【完結】ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ

文字の大きさ
108 / 131

終了

しおりを挟む
「でも!」
「アリナ嬢、きちんと話は聞くから黙ってくれ」
「…はい」
「ラリオ王太子殿下と大臣、グルダイヤ侯爵も、ハッソ嬢も交えて話をしよう」

 ダズベルトが大きな瞳の強い眼差しで、3人に声を掛け、ラリオと大臣、グルダイヤ侯爵は黙って頷いた。

「これにて終了とする!」

 ようやく、何だったのか?という気持ちしか残らない解読披露は終わり、ダズベルトとオーバンと宰相は3人を連れて、応接室に向かった。

「お姉様、お疲れさまでした」
「ええ、分かり易かったかしら?」
「十分よ」

 サリージュは、大勢の前で優雅に説明を行うヨルレアンにうっとりしていた。

「ヨルレアン嬢、本当にお疲れ様。サリージュ殿下も、お茶でも用意しよう」
「ありがとうございます」
「まあ!ありがとうございます」

 ローレルがヨルレアンとサリージュに声を掛け、エルドールとメイラン、デュランズと学園長にも声を掛けて、別の応接室に向かった。

 観覧席も誘導されて出て行っており、ファミラはずっと黙って見ていたが、終わって雑踏の中で呟いた。

「馬鹿なことを言ったものだわ」

 オマリーはアリナが出来なかったことに、やはりあんな文字が解読が出来るはずがないという気持ちと、古代語学者として登場したヨルレアンに驚き、気持ちがぐちゃぐちゃだった。

 そして、ヨルレアンの説明にただただ唖然としていたが、まさかアリナが王太子殿下かエルドール殿下と結婚するなどと思っていたことには、自分も同じ男爵令嬢であることを忘れて、男爵令嬢の癖にと苛立ちを覚えた。

「出来ないって、分かっていたの?」

 オマリーも絶対に出来るとまでは思っていなかったが、ファミラは今日のことについて、頑張ってねとしか言わなかった。

「いいえ、でもあの子は驕っていたでしょう?」
「驕って?」
「自分は出来ると思い込んでいたのは確かだもの。先程の発言も否定されているのに、認めないなんて、驕りがないと出て来ないと思わない?」
「それはそうね」

 ファミラは半年、アリナと一緒にいて、自信がないと言いながらも、自分は特別な才能があると思っていることに気付いていた。

「私が必死で勉強しているのを、自分はせず、私の方が試験は一応は良い点ではあったけど、試験勉強せずにだと言っていたでしょう?」
「こっそり勉強していたってこと?」
「いえ、本当にしていないの。試験勉強してなくてと言って、実はしていて、良い点を取る子と変わりないわ」

 ファミラが吐き捨てる様に言う様に、オマリーは二人の関係は仲良しという感じではなかったが、同志のように思っているのではないかと考えていた。

 だが、言葉から馬鹿にされていると思っているのではないかと、感じた。

「嫌いだったの?」
「どちらでもないわ、だってこの留学だけの関係だもの」
「え?」
「だって母国に戻れば、伯爵令嬢と男爵令嬢よ?立場も、周りの環境だって違うわ。社交場でもなかなか会うこともないと思うわ」

 確かにそうではあるが、ファミラがそんな風に考えていることに、オマリーは少なからず胸が痛んだ。

「でも彼女は聖女…だったなら?」
「それでもよ、認められて、尊敬される上の立場になったら、それはそれで関係のない存在になるでしょうし」
「そうなのね」

 どうなったとしても、ファミラはアリナとの関係性を始めから割り切っていたのだと、分かった。

「このまま帰ることになりそうだから、荷物の準備をすることにします。オマリーさん、勉強を教えてくれてありがとうございました」
「いえ、いいのよ」

 オマリーはもし、アリナが無事に披露を終えて、勉強を教えて貰ったのだと紹介して貰って、エルドールと話が出来るかもしれないと考えていたが、その目論見は絶望的となった。

 二人との時間は悪くはなかったが、結局、何も出来ないままであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族の娘、エレンは幼いころから自分で家事をして育ったため、料理が得意だった。 そのため婚約者のウィルにも手づから料理を作るのだが、彼は「おいしいけど心が籠ってない」と言い、挙句妹のシエラが作った料理を「おいしい」と好んで食べている。 それでも我慢してウィルの好みの料理を作ろうとするエレンだったがある日「料理どころか君からも愛情を感じない」と言われてしまい、もう彼の気を惹こうとするのをやめることを決意する。 ウィルはそれでもシエラがいるからと気にしなかったが、やがてシエラの料理作りをもエレンが手伝っていたからこそうまくいっていたということが分かってしまう。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃
恋愛
バートン伯爵家のミアの婚約者、パーシーはいつも「魔法が使える人がいい」とばかり言っていた。 実はミアは幼いころに水の精霊と親しくなり、魔法も得意だった。 妹のリリーが怪我した時に母親に「リリーが可哀想だから魔法ぐらい譲ってあげなさい」と言われ、精霊を譲っていたのだった。 リリーはとっくに怪我が治っているというのにずっと仮病を使っていて一向に精霊を返すつもりはない。 それでもミアはずっと我慢していたが、ある日パーシーとリリーが仲良くしているのを見かける。 パーシーによると「怪我しているのに頑張っていてすごい」ということらしく、リリーも満更ではなさそうだった。 そのためミアはついに彼女から精霊を取り戻すことを決意する。

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

処理中です...