【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

文字の大きさ
9 / 203

虚偽

しおりを挟む
 ルーゴ王国の王太子夫妻からわざと抗議を入れて貰い、両陛下にレベッカの再試験を要望した。さすがに三ヶ国語を読めない、話せないというのは論外である。

 後から文句を言われても困るので、レベッカの父・ウィンダム伯爵、バラマス・コアール伯爵夫人、意見を出したクリンピア公爵にも見届けてもらうこととした。

 まずは筆記試験を行い、アズラー夫人とバラマス夫人と、学園の各語学の担当教師で採点を行った。

 そして各語学の担当教師との会話の試験。

『初めまして、お名前と生家を教えてください(ノワンナ語)』
「レベッカ・オールソンデス。ウィンダムハークシャークケデス」
『日照りが続く問題をどうお考えですか(ノワンナ語)』
「イイトオモイマス。スバラシイコトデス」

『初めまして、お名前とあなたのお祖母様の名前を教えてください(アペラ語)』
「レベッカ・オールソンデス。ウィンダムデス」
『お会いされたルーゴ王国の王太子御夫妻とはどのような話をされたのですか(アペラ語)』
「メガデマス、ダイジョウブデスカ」

『初めまして、お名前とあなたの側妃試験の担当した方の名前を教えてください(カベリ語)』
「レベッカ・オールソン。ウィンダム」
『カベリ王国では食事に箸を使うことが主流となっておりますが、妃殿下は使えますか(カベリ語)』
「…コンニチハ」

 言葉が分かっている両陛下と殿下、アズラー夫人は、何だこれはという感想と、溜息しか出ない。

 一応、どこまで出来るか試験をすることは伝えていたので、勉強したのだろうが、憶えている言葉を言っているだけのようにしか見えない。カベリ語に至ってはおそらく、憶えることすらできなかったのだろう。

 しかも、悪あがきとして、急に産後で身体の具合が悪いから延ばして欲しいと言い出した。念のため医師にも見せたが問題はなく、それでも食い下がったため、ならば療養所に入って貰うと言うと、ようやく受けることとなったのだ。

 ウィンダム伯爵、バラマス・コアール伯爵夫人はノワンナ語はおかしいと気付いたようだが、その他は分からないようで、どうなんだろうかという顔をしている。クリンピア公爵は怪訝な顔となっていた、おそらく分かっているのだろう。

 試験の結果が配られ、会話の受け答えの結果を話すと、レベッカ、ウィンダム伯爵は真っ赤に、バラマス・コアール伯爵夫人は真っ青になった。

「はあ、ウィンダム伯爵、これはどういうことだ?私はレベッカ妃が優秀だと聞いた、三ヶ国語も話せると言ったではないか、記憶喪失とでも言うのか。私もカベリ語は自信がないが、その他はあれが外交の場であったなら、気絶させたいくらいだ。メガデマスってなんだ?なぜ側妃試験に受かったのだ?」

 口火を切ったのはレベッカの伯父に当たるクリンピア公爵であった。

「確かに語学は苦手ですが、他のことはできます」
「はあ、王太子の正妃にも側妃にも求められることはまずは語学であるぞ?なぜ他のことを言い出すのだ?」
「でも、夜会などでお話をしたり、ダンスをしたりも大事でしょう?」
「だから、その話が出来ないのではないか?」
「通訳を雇えば…」
「ならばレベッカ妃は皆が喋っている中で、一人だけ通訳を連れて、訳してもらって、言葉をまた訳させて、それをずっと皆に待っていろと言うのか?私は側妃に値しないと言っているようなものだろう」
「そ、それは…」
「で、なぜ受かったんだ?」
「公爵ではないのか?バラマス・コアール伯爵夫人を推薦したのは」

 殿下はクリンピア公爵が裏で糸を引いているのだと思っていたが、どうやら違うようだ。アズラー夫人もおそらく同じ考えであっただろう。

「いえ、知りません。まさか、母上に頼んだのか?あれはもう記憶が怪しいのだ、そう伝えていただろう?陛下、申し訳ございません」

 クリンピア公爵、ウィンダム伯爵夫人の母は、記憶が曖昧になっており、認識できないことが多いのだ。

「そうであったか、公爵も総意のものと思っておったが」
「はい、話は確かに聞きました。相応しくないのであれば、アズラー夫人が落とすだろうと思っておりましたので、それならばと思って、推薦だけはしました。その後に母に頼んだのでしょう」

 クリンピア公爵は頭を抱え、ウィンダム伯爵とレベッカは下を向いている。レベッカにとっては祖母であるが、代筆させて、サインだけさせたのだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

訂正:レベッカの姓が間違っておりました。パードルトからオールソンに訂正しております。大変失礼しました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

処理中です...