【完結】愛とは呼ばせない

歎願

　王家はレベッカが側妃としての能力が不十分であること、王女を産んでいることを考慮し、再教育のために側妃見習いとすると発表。そして、見習いの予算は実家であるウィンダム伯爵家が負担することとした。このまま、見習いが取れなければ、マレーヌ王女は側妃見習いの娘となってしまう。

　側妃見習いは前にも能力不足で格下げになった者がいたのである。その者はレベッカのように不正をしたわけではなかったが、二ヶ国語しか出来ず、試験の際は必死で覚えて挑んだが、数年後、外交の場で露呈した。そしてそのまま見習いが取れることはないまま、亡くなった。

　サリーにもクリコットによって、レベッカの処遇が知らされることとなった。

「ですので、王太子宮に戻ってはいただけませんか」
「嫌です。自分の言ったことには責任を持たなければなりませんでしょう？」
「ですから、不正だったのです」
「じゃあ、その不正を行った者が代わりを務めては？だって、ティファナ先生を差し置いて、担当したのだから、さぞ優秀なんでしょう？」
「優秀ではありません、ノワンナ語すら何となくでした」

　三ヶ国語の内、ノワンナ語が一番、トワイ語に発音が似ているため、憶えやすい。

「自分が出来もしないのに、担当になったと？」
「はい、そうのようです」
「私が記憶喪失にでもなれば、離縁していただけるのでしょうね。でも記憶喪失なんて簡単に起こるものではないですからねぇ。必要あればは変わりませんわ、今も王太子宮にいた時と同じようにやっております。違うかしら？」
「その通りです」
「ノール語の翻訳もしておりますわ、不十分だと言うのかしら？」

　ノール語は非常に読むのが難しく、お願いします妃殿下と頼まれたものである。

「不十分などと、滅相もございません」
「では下がっていただける？私は公務以外は自由な暮らしに慣れてしまったの。責任を取るならレベッカ妃でしょう？なぜ、私に責任を取らせるようなことを言うのかしら？そう殿下に伝えてください」

　クリコットは殿下に伝えると、断られることは想定内であったため、項垂れるしかなかった。

　サリーはそのまま過ごし、だからと言って殿下の仕事が増えるわけではない。サリーがやらないと言われたら、その方が仕事が増えるだけなのだ。

　夜会なども王太子妃として、にこにこしながら、きちんとこなし、レベッカはもちろん出られないが、側妃になったこと、王女を産んだことを周りに自慢していたのに、見習いになったことをプライドの高いレベッカが耐えられるはずもないので、出られなくて正解かもしれない。

　ある日、サリーの住む宮にサリーに会いたいと、エマ・ネイリーが押し掛けて来た。侍女や護衛は返そうとしたが、サリーは今さら何なのか興味があったため、入れるように命じた。

　もはや、サリーにとって逃げた、裏切り者という認識しかない。

「会ってくださり、ありがとうございます」

　サリーはまだ男装の麗人のように振舞っていることに驚いた。確かにドレスはマーメードラインもホルターネックドレスも、肩幅が広く、角ばった体系に見えてしまい、あまり似合ってはいなかった。

「ええ、今さら何の様かと思いましてね。興味です」
「あの、実は殿下の側妃になりたいと思っております」
「はあ、今さら側妃ですか。なぜ正妃にならなかったのですか」
「子爵令嬢ですから、認めて貰えなかったようです」

　子爵令嬢でも勝る能力があれば、認められるはずである。

「では、側妃も難しいのではありませんか」
「でも、サリー様からお願いしてもらったら、違うのではないかと思いまして」
「一ついいかしら？」
「はい、何でしょうか」
「前はね、面倒だから言わなかったのだけど、友人でもないのに、あなたに名前を呼ぶ許可をいつ出したかしら？」
「えっ、あの、すみません」

　エマは前に頭を下げて頼んできた時と随分違うサリーの様子に驚いたが、あの時はしおらしくしていただけで、これが本性だったのかと思い至った。