機姫想杼織相愛 ~機織り姫は、想いを杼に、相愛を織る~

若松だんご

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巻の二十五、交わりの意味

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 「……ちゃんと説明してよね」

 夜遅く。
 二人で戻った瑠璃宮るりみやの室で。
 わたしと揃いの夜着に着替えた如飛ルーフェイを睨みつける。
 即位の儀のあと、含元殿の前に集まった、宮殿に入りきれなかった兵士たちの前に姿を見せた時も、即位の祝宴でも。ずっと、ずっと黙って、横に立って、それらしく笑ってたけど。
 だからって、「はい、そうですか」って納得したわけじゃないのよ!
 説明! 説明しなさい!
 わたし、皇后は辞退するって、前に言ったじゃない!

 「この衣装のことか?」

 「そっ……」

 それも訊きたいことだけどっ!

 「お前が俺のために衣装を縫ってたのは知っている。糸を用意するように命じたのは、俺だからな」

 そうだ。そうです。そうでした。
 糸とか皎月ジャオユェさんが持ってきてくれたけど。そこに、彼が関係してないわけがないんだった。だって、皎月ジャオユェさんは彼の部下だし。
 わたしが縫ってたことは、彼に筒抜けだったと。

 「途中で、縫うのを止めたみたいだったが。俺は、未完成であっても、これを着て即位したかった。お前が設えてくれたものだ。これ以上に、俺の即位にふさわしい衣はない」

 グウ。
 そう言われると、中途半端な刺繍しかない衣であっても、最高の衣に思えてくる。

 「さて、どこから話せばよいかな」

 怒るわたしを前に、一人寝台に腰を下ろした如飛ルーフェイ。衣のことを話してる時より、声の高さがグンッと落ちた。

 「俺は、幼い頃から妃は一人、乙女だけでよいと決めてきたんだ」

 「乙女だけ?」

 「ああ。……少し長くなるが、聴いてくれるか?」

 即位の時とも、その後の宴席の時とも違う。
 とても真面目で、とても思い悩んだような表情。
 
 「わかったわ」

 怒りは一旦置いといて、話し、聴いてあげる。

 「俺の父、先の皇帝は、慣習に倣って皇后、玻璃妃はりひと、陰陽の乙女、瑠璃妃るりひを持っていた。それが当たり前だったし、皇帝として統治するためには、それが普通だった。玻璃妃はりひに子を産ませ、瑠璃妃るりひと交わって陰陽を整える。俺を産んだのは、皇后、玻璃妃はりひだしな」

 少し前かがみになった彼が、膝の上で手を組む。

 「だが。だが、母は、本来、叔父の妻になる女性だったんだ」

 「――え?」

 それって、どういうこと?

 「瑠璃妃るりひ玻璃妃はりひ、ともに揃っていないと即位できない。だから、父は、陰陽の乙女を見つけ出すと同時に、母を皇后に選んだ。母が……、皇族に連なる娘だったから――というのが表向きの理由だな。裏は、異母弟である叔父と母の幸せそうな関係を妬ましく思ったから。それと、母を妻にすることで、叔父の力が増すことを恐れたから」

 「そんな……」

 「叔父は、異母兄である俺の父の言うことに従うしかなかった。母を渡さなければ、それは次期皇帝に対する反逆だ。叔父だけでなく、母も処刑される。だから、叔父は母を手離した。そして叔父は、母と離れても母を思い慕い、誰とも結婚せずにいる」

 そこまで話して、如飛ルーフェイが手で顔を覆った。

 「それに比べ、最低な男だよ、俺の父は。愛し合ってた異母弟たちを引き離して、母に俺を産ませたのだから」

 手を離して、深く深く息を吐き出した。

 「それでも、父が母を愛して大事にすれば、救いもあっただろう。でも父はそうはしなかった。母が俺を孕んだことで、母を捨てた。母の居た玻璃宮はりきゅうにも、皇太子だった俺の琥珀宮こはくきゅうにも、一度も訪れなかった。子が生まれればそれでよし、弟と母の仲を引き裂けば、それで満足だったんだろう」

 わざとだろう。
 如飛ルーフェイが明るく話してくれるけど、聴いてるわたしのお腹には、ドンドン鉛が詰められていくような感じがした。

 「母を大事にしなかった父は、自身の乙女でもある瑠璃妃るりひに対しても同じだった。乙女は、陰陽を整えるための道具に過ぎない。だから、遠征先にもどこにでも連れて行って、嫌がる乙女を無理やり犯していた」

 グッ。

 「俺も一度だけ見たことがあるんだ。後宮の庭で。心を壊して、身動ぎ一つしない乙女にのしかかり、欲望をぶつけるだけの父の姿を……」

 「もういい! もう、言わなくていい!」

 話す如飛ルーフェイが、辛そうで。話しながら、自分を傷つけ血を流してる用に見えて、思わず彼を抱きしめる。

 「ありがとう、里珠リジュ

 腕の中で、如飛ルーフェイが囁いた。

 「俺は、あれを見た時からずっと心に誓っていたんだ。愛するなら乙女だけを。身を捧げてもらわなければ国を治められないというのなら、乙女だけを愛そうと」

 「如飛ルーフェイ……」

 「だが、人というものは難しいな。身を捧げてもらうのだから愛さねばと思っていたのに。今では、愛しいと思うからこそ愛したいと思っている」

 「きゃっ!」

 グイッと抱き寄せられた腰。予想してなかった如飛ルーフェイの動きに、均衡を崩した体が、彼の上にしなだれる。

 「里珠リジュ。俺はお前が好きだ。愛してる。陰陽の乙女だからじゃない。お前がお前だから、愛おしい」

 「如飛ルーフェイ

 「お前が乙女でなかったとしても、俺はお前を愛さずにいられなかっただろう」

 なにそれ。ナニソレ、ナニソレ。

 言葉と、眼差し、伝わる鼓動。そしてわたしを抱きしめる腕。
 そのすべてに、口がわななき、目が熱くなってくる。

 「わ、わたしも如飛ルーフェイが好き」

 「里珠リジュ……」

 うれしい。そこまで想ってくれて。わたしを大事にしてくれて。
 でも。

 「でも……、わたし、アナタの子を産んであげられない……」

 陰陽の乙女は、どれだけ交わろうとも子を成せない。
 どれだけ精を注がれても、子ができることはない。

 「知って、いたのか……」

 その問いかけに、我慢できなかった涙が溢れ、「うん」と小さく頷くことしかできなかった。
 ごめんなさい。
 それほどまでに、愛してくれても、わたしはアナタになにも返してあげられないの。

 「そうか」

 シュルっと衣擦れの音がした。如飛ルーフェイが動いたんだ。

 「だがな。それは間違いかもしれないぞ」

 「ま、間違い?」

 ファサッと、わたしの体が寝台に横たえられる。

 「陰陽の乙女が子を産んだ記録はない。だがな」

 シュルシュル。お腹の辺りで音がする。

 「初代皇帝の皇后、二代皇帝の母は、陰陽の乙女だ」

 「え?」

 溢れ続けていた涙が引っ込んだ。
 二代皇帝の――母?

 「初代も二代も、存在が伝説に近いから、本当かどうか、真偽は疑わしいけどな。だが、陰陽の乙女が皇后になって、子を産んだ。それが二代目皇帝だという伝説が残っている」

 「じゃ、じゃあ、わたし、子を産めるのっ!?」

 「かもしれんな。試してみるか?」

 ニヤッといたずらっぽく如飛ルーフェイが笑う。
 って、ちょっと! いつの間にわたしの帯を外してたのよ!
 帯を解かれたせいで夜着がはだけ、わたしの首元からおへその下まで、彼の目の前に晒される。

 「子ができぬでもよい。こうして交わるのは、陰陽を整えるためでも、子を成すためでもない」

 グッと身を乗り出した如飛ルーフェイ

 「お前を愛しいと思うからこそ。愛しいお前と一つになりたい。お前に俺を刻みつけたいと思うから交わるのだ」

 笑いが消え、残った真摯な瞳に、わたしが映る。
 泣きそうになって、グッと唇を噛みしめ、彼だけを見つめるわたしが。

 「世の中には、どれだけ愛し合おうとも、子ができぬ夫婦も居ると聴く。俺たちも、そういう夫婦であってもよいと思っている。まあ、皇帝としては民に不実かもしれんが。しかし、俺に子がいなくても叔父上がいる。叔父上でダメだと言うのなら……。そうだな。皇族の誰かから養子をもらってもいいかもしれん」

 「如飛ルーフェイ……」

 「そろそろよいか? 俺はお前を愛したくて仕方ないんだが?」

 「もうっ!」

 軽く言った彼に、笑ってみせたかったのに。
 笑った頬を、こらえきれなかった涙が流れ落ちる。

 「里珠リジュ

 その涙を指で拭ってくれた如飛ルーフェイ。そのまま誘われるように、笑みを残した彼の唇に、自分のを重ねる。何度もなんども角度を変えて。深く、浅く口づけをくり返す。
 
 「ンッ、アッ……」

 彼の手も、唇も何もかも。
 わたしのどこに触れれば、わたしに淫らな熱が灯るのか。わたしがよがるのか。
 すべてを熟知しているのだろう。
 触れられるたび、求められるたび、わたしに火が灯る。
 もっとほしくて。甘くねだるように、体をしならせる。

 「里珠リジュ……」

 名を呼ばれ、うながされ。

 「如飛ルーフェイ……」

 応じるように、脚を開き、彼を受け入れる。

 「アッ、イッ、アアッ……」

 まるで、わたしの失った半身を取り戻したように。わたしの中にピッタリ沿う彼のイチモツ。抱きしめれば、溶け合って混じってしまいそうに感じる彼の肌。熱。
 見つめ合い、微笑み合っては、口づけを交わす。
 時に激しく乱暴に。時に甘く優しく。
 寝台の上、一つの獣のように蠢き、相手を求める。

 「アッ、アアッ、アァアア、ア――ッ!」

 「グッ、里珠リジュっ!」

 二人で、絶頂のきざはしを駆け上る。
 ドクンとわたしの奥で脈打った彼のイチモツ。

 「アッ、ヒッ、ア、アッ……」

 熱い吐精に、ビクビクと体が震える。

 「里珠リジュ、愛してる」

 「わたし、も……」

 言って、体のつながりを解かないまま、どちらからともなく口づける。舌を絡め、唾液を混ぜる。

 (アッ……)

 それだけで、わたしの奥で、彼のイチモツが、またグンッと大きくなったのを感じた。大きくなっただけじゃない。少しずつ、ユルユルと腰を前後される。
 
 (また、くれるんだ……)

 子はできないかもしれない。けど、愛されている証を、またわたしの奥に刻みつけてくれる。
 それがうれしくて、幸せで。
 わたしも、彼の動きに合わせて、腰を揺らす。

 「里珠リジュ
 
 わたしの動きに彼も気づいたのだろう。
 身を起こした彼の動きが一層激しくなった。
 快感に、わたしの体に酩酊したように、狂ったように腰を打ち付けてくる。

 「アアッ、如飛ルーフェイ如飛ルーフェイっ!」
 
 快楽に押し流されそうで。救いを求めて彼の名を呼ぶ。

 「里珠リジュ里珠リジュっ!」

 伸ばした手に、指を絡められ、そのまま手を敷布に押し付けられた。
 飛び散る彼の汗。満ちる淫らな匂い。熱。
 バチュバチュと肉のぶつかる音。グチュグチュというかき混ぜられる水音。

 「アッ、イッ、イイッ、イクッ……!」

 絶叫し、大きく背を反らす。同時に、また精を吐き出される。
 何度もなんども愛する人に満たされて。
 わたしは、世界で一番幸せな女だ。
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