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第二部
第2話
しおりを挟む「僕ね、ああいう男ってあんまり好きじゃないんですよ。まぁ、見た目でひとをはんだんするものじゃないっていう人もいますけど、あいつは絶対に性格悪いですから。そう思いませんか?それに瀬尾にベタベタ触って。まるで合コンみたいな雰囲気でしたよ、全く。」
「まぁまぁ、落ち着いて。」
激しく怒っている三目君をなだめながらレタスを千切る。もともと三目君は人の好き嫌いは激しい方だが、初対面の人間にここまで嫌悪感を示すことはそうそうない。珍しいこともあるなと考えながら、三目君の手にもレタスを握らせる。
三目君と一緒に先に自分の家に帰宅した。瀬尾君が料理を作ってくれると言っていたが、仕事で疲れている瀬尾君に何もかも作らせるのはあまりにも忍びない。せめてサラダだけでもと、材料を買ってきたのだ。お風呂にも先に入ってブツブツと文句が止まらない三目君と一緒に料理をしているというわけだ。
「そんなに怒っているとまるで三目君が瀬尾君と付き合ってるみたいだね。」
「ちょっと!寒気が走るようなこと言うのやめてくださいよ。僕が好きなのは幸尚さんだって何回も言ってるでしょ?…ただ、僕はあの小鳥遊って奴が気に入らないだけですよ。」
三目君が勢い良くレタスをちぎり始める。その様子を見て笑いながら、自分も作業に戻る。けれど、確かに小鳥遊君には自分自身も違和感のようなものを感じていた。社会人にしては幼すぎる舌ったらずな喋り方。瀬尾君や三目君に向けられる媚びたような瞳と、自分に向けられた氷のように冷たい視線。分かりやすい子だなぁとは思うが、新入社員としてそんな
態度で上と接するのはあまりにもリスキーだ。誰かが注意してあげたほうがいいんだけどなぁなんて思いながら料理を続けていると、玄関の扉が開く音がして、バタバタと騒がしい足音がこちらに向かって来た
「すいません、遅くなりました!」
スーパーのビニール袋を両手に持って、転がり込むように部屋に入って来たのは瀬尾君だった。走って帰って来たのだろう、髪型も息も乱れている。
「瀬尾君、お疲れ様。そんなに急いでくることなかったのに。」
「い、いえ。遅くなってしまいましたから。」
床に座り込む瀬尾君にお茶を差し出すと、一気に飲み干してしまった。けほっと軽く咳をした後、瀬尾君は盛大なため息をついた。時計を見てみると、時刻は午後9時になろうとしている。確かに定時で帰った自分たちとすれ違いで帰ってきたことを考えると、帰宅するのが遅すぎるような気もする。
「ちょっと会社に戻ってもトラブルがありまして。来週まで持ち越すとめんどくさい案件なので片付けてから来ました。」
瀬尾君が苛立たしげにスーツの上着を放り投げたので、拾いあげてハンガーにかけてやる。シワになるからと注意すると「すいません」と謝ってしょんぼりと肩を落としてしまった。小鳥遊君と一緒にいた時はあんなに不機嫌そうだったのに、今では小動物のような態度になってしまっていることがたまらなくおかしい。
「仕事を頑張った御褒美に許してやる。お疲れ様。早くお風呂に入ってきてゆっくりしよう
俺が料理しとくから。」
そう言いながら頭を撫でると、目を輝かせて頷いた瀬尾君は、豪速球でバスルームへと消えて行ったのだった。
「それで、瀬尾。あいつは何なんだよ。」
数分でお風呂からあがってきた瀬尾君は、ものすごい手際の良さで料理をし、小一時間で5品もの料理を作ってくれた。ビールに合う野菜と鶏胸肉の揚げ物。肉はどんなマジックを使ったのか知らないが、胸肉なのにフワフワだった。あとは揚げ出し豆腐の餡掛け、海老のアヒージョに、定番のガーリックトースト、キノコの冷製マリネ。あとは三目君と自分が適当に作った生ハムとトマト、レタスのサラダだった。自分はいつもの梅酒、瀬尾君と三目君はビールで乾杯をした。美味しい料理を満喫していると、三目君がドンッとビールの入ったジョッキを机に置いて瀬尾君に詰め寄った。
「あいつって何だ?」
「あいつって言ったら小鳥遊のことに決まってるだろ!!何あんだよあいつ!」
熱々の揚げ出し豆腐を口いっぱいに頬張って三目君が瀬尾君を睨みつける。名前を言われてやっと分かったらしく、瀬尾君は「あぁ、小鳥遊か」と言ってため息をついた。
「小鳥遊のことはさっき紹介しただろ?今年、うちに入ってきた新人だ。今は俺が面倒を見ている。」
「そんなことはどうでもいいんだよ!僕が言いたいのはあいつの馴れ馴れしさと媚び媚びな態度のことだ!」
あぁ、それかと瀬尾君が苦笑する。自分もそのことが少し気になっていたので先を促すように瀬尾君を見つめた。自分の視線に気づいた瀬尾君はキノコのマリネを取り分けてくれた後、口を開いた。
「小鳥遊はうちの会社の重役の息子らしくて。誰も強く言えないんだ。入社当時は今よりもずっと態度が悪くてな。それを俺が注意したらそれ以来懐かれてしまって。上からはこれ
幸いという感じで教育係にさせられたんだ。」
随分と苦労しているのか、瀬尾君がまたため息をつく。今日、定時にあがれなかったのも、どうやら小鳥遊君のミスが原因のようだ。お得意様を怒らせてしまったようで、その謝罪に2人で出かけていたらしい。そして急いで帰ってきたものの、会社に戻ったら小鳥遊君が
作った資料に大きなミスがあったことが分かり、「僕、どうしていいか分かりません」と泣きついてきた小鳥遊君を放置できずに、修正を手伝ったようだ。
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