【完結】ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ

文字の大きさ
35 / 131

不愉快な男爵令嬢

しおりを挟む
「何だと?」
「まあ、不愉快だこと」
「その通りです!ザッハンデル殿とヨルレアンが真摯に向き合って、解読したことは明らかなのに」

 エルドールは僅かに関わっただけではあったが、訪ねた際にザッハンデル邸で二人が作業をしていた部屋に通されていた。

 そこには本や辞書、文献に画集などが積み重ねられているのを見て、何が手掛かりになるのか分からない、仮説を立てたり、軌道修正したり、調べ続ければいずれ分かるというものでもない。答えもなく、途方もない作業なのだと感じていた。

 ゆえに、調べ物をしても、ヨルレアンに感謝されても、手伝ったと口にすることが非常に烏滸がましいと理解していた。

 誰も信じないような嘘だったとしても、怒りを露わにしていた。

「カイロスがあの渡された意味の分からないヴァイオリンの資料で、手伝ったと思っているのではないかと言っていて」
「は?」
「馬鹿じゃないの!」

 ダズベルトは酷く低い声が、オーバンは怒りに満ちた声を上げた。

「私が解読したわけでもないので、理解に苦しむのですが、なぜかそのように思っているのか。ただ自分を優秀だと思わせたくて、ただ嘘を付いているのか分かりませんが、気味が悪いです」

 いくら考えても理解は出来なかったが、ただ優秀だと思われたくて、嘘がバレない相手にだけ嘘を付いたのかもしれないと考えていた。

「エルドールは、トドック男爵令嬢とは距離を取ったままなのよね?」
「勿論です、話すのは生徒会のことだけです。気味も悪いですが、ずっと腹を立てているのです」

 ふんふんと怒りに滾るエルドールに、オーバンはこの様子ならと頭を巡らせた。ダズベルトはこういった問題は苦手であるために、怒りはあるが、オーバンの考えを聞こうと黙っていた。

「事実じゃないのだから、放って置けばいいのではないかしら?」
「ですが」
「不愉快であることは違いないけど、あなたは下手に関わってはいけないことは分かるわね?」
「それは、はい…」

 エルドールはオマリーを問い詰めようかと思っていたが、また間違ってはいけない思い、両親に相談することにした。

「当たり前だけど解読には一切、関わっていないのだから、嘘であることは明らか。勘違いでしたでは済まないことよ?でも、怒っていいのはザッハンデル前伯爵、ヨルレアン嬢だと思うわ」
「…それはそうですね、二人が成し遂げたことですから」
「これは意を組んで避けたいけど、万が一の時はザッハンデル前伯爵とヨルレアン嬢に許可を得て、解読したことを発表させて貰いましょう」

 取材などの煩わしさを避けることもあるが、まだ続きがあるはずだからと、二人は公にはしないで欲しいと申し出ていた。

「はい!」

 そのような噂が出ることだけでも、腹立たしいが、エルドールが代わりに怒るのも、違うような気がして来ていた。

「もしもあなたを手伝ったことだった思い込んでいたとしても、トドック男爵令嬢がヨルレアン嬢に関わっていないことは明らかなのですから」
「そうですね」
「巷にもオールエドリレットの子孫だと言っている者がいるそうなのよ」
「え?」

 モデルがオールエドリレットだと分かった今、先祖に歌い手がいたと聞いたことがある、似ていると言われていたと、子孫なのだと言い出す者がいるという。

 『振り返る女』に似ているというのは、美人だという認識であったために、女性は特に嬉しい言葉であった。

「彼女が子どもを産んだような記録もないし、両親はおらず、きょうだいもいなかったのだから、あり得ないけど…昔のことですからね。ただ、実害が出れば別よ」
「詐欺とかですか?」
「ええ、想定していなかったわけではないけど、だからこそ情報を絞ったの」

 解読されたオールエドリレットの情報は、全て公開されたわけではない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

天然と言えば何でも許されると思っていませんか

今川幸乃
恋愛
ソフィアの婚約者、アルバートはクラスの天然女子セラフィナのことばかり気にしている。 アルバートはいつも転んだセラフィナを助けたり宿題を忘れたら見せてあげたりとセラフィナのために行動していた。 ソフィアがそれとなくやめて欲しいと言っても、「困っているクラスメイトを助けるのは当然だ」と言って聞かず、挙句「そんなことを言うなんてがっかりだ」などと言い出す。 あまり言い過ぎると自分が悪女のようになってしまうと思ったソフィアはずっともやもやを抱えていたが、同じくクラスメイトのマクシミリアンという男子が相談に乗ってくれる。 そんな時、ソフィアはたまたまセラフィナの天然が擬態であることを発見してしまい、マクシミリアンとともにそれを指摘するが……

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

さよなら初恋。私をふったあなたが、後悔するまで

ミカン♬
恋愛
2025.10.11ホットランキング1位になりました。夢のようでとても嬉しいです! 読んでくださって、本当にありがとうございました😊 前世の記憶を持つオーレリアは可愛いものが大好き。 婚約者(内定)のメルキオは子供の頃結婚を約束した相手。彼は可愛い男の子でオーレリアの初恋の人だった。 一方メルキオの初恋の相手はオーレリアの従姉妹であるティオラ。ずっとオーレリアを悩ませる種だったのだが1年前に侯爵家の令息と婚約を果たし、オーレリアは安心していたのだが…… ティオラは婚約を解消されて、再びオーレリア達の仲に割り込んできた。 ★補足:ティオラは王都の学園に通うため、祖父が預かっている孫。養子ではありません。 ★補足:全ての嫡出子が爵位を受け継ぎ、次男でも爵位を名乗れる、緩い世界です。 2万字程度。なろう様にも投稿しています。 オーレリア・マイケント 伯爵令嬢(ヒロイン) レイン・ダーナン 男爵令嬢(親友) ティオラ (ヒロインの従姉妹) メルキオ・サーカズ 伯爵令息(ヒロインの恋人) マーキス・ガルシオ 侯爵令息(ティオラの元婚約者) ジークス・ガルシオ 侯爵令息(マーキスの兄)

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

処理中です...