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再非望
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「で、私から頼んだら違う?逃げたくせによく言いに来たものね。側妃試験を受けさせて欲しいという意味かしら?」
逃げたわけじゃないと言いたかった、やっぱり子爵令嬢と侯爵令嬢では認められなかっただけだ。だから側妃に甘んじてあげようと思っているのに、でも相手は王太子妃である。嫌われたら、側妃も立場がないことくらい分かっている。
「はい、もう一人の側妃様も見習いになったと聞きました。私だったら、立派に務めて見せます」
レベッカ妃の見習いの発表には笑ってしまった。私からその立場を奪ったというのに、でもこれは私に側妃になれと言っているのだと、殿下にも手紙を出したが、そのまま戻って来てしまった。おそらくクリコットの仕業だろう。ならばとサリーのところにやって来たのだ。
『そう、三ヶ国語は出来るのよね?(カベリ語)』
「え?あの…」
『三ヶ国語は出来るのよね?(アペラ語)三ヶ国語は出来るのよね?(ノワンナ語)』
「理解できないの?」
「えっと、その…」
「はあ、三ヶ国語は出来るのよね?と言ったの、分からないの?」
「それなのですが、語学は免除というわけにはいかないのでしょうか?妃殿下は出来るのですよね、ですから妃殿下にしていただいて、私は別のことを。もちろん、妃殿下には敵わないと思いますが、語学も学んでいくつもりです。いかがでしょうか」
クリコット様はしきりに語学のことを言っていたが、サリー様が出来るのだから問題はないはずだ。あの試験だってこれから学んでいくためだと言っていた、側妃になって学べばいい話ではないか。
「はあ、あなたあれでしょう?公務は誰かに任せて、高価なドレスを着て、溺愛されて、閨を行いたい女性ね。そんな子は沢山いるの」
側妃になりたいと言い出す者は大体が公務はサリーに任せて、自分は寵愛だけを受けたいという者で、サリーが急に出られなくなった時はどうするのかと問われれば、答えることは出来ない。妃がサリー一人なら仕方ないで済むが、側妃がいるなら出なければならない、仮病を一度くらいなら可能かもしれないが、頻繁となれば外交・夜会などに二度と呼ばれなくなる。
「っ、そうではありません」
「じゃあ、何?何か語学に勝るような功績があるの?余程のことでないと許可されないと思うわよ?」
「前の不正の…」
「あれだけで通訳は付けて貰えないわ。大きな功績があるから、語学が苦手でと言えるのよ?そうでなかったら、あれで?と言われるのはあなたよ?」
「でも三ヶ国語なんて」
サリーの声色が急に変わった。
「ねえ、殿下や陛下を馬鹿にしてるの?皆、周辺国の王族は喋ることが必須なの。あなたは出来ないと言えるけど、王家に生まれていたら、死ぬ気で覚えることよ?」
「そ、それは…」
失言だった。確かに陛下や殿下は苦手だろうが、妃と違って、必ず憶えなくてはならないのだ。外国語を話す殿下は非常に格好良くて見とれたほどだったのに。
「残念だけど、我が国ではあなたのような子は認められていないわ。側妃でも三ヶ国語が話せることは必須。愛妾にしてもらったらどう?それならドレスは難しいけど、溺愛と閨はどうにかなるんじゃないかしら?」
「愛妾とはどのようなものでしょうか」
「表舞台には出ず、子どもも成さず、閨をするために、殿下の訪れを待つのが仕事。費用は殿下持ちだけど、殿下とご実家から支援してもらえば、ドレスも可能かもしれないわ」
「…それは」
嫌だ、殿下だって断ったと言っていた。私は殿下の横に立ったことがあるのだから、あの時のように大勢の前で寄り添い、褒められて、さらに愛されて、子どもを産むのだから、愛妾では駄目なのだ。
「それは嫌なのね、ならばせめて三ヶ国語を学ぶべきじゃないかしら?話はそれからだわ。私の代わりをしていたと言っていたくらいだから、話せると思っていたのだけど、嘘だったのね。一体何のつもりで代わりなんて言ったの?」
「そ、それは」
「閨のお相手ではないわよね、あなたはキスされて舞い上がっただけ。抱いては貰えなかった。だからこそ愛されていると思ったのかしら?」
なぜ知っているのか、殿下に聞いたのだろうか。殿下はどんな顔で話したのだろうか。素敵だったと言ってくれたのだろうか。
「私は特別だったから!」
「そんな相手は沢山いると思うわよ?」
「で、でも妃殿下は!」
「何?私は愛されてもいないし、子どもも産んでもいないわ。でも能力があるからここに閉じ込められているの。あなたが嘘つきでなかったら、私は解消してもらえたのに。本当に憎いわ!この大嘘つきが!もう顔を見たくない、帰って頂戴」
納得できない様子のエマを護衛がとっとと追い出し、サリーは侍女に入れて貰ったお茶を優雅に飲んだ。
逃げたわけじゃないと言いたかった、やっぱり子爵令嬢と侯爵令嬢では認められなかっただけだ。だから側妃に甘んじてあげようと思っているのに、でも相手は王太子妃である。嫌われたら、側妃も立場がないことくらい分かっている。
「はい、もう一人の側妃様も見習いになったと聞きました。私だったら、立派に務めて見せます」
レベッカ妃の見習いの発表には笑ってしまった。私からその立場を奪ったというのに、でもこれは私に側妃になれと言っているのだと、殿下にも手紙を出したが、そのまま戻って来てしまった。おそらくクリコットの仕業だろう。ならばとサリーのところにやって来たのだ。
『そう、三ヶ国語は出来るのよね?(カベリ語)』
「え?あの…」
『三ヶ国語は出来るのよね?(アペラ語)三ヶ国語は出来るのよね?(ノワンナ語)』
「理解できないの?」
「えっと、その…」
「はあ、三ヶ国語は出来るのよね?と言ったの、分からないの?」
「それなのですが、語学は免除というわけにはいかないのでしょうか?妃殿下は出来るのですよね、ですから妃殿下にしていただいて、私は別のことを。もちろん、妃殿下には敵わないと思いますが、語学も学んでいくつもりです。いかがでしょうか」
クリコット様はしきりに語学のことを言っていたが、サリー様が出来るのだから問題はないはずだ。あの試験だってこれから学んでいくためだと言っていた、側妃になって学べばいい話ではないか。
「はあ、あなたあれでしょう?公務は誰かに任せて、高価なドレスを着て、溺愛されて、閨を行いたい女性ね。そんな子は沢山いるの」
側妃になりたいと言い出す者は大体が公務はサリーに任せて、自分は寵愛だけを受けたいという者で、サリーが急に出られなくなった時はどうするのかと問われれば、答えることは出来ない。妃がサリー一人なら仕方ないで済むが、側妃がいるなら出なければならない、仮病を一度くらいなら可能かもしれないが、頻繁となれば外交・夜会などに二度と呼ばれなくなる。
「っ、そうではありません」
「じゃあ、何?何か語学に勝るような功績があるの?余程のことでないと許可されないと思うわよ?」
「前の不正の…」
「あれだけで通訳は付けて貰えないわ。大きな功績があるから、語学が苦手でと言えるのよ?そうでなかったら、あれで?と言われるのはあなたよ?」
「でも三ヶ国語なんて」
サリーの声色が急に変わった。
「ねえ、殿下や陛下を馬鹿にしてるの?皆、周辺国の王族は喋ることが必須なの。あなたは出来ないと言えるけど、王家に生まれていたら、死ぬ気で覚えることよ?」
「そ、それは…」
失言だった。確かに陛下や殿下は苦手だろうが、妃と違って、必ず憶えなくてはならないのだ。外国語を話す殿下は非常に格好良くて見とれたほどだったのに。
「残念だけど、我が国ではあなたのような子は認められていないわ。側妃でも三ヶ国語が話せることは必須。愛妾にしてもらったらどう?それならドレスは難しいけど、溺愛と閨はどうにかなるんじゃないかしら?」
「愛妾とはどのようなものでしょうか」
「表舞台には出ず、子どもも成さず、閨をするために、殿下の訪れを待つのが仕事。費用は殿下持ちだけど、殿下とご実家から支援してもらえば、ドレスも可能かもしれないわ」
「…それは」
嫌だ、殿下だって断ったと言っていた。私は殿下の横に立ったことがあるのだから、あの時のように大勢の前で寄り添い、褒められて、さらに愛されて、子どもを産むのだから、愛妾では駄目なのだ。
「それは嫌なのね、ならばせめて三ヶ国語を学ぶべきじゃないかしら?話はそれからだわ。私の代わりをしていたと言っていたくらいだから、話せると思っていたのだけど、嘘だったのね。一体何のつもりで代わりなんて言ったの?」
「そ、それは」
「閨のお相手ではないわよね、あなたはキスされて舞い上がっただけ。抱いては貰えなかった。だからこそ愛されていると思ったのかしら?」
なぜ知っているのか、殿下に聞いたのだろうか。殿下はどんな顔で話したのだろうか。素敵だったと言ってくれたのだろうか。
「私は特別だったから!」
「そんな相手は沢山いると思うわよ?」
「で、でも妃殿下は!」
「何?私は愛されてもいないし、子どもも産んでもいないわ。でも能力があるからここに閉じ込められているの。あなたが嘘つきでなかったら、私は解消してもらえたのに。本当に憎いわ!この大嘘つきが!もう顔を見たくない、帰って頂戴」
納得できない様子のエマを護衛がとっとと追い出し、サリーは侍女に入れて貰ったお茶を優雅に飲んだ。
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