【完結】ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ

文字の大きさ
34 / 131

気味が悪い

しおりを挟む
「殿下、少しよろしいですか?」
「どうした?」

 廊下でエルドールに声を掛けて来たのは、眉間に皺を寄せたローズマリーだった。人気のない場所まで、カイロスと共に移動した。

「オマリー・トドックが、『振り返る女』のモデルの解読を手伝ったと言っているそうですが?」
「は?」

 ローズマリーが発している言葉が、頭の中で全く理解が出来ないまま、エルドールは間抜けな顔を晒していた。

「私もまた聞きですが、本人がそのように言っているそうです」
「何を言っているのだ?そんなことがあるわけがないだろう!」
「分かっています、あり得ませんから」

 友人からその話を聞いて、ローズマリーは公表されてはいないが、ヨルレアンが関わっているのではないかと思い、ふざけるなよと怒りで震えたくらいである。

「そうだ、あり得ない。手伝いなど」
「私は正しく分かっています。お前は何を言っているのか、分かっているのかと思いましたから」

 ローズマリーに聞いて来た友人は、子爵令嬢で、ゆえにヨルレアンが解読していることも知らない。何も知らない生徒は信じるのかと、腹立たしく思った。

「あの資料ではないですか?」

 カイロスは、ふとあの時の資料が思い出された。

「まさか、あのヴァイオリンのか?」
「ええ、それで手伝った気になっているとしたら」
「気味が悪いな」
「ヴァイオリンですか?」

 ローズマリーは何の話か分からず、口を挟んだ。

「ああ、何を勘違いしたのか、何を見たのか知らないが、私のメモを勝手に見て、ヴァイオリンの資料を渡されたんだ」
「あの絵にヴァイオリンは関係ありませんよね?」
「全くない」
「歌い手だから、関係あると思い込んでいるということでしょうか?」
「は?」

 再び、エルドールは間抜けな顔になった。

「いや、公表はされていないが、調べればデザール・ザッハンデル殿とヨルレアン嬢の解読であることは明らかだ」
「やはりオズラール公爵令嬢だったのですね」
「ああ、二人が向き合った結果だ。他の誰の成果でもない」

 それでもヨルレアンは自分は手伝っただけだと言ったが、デザールがそれを許されなかった。

 公表されていないだけで、ヨルレアンが解読をしたことは、秘密にしなければならないことではない。

「どのくらい広まっているんだ?」
「分かりませんが、殿下やディンジャー様が知らなかったように、高位貴族は知らないのではないでしょうか」
「意図的か?」
「分かりませんが、高位貴族は信じないでしょうから」
「そうなのか?」

 エルドールは最近まで、ヨルレアンが解読をしていることすら知らなかった側の人間である。

「ええ、解読に関わっている方や、私のように兄から聞いているような関係性があれば、事実を知っていると思いますから」
「そ、そうか…」

 エルドールは改めて、自分の不甲斐なさを実感した。

「だが、何が目的なんだ?」
「優秀だと思われたいということでしょうか?それにしても度が過ぎていると思います。殿下が解読をされたわけでもないのに」

 エルドールもカイロスも、その通りだと思った。

 ヨルレアンが解読したことが公になっていれば、婚約者であるエルドールを結び付けることもあるかもしれないが、発表されていないのである。

 知り合いでもない男爵令嬢がヨルレアンが解読していることなど、知るはずもない。

「確かに殿下が解読したわけではないのに、殿下を手伝ったことが解読に繋がったということであれば、理解に苦しみますね」
「どういうことなんだ?」

 エルドールもカイロスもローズマリーも、首を傾けるしかなかった。

「王家から発表されたので、殿下が解読したとでも思っているのでしょうか?」
「まさか…」
「本当に気味が悪いですね」
「だが、不愉快であることは変わりない。父上と母上に相談してみよう」

 エルドールは王宮に戻って、すぐに両親に話がしたいと願い出て、オマリーの話を伝えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

処理中です...