのは、その意味で結構厳しい。
社会的な意味で「家畜」だ。
「家畜」を性的な対象にするということだよ。
まあ、元の世界でも一部の遊牧民がヤギとかヒツジとかで――というのはあったけどね。
少なくとも、この異世界ではかなりタブー。
道徳とか規範を乗り越える奴は、いつの時代でもどこでもいるが少数だ。
俺はその少数派を目指す気などなかった。
18年間のリアルな異世界生活は、創作上の「奴隷ハーレム」の夢など簡単に粉砕する。
「俺も奴隷ハーレムを作りたいぜ!」と言うことは、「俺も牛、馬、豚、鶏、ヤギ、ヒツジのハーレムを作りたいぜ!」と言っているのと同じだ。
獣姦ハーレムだ。変態ムツ〇ロウ王国だよ。
そういうことで、さっきの親方の「男の奴隷が欲しいのかい? げへへへへ」はかなり失礼な言葉ではある。
現代日本だと「牡馬を使ってお楽しみするかい? げへへへへ」とお奨めしているようなものだ。
「親方―― いいですか?」
「なんだ? 客が来てるんだぜ」
俺の思考が、この部屋に入ってきた者の声で中断された。
親方と同じように頭にバンダナをまいた小柄な男だ。
ただ、バンダナの色が真っ赤だった。あまり汚れていない。小ぎれいな格好をしている。
「あッ…… すいません」
俺たちの方をチラリと見てペコリと頭を下げた。
小柄な男じゃないな。
男の子…… 少年といっていい年齢の子どもだ。
浅黒い肌で、精悍な整った顔をしていた。
「ボクの計算だと、そろそろ出荷価格は見直した方がいいです」
「またかぁぁ? その話は後にすりゃいいだろうがぁッ」
少年は、親方の放った荒っぽいく声にも平然としている。
「潰れちゃいますよ。隣の工房みたいに――」
「仕入れ値は変わってねーだろ? んん? なんでここで上げるんだ。いいから、後に――」
「ちょっと、その話。隣も製紙工房だったんですか?」
先生が食いついた。
「ん? ああ。そうだな。先月だな。夜逃げしたよ」
「奴隷の耐用年数を原価に入れずに、紙の価格を決めているのは間違いです」
その言葉に俺は、その精悍で利発そうな少年を見つめる。
この少年は「減価償却」のことを言っている。
生産に携わる奴隷は「資産」であるとするなら、それは「減価償却」の対象になる。
確かにそうだ……
「面白いことを言うわね。どういうことかしら?」
ブルーの瞳を輝かせ先生が食いついた。
しかし、好奇心強いよなぁ。
「気にすることはねーですぜ。先生」
そう言うと、親方はギョロっと巨大な目玉を少年に向けた。
「親方、彼は奴隷が歳をとることを言っているのでは?」
俺は言葉を発していた。
自分の知っていることが話題になったせいで我慢できなかったのか?
だって、そんなこと滅多にないから。知識チートとかないからね。
「んん? 学士さんよ。奴隷が年取ることを俺がしらねェといいたいのかい?」
空気が固形化するような殺気を身にまとって俺を見つめる。
ひぃぃぃぃ、こえぇぇぇぇ。
「いえ、いえ、いえ。最後まで聞いてください。そうじゃないですから!」
ブンブン首を振って俺は言った。
「重労働ですよね! この紙づくりは。技術もいりますよね!」
「まあ、そうだな」
腕を組んで俺をジッと見つめる親方。
思わぬところから助け舟が入ったことにキョトンとしながら立っている少年。
「歳を取ったら働けなくなりますよね」
「まあ、いつかはな」
「そのときにですね、新しい奴隷を仕入れるためのお金が必要になりますよね?」
「おお、それはそうだろうよ。分かるぜ? だから? え?」
「今の価格のままだと、奴隷が働けなくなったときに、新しい奴隷を買えなくなと言っているんじゃないですか? 新しい奴隷を買うときに、お金が無いと買えませんよ。それをこの子は言っているんでは?」
「ん? そうか? この学士さんの言ってるとおりか?」
「ボクは、それをずっと言っているんですけど…… お父ぅ…… いえ、親方」
まて、ちょとまて、今なんて言いかけた?
「お父さん」と言いかけたよな?
なにそれ?
この男の子と、親子なの? 血がつながってるの?
俺はあらためて、兇悪な相貌を見つめる。
直視し続けると、体が自然に恐怖で震えるレベルの凶相だ。
禁呪の「カガク」で遺伝に関する記述を調べたくなるわ。
「へぇ~ アナタ、よく知ってるわね」
あらためて感心したような声でツユクサ先生がいった。
内心ドヤ顔。
まあ、前世の俺は実家が自営業だったからだけど。
年末年始はドタバタ大変だったのだ。青色決算の申告があるのだ。
中学時代から、俺は帳簿やら決算、申告を手伝ったりしていたわけだよ。
「減価償却」もそこで身に着けた知識だけどね。
例えば、トラック運転手の自営業をやってるとする。
トラックを買って商売開始だ。
日々、プラスで儲かっている。ガソリン代を払っても、ちゃんと黒字で生活できる。
しかし、トラックはいつか壊れる。
そのときに、新しいトラックを買う金がなければ廃業だ。
奴隷の耐用年数を原価に入れて考えろとは、こんな感じのことだ。
「こんな小さな子が。すごいわね」
ツユクサ先生のお褒めのお言葉であった。
ただし、彼女の視線は俺ではなく、少年の方を向いているんですけど……
「なんだぁ? 正しいのか? それって? んん?」
「ボク計算しましたから」
「んん? 大学の先生や学士さんと同じことを言うのか…… 俺の娘が」
って―――――!!
ちょっと待てぇぇ!
今「娘」って言ったよな。
聞き違えじゃなきゃ。
俺はもう一度、その少年を見た。
美少年ではなく、美少女?
褐色の肌。バンダナからは癖のある黒い髪がはみ出ている。
眉は少女というには、ちょっと太い感じだが、キリリとしている。
理知的な大きな黒い瞳に、すっと通った鼻筋。
意志の強そうな感じのする口元。
「とにかくだ。その話は後だ。今は客人がいるんだしな」
「はい。すいません。あッ」
頭を下げた。その拍子にバンダナがはらりと解けた。
ちょっと癖のある長い黒髪が流れ落ちた。
慌てて、バンダナを拾い、恥ずかしそうにこちらを見て、去り際にもう一度頭を下げた。
この格好で最初からいれば、まず間違いなく男と間違えることはなかっただろう。
その後ろ姿を見つめていた。
ゴン――
いきなり、足を蹴飛ばされた。
先生?
なんです?
ツユクサ先生が怖い笑み浮かべ、俺を見つめていた。
そう言うとツユクサ先生は、出された紅茶を手に取った。
それを少し口に含む。
ここに案内されたときに女中が出してくれたものだ。
熱そうなので、俺はまだ手を出していない。
前世から俺はネコ舌気味なんだ。
ここは食堂だった。
工房の中を区切って作った場所だ。
4~6人が座って食事がとれるだろうと感じのテーブルと椅子。
「んん? そうかい……」
カタクリ親方が揶揄の響きを持った声を発した。
凶相と言う言葉をそのまま、ビジュアル化したような顔が先生に向けられる。
その瞳が「これからオマエを殺す」と言っているような錯覚に陥るレベル。
ドンと無造作に太(ブ)っとい腕をテーブルに置いた。
太さはツユクサ先生のウエストといい勝負かもしれない。胸でも勝てるか?
忙しい仕事の最中に結構丁寧に仕事の内容を説明してくれたわけだし、それほど凶悪な人格ではないだろう。
ただ、説明の最中に混じる冗談はかなり下品だったが。
まあ、言葉は荒っぽく下品。
兇悪な相貌。しかし、そう悪人ではないだろう。
「ええ、そうですね。多分その程度は軽いでしょう」
ブルーの瞳が平然と見つめ返す。そして、自信たっぷりに言い放った。
トンと紅茶の入ったカップを置いた。先生の細い指に不釣り合いな武骨なカップだ。
カップというより「湯呑」と言った方がいいか。
「若い男性の奴隷。激しい肉体労働に耐えられる者となると…… 5グオルドはするんじゃないですか?」
先生の年収の半分だ。
平均的な一般家庭の年収からみれば2倍以上か。
「ん~ん。 先生、男の奴隷が欲しいのかい? 活きのいいヤツ。 げへへへへ」
「個人的にはこれっぽちも必要ないです。ただ、私の研究の実証実験には必要です」
21世紀であればセクハラ間違いなしのセリフ。
ツユクサ先生はそれを軽くいなす。
「若い男は高いんだよ。坊主どもも、若い男の奴隷のケツが好きだからかね」
平然と切り替えされ、ばつが悪そうに親方は言った。
下品なネタは挟んだままだったが。
「奴隷は教会認可の奴隷商人から?」
「まあな。昔は教会傘下のギルドに属していない自由奴隷商人も多かったがな。最近はトンと減ったな」
そういうと親方は馬鹿でかいカップでグイッとお茶を飲む。
ふぅ~と息を吐き出す。
先生相手に、話すのがやりにくそうな感じだ。
親方はテーブルに肘をつき、手を組んだ。
一転して真面目な顔で話しはじめた。
「安い奴隷を売ってくれる奴もいるんだろうが、質がなぁ…… 教会認可の奴隷商の方がしっかりしてらぁな」
この世界は奴隷で溢れている。
俺の家だって、細々とした家の雑事をこなす奴隷は何人もいた。
ただ、実家の場合女性の奴隷が多い。
主人に直接接するのは、奴隷ではない雇われたメイドや使用人だった。
ただ、それ以外の雑務を奴隷がこなしているのは、俺でも知っていた。
この王国で奴隷になるのは、戦争捕虜とか、戦争で流入してきた難民だ。
この王国は平和だ。
しかし、ユラシルド大陸では小競り合いを含めた戦争は絶えていない。
大陸全体に宗教的な支配力を持つ教会が、戦争捕虜の買取や、難民救済という名の奴隷の仕入れを行っていた。
で、そういった奴隷は、教会が認可した奴隷商人によって、大陸各地に出荷される。
経済的破綻で奴隷になる者もいたが、親族に資産のある者がいる場合、奴隷になることができない。
奴隷全体からしたら、数はそう多くない。
ああ、後は親が奴隷だと子ども奴隷だ。
この大陸の文明というか社会基盤は「奴隷」で支えられている。
でもって、これは幻想もクソもないこの異世界のどす黒い部分じゃないかと思う。
ラノベとかでよくある「奴隷ハーレム」やつ。
俺だって、ちょっと夢見たことも無いではない。
でもな、そんな甘いもんじゃないだよな。奴隷は……
そんな夢を持てる存在じゃない。
奴隷とは簡単にいえば、「人間の家畜」だ。
人間としての尊厳や自由は一切ない。
そりゃ、家畜が丁寧に扱われるのと同じくらいは、丁寧に扱われるのが普通だ。
肉体的に酷い目に遭うということは稀だろう。
労働効率をよく売るための「飴」もある。
奴隷の身分から解放される手段もある。
ゼロじゃないという意味では。
とにかく、人間が「家畜」として取引され、その労働が社会を支えている。
この異世界の現実ってやつだ。
貴族のボンボンでも、それは知っている。
別に「奴隷ハーレム」目指そうと思ってて、奴隷に詳しくなったわけではない。絶対にだ!
この世界はありとあらゆるところに奴隷がいるんだ。
そして、あらゆる仕事をこなしている。
ここ製紙工房だけでなく、あらゆる生産現場に奴隷は存在する。
性的な奉仕って場面で奴隷を使うこともないこともないと聞く。
貴族の中にも、そういう趣味を持つ者はいるという「噂」は聞いたことあった。
言ってみれば「奴隷ハーレム」を実現している貴族だよな。
ただそれは、この世界でも特殊な趣味だ。
公言できない。公言したら社会的に即死。
隠れてやってるの奴が、ゼロということではないというだけだ。
「奴隷」といっても生物的には「人間」だ。
中には凄まじい美少女奴隷もいるだろう。
しかし、その前に立ちふさがるのが、性的な道徳とか社会規範ね。
奴隷を性的な対象にするのは、その意味で結構厳しい。
社会的な意味で「家畜」だ。
「家畜」を性的な対象にするということだよ。
まあ、元の世界でも一部の遊牧民がヤギとかヒツジとかで――というのはあったけどね。
少なくとも、この異世界ではかなりタブー。
道徳とか規範を乗り越える奴は、いつの時代でもどこでもいるが少数だ。
俺はその少数派を目指す気などなかった。
18年間のリアルな異世界生活は、創作上の「奴隷ハーレム」の夢など簡単に粉砕する。
「俺も奴隷ハーレムを作りたいぜ!」と言うことは、「俺も牛、馬、豚、鶏、ヤギ、ヒツジのハーレムを作りたいぜ!」と言っているのと同じだ。
獣姦ハーレムだ。変態ムツ〇ロウ王国だよ。
そういうことで、さっきの親方の「男の奴隷が欲しいのかい? げへへへへ」はかなり失礼な言葉ではある。
現代日本だと「牡馬を使ってお楽しみするかい? げへへへへ」とお奨めしているようなものだ。
「親方―― いいですか?」
「なんだ? 客が来てるんだぜ」
俺の思考が、この部屋に入ってきた者の声で中断された。
親方と同じように頭にバンダナをまいた小柄な男だ。
ただ、バンダナの色が真っ赤だった。あまり汚れていない。小ぎれいな格好をしている。
「あッ…… すいません」
俺たちの方をチラリと見てペコリと頭を下げた。
小柄な男じゃないな。
男の子…… 少年といっていい年齢の子どもだ。
浅黒い肌で、精悍な整った顔をしていた。
「ボクの計算だと、そろそろ出荷価格は見直した方がいいです」
「またかぁぁ? その話は後にすりゃいいだろうがぁッ」
少年は、親方の放った荒っぽいく声にも平然としている。
「潰れちゃいますよ。隣の工房みたいに――」
「仕入れ値は変わってねーだろ? んん? なんでここで上げるんだ。いいから、後に――」
「ちょっと、その話。隣も製紙工房だったんですか?」
先生が食いついた。
「ん? ああ。そうだな。先月だな。夜逃げしたよ」
「奴隷の耐用年数を原価に入れずに、紙の価格を決めているのは間違いです」
その言葉に俺は、その精悍で利発そうな少年を見つめる。
この少年は「減価償却」のことを言っている。
生産に携わる奴隷は「資産」であるとするなら、それは「減価償却」の対象になる。
確かにそうだ……
「面白いことを言うわね。どういうことかしら?」
ブルーの瞳を輝かせ先生が食いついた。
しかし、好奇心強いよなぁ。
「気にすることはねーですぜ。先生」
そう言うと、親方はギョロっと巨大な目玉を少年に向けた。
「親方、彼は奴隷が歳をとることを言っているのでは?」
俺は言葉を発していた。
自分の知っていることが話題になったせいで我慢できなかったのか?
だって、そんなこと滅多にないから。知識チートとかないからね。
「んん? 学士さんよ。奴隷が年取ることを俺がしらねェといいたいのかい?」
空気が固形化するような殺気を身にまとって俺を見つめる。
ひぃぃぃぃ、こえぇぇぇぇ。
「いえ、いえ、いえ。最後まで聞いてください。そうじゃないですから!」
ブンブン首を振って俺は言った。
「重労働ですよね! この紙づくりは。技術もいりますよね!」
「まあ、そうだな」
腕を組んで俺をジッと見つめる親方。
思わぬところから助け舟が入ったことにキョトンとしながら立っている少年。
「歳を取ったら働けなくなりますよね」
「まあ、いつかはな」
「そのときにですね、新しい奴隷を仕入れるためのお金が必要になりますよね?」
「おお、それはそうだろうよ。分かるぜ? だから? え?」
「今の価格のままだと、奴隷が働けなくなったときに、新しい奴隷を買えなくなと言っているんじゃないですか? 新しい奴隷を買うときに、お金が無いと買えませんよ。それをこの子は言っているんでは?」
「ん? そうか? この学士さんの言ってるとおりか?」
「ボクは、それをずっと言っているんですけど…… お父ぅ…… いえ、親方」
まて、ちょとまて、今なんて言いかけた?
「お父さん」と言いかけたよな?
なにそれ?
この男の子と、親子なの? 血がつながってるの?
俺はあらためて、兇悪な相貌を見つめる。
直視し続けると、体が自然に恐怖で震えるレベルの凶相だ。
禁呪の「カガク」で遺伝に関する記述を調べたくなるわ。
「へぇ~ アナタ、よく知ってるわね」
あらためて感心したような声でツユクサ先生がいった。
内心ドヤ顔。
まあ、前世の俺は実家が自営業だったからだけど。
年末年始はドタバタ大変だったのだ。青色決算の申告があるのだ。
中学時代から、俺は帳簿やら決算、申告を手伝ったりしていたわけだよ。
「減価償却」もそこで身に着けた知識だけどね。
例えば、トラック運転手の自営業をやってるとする。
トラックを買って商売開始だ。
日々、プラスで儲かっている。ガソリン代を払っても、ちゃんと黒字で生活できる。
しかし、トラックはいつか壊れる。
そのときに、新しいトラックを買う金がなければ廃業だ。
奴隷の耐用年数を原価に入れて考えろとは、こんな感じのことだ。
「こんな小さな子が。すごいわね」
ツユクサ先生のお褒めのお言葉であった。
ただし、彼女の視線は俺ではなく、少年の方を向いているんですけど……
「なんだぁ? 正しいのか? それって? んん?」
「ボク計算しましたから」
「んん? 大学の先生や学士さんと同じことを言うのか…… 俺の娘が」
って―――――!!
ちょっと待てぇぇ!
今「娘」って言ったよな。
聞き違えじゃなきゃ。
俺はもう一度、その少年を見た。
美少年ではなく、美少女?
褐色の肌。バンダナからは癖のある黒い髪がはみ出ている。
眉は少女というには、ちょっと太い感じだが、キリリとしている。
理知的な大きな黒い瞳に、すっと通った鼻筋。
意志の強そうな感じのする口元。
「とにかくだ。その話は後だ。今は客人がいるんだしな」
「はい。すいません。あッ」
頭を下げた。その拍子にバンダナがはらりと解けた。
ちょっと癖のある長い黒髪が流れ落ちた。
慌てて、バンダナを拾い、恥ずかしそうにこちらを見て、去り際にもう一度頭を下げた。
この格好で最初からいれば、まず間違いなく男と間違えることはなかっただろう。
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