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第二部
第1話
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「幸尚さん、今日もお疲れ様でした。金曜日なのでお家に行きますね。今日の晩ご飯はなんですか?お酒は僕が買って帰ります。」
まだこちらが何も言っていないのに、三目君が矢継ぎ早に話しかけてくる。定時に鳴る館内放送と同時にノートパソコンを勢い良く閉じた三目君はニコニコ笑顔だ。2人とのことを
真剣に考えると決意してから半年。季節は春を迎えていた。今のところは目立った問題もなく、3人の不思議な関係は続いている。半年も経ってまだ結論が出ていないのかと怒られそうだが、3人で一緒にいるのが楽しすぎてまだどちらかを決められず、ダラダラと日々が過ぎてしまっている状態だ。
「俺はまだ来ていいなんて言ってないんだけど?」
「そんなこと聞かなくたって分かりますよ。僕に来て欲しいって幸尚さんの目が言ってきてるんですよ。」
「たいした自信だよ、ほんとに。」
ため息をつきながらパソコンをシャットダウンして帰り支度を始める。でも三目君が言っていることはあながち間違いではない。半年前から週末は必ず3人で過ごすようになっているのだ。それは自分の家であったり、瀬尾君の家であったり、三目君の家であったりとまちまちだ。
「ほらほら、早く行きましょう。」
三目君に背を押されながら部屋を出る。いつもなら、部屋の外で瀬尾君が待っているはずだ。「お疲れ様です」と言って微笑みながら。
「あれ?瀬尾がいない。」
しかし、そこに瀬尾君の姿はなかった。三目君も驚いて周りを見渡している。こんなことは半年間、一度もなかった。金曜日の仕事終わりは、どんなことがあっても必ず仕事を定時に終わらせて、ここに来ていたはずなのに。
「まぁ、瀬尾がいないなら僕が幸尚さんを独り占めするだけですけど。さぁさぁ、行きましょう!」
三目君に腕をとられてエレベーターへと乗り込む。恐らく大事な仕事でも入ったのだろう。心に広がりそうになる寂しさをなんとか押し留めながら会社を出た。
「あぁ、待ってください、瀬尾さん!」
「…。」
「あ。」
早足で会社に戻ってきたのは瀬尾君だった。苛立ちを隠そうともせず、眉をひそめている。しかし、自分の姿を見つけるとパァッと顔が明るくなる。まるで飼い主を見つけた犬のようにあるはずのない尻尾がブンブンと振られているのが見えてしまう。
「幸尚さん、すいません。ちょっと仕事でトラブルがあって帰社するのが遅くなってしまいました。俺もすぐに帰るのでおうちで待っててくれますか?今日は美味しい肉料理を作りますから。」
なぜ瀬尾君もうちに来るつもり満々なのかは知らないが、ここでそのツッコミは止めて
おく。
「瀬尾先輩、ちょっと待ってくださいよ。」
そんな
瀬尾君の背中にスーツを来た男性が飛びついて来た。
「おい、触るな。」
「だって瀬尾先輩が歩くの早いんですもん。僕、疲れちゃいました。」
瀬尾君に抱きついてきたのはそれはそれは可愛らしい男性だった。小動物のように可愛らしい身長で、顔もまるで子猫のように愛らしい。長いまつ毛に縁取られた琥珀色の大きな瞳。シミひとつない綺麗な肌に、栗色の短めのパーマだった。可愛らしく唇を尖らせて、瀬尾君を上目遣いで見つめている。
「あれー?この人達は?」
「…俺の元上司と、別の部署の友達だ。…幸尚さん、こいつは今年入社した小鳥遊翼(たかなし・つばさ)です。」
「初めまして、瀬尾先輩にご指導していただいている小鳥遊といいます。よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げてにっこりと笑う小鳥遊君は本当に可愛らしい。ほんのりと甘い香りをさせているので、恐らく彼はΩなのだろう。三目君と一緒に自己紹介をして一緒に頭を下げる。
「うわぁ、三目さんってすっごく綺麗ですね!僕、いっつも子供扱いされちゃうから大人な人ってすっごく憧れなんですよ。」
「そんなことないよ。」
三目君がにっこりと笑う。自分の方は眼中になしとでも言うふうに無視されているのでなんだか清々しい。思わずクスリと笑ってしまうと、ごうを煮やした瀬尾君が「いい加減に行くぞ!」と行って会社へと戻っていった。
「あぁ、待ってください。じゃあ失礼しますね。」
「っ。」
小鳥遊君が通り過ぎると同時に自分の顔を見てクスッと笑った。三目君にも瀬尾君にも見えない角度だったので自分にしか見えていない。
「何、あいつ。」
三目君が苛立たしげに呟くのを聞きながら、瀬尾君の後ろ姿をボーッと見つめていたのだった。
まだこちらが何も言っていないのに、三目君が矢継ぎ早に話しかけてくる。定時に鳴る館内放送と同時にノートパソコンを勢い良く閉じた三目君はニコニコ笑顔だ。2人とのことを
真剣に考えると決意してから半年。季節は春を迎えていた。今のところは目立った問題もなく、3人の不思議な関係は続いている。半年も経ってまだ結論が出ていないのかと怒られそうだが、3人で一緒にいるのが楽しすぎてまだどちらかを決められず、ダラダラと日々が過ぎてしまっている状態だ。
「俺はまだ来ていいなんて言ってないんだけど?」
「そんなこと聞かなくたって分かりますよ。僕に来て欲しいって幸尚さんの目が言ってきてるんですよ。」
「たいした自信だよ、ほんとに。」
ため息をつきながらパソコンをシャットダウンして帰り支度を始める。でも三目君が言っていることはあながち間違いではない。半年前から週末は必ず3人で過ごすようになっているのだ。それは自分の家であったり、瀬尾君の家であったり、三目君の家であったりとまちまちだ。
「ほらほら、早く行きましょう。」
三目君に背を押されながら部屋を出る。いつもなら、部屋の外で瀬尾君が待っているはずだ。「お疲れ様です」と言って微笑みながら。
「あれ?瀬尾がいない。」
しかし、そこに瀬尾君の姿はなかった。三目君も驚いて周りを見渡している。こんなことは半年間、一度もなかった。金曜日の仕事終わりは、どんなことがあっても必ず仕事を定時に終わらせて、ここに来ていたはずなのに。
「まぁ、瀬尾がいないなら僕が幸尚さんを独り占めするだけですけど。さぁさぁ、行きましょう!」
三目君に腕をとられてエレベーターへと乗り込む。恐らく大事な仕事でも入ったのだろう。心に広がりそうになる寂しさをなんとか押し留めながら会社を出た。
「あぁ、待ってください、瀬尾さん!」
「…。」
「あ。」
早足で会社に戻ってきたのは瀬尾君だった。苛立ちを隠そうともせず、眉をひそめている。しかし、自分の姿を見つけるとパァッと顔が明るくなる。まるで飼い主を見つけた犬のようにあるはずのない尻尾がブンブンと振られているのが見えてしまう。
「幸尚さん、すいません。ちょっと仕事でトラブルがあって帰社するのが遅くなってしまいました。俺もすぐに帰るのでおうちで待っててくれますか?今日は美味しい肉料理を作りますから。」
なぜ瀬尾君もうちに来るつもり満々なのかは知らないが、ここでそのツッコミは止めて
おく。
「瀬尾先輩、ちょっと待ってくださいよ。」
そんな
瀬尾君の背中にスーツを来た男性が飛びついて来た。
「おい、触るな。」
「だって瀬尾先輩が歩くの早いんですもん。僕、疲れちゃいました。」
瀬尾君に抱きついてきたのはそれはそれは可愛らしい男性だった。小動物のように可愛らしい身長で、顔もまるで子猫のように愛らしい。長いまつ毛に縁取られた琥珀色の大きな瞳。シミひとつない綺麗な肌に、栗色の短めのパーマだった。可愛らしく唇を尖らせて、瀬尾君を上目遣いで見つめている。
「あれー?この人達は?」
「…俺の元上司と、別の部署の友達だ。…幸尚さん、こいつは今年入社した小鳥遊翼(たかなし・つばさ)です。」
「初めまして、瀬尾先輩にご指導していただいている小鳥遊といいます。よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げてにっこりと笑う小鳥遊君は本当に可愛らしい。ほんのりと甘い香りをさせているので、恐らく彼はΩなのだろう。三目君と一緒に自己紹介をして一緒に頭を下げる。
「うわぁ、三目さんってすっごく綺麗ですね!僕、いっつも子供扱いされちゃうから大人な人ってすっごく憧れなんですよ。」
「そんなことないよ。」
三目君がにっこりと笑う。自分の方は眼中になしとでも言うふうに無視されているのでなんだか清々しい。思わずクスリと笑ってしまうと、ごうを煮やした瀬尾君が「いい加減に行くぞ!」と行って会社へと戻っていった。
「あぁ、待ってください。じゃあ失礼しますね。」
「っ。」
小鳥遊君が通り過ぎると同時に自分の顔を見てクスッと笑った。三目君にも瀬尾君にも見えない角度だったので自分にしか見えていない。
「何、あいつ。」
三目君が苛立たしげに呟くのを聞きながら、瀬尾君の後ろ姿をボーッと見つめていたのだった。
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