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第二部
第5話
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「うぅ…。」
うめき声を出しながら、会社へと向かう。結局金曜日から日曜の昼まで瀬尾君と三目君と一緒に過ごしてしまった。
ことあるごとに家に帰るようには伝えているのだが、やれ「体調が悪い」だの、やれ「美味しいお菓子を作ったから食べよう」だの言われてズルズルと居座られてしまう。
「駄目だよなぁ。大人としてもっと毅然とした態度を…。」
まだ2人のどちらを選ぶか返事ができていない状態だ。こんな宙ぶらりんの関係は絶対に良くないと自分でも思う。
けれど今すぐどちらかに決められるかといえばそれも難しい。自分の優柔不断っぷりに嫌気がさす。
「はぁー…っうおっ!」
立ち止まって大きなため息をついていると、突然後ろから誰かがぶつかってくる。
「あ!ご、ごめんなさい!」
「いや、こちらこそ急に立ち止まってしまって…って君は。」
「あなたあの時の。」
ぶつかって来たのは、瀬尾君が面倒を見ているという小鳥遊君だった。小鳥遊君は最初、自分の背中に縋り付くようにしてうるうると瞳を潤ませていたが、ぶつかったのが自分だと分かると、一瞬で表情がつまらなそうなそれに変わった。
「なーんだ、あなただったんですね。可愛い顔して損した!おはようございます。」
「え、あ、おはよう。」
失礼なことを言う割には、しっかりと挨拶をするところがなんとも言えず、曖昧な笑みを浮かべてしまった。
「せっかく時間をかけてセットした髪型が崩れちゃったじゃないですか!もぅ、本当におじさんって困る!どうしてくれるんですか!」
「あー、えっとごめんね?」
「謝ってすむなら警察いらないって知ってます?」
小鳥遊君が皮肉げに鼻を鳴らす。
「今日はせっかく瀬尾先輩と一緒に遠出の営業なのに!気合い入れて来たのに!」
「…じゃあなおしてあげるから。」
ピーピーと幼稚園児のようにわめかれてどうしよつもなくなり、提案してみた。断られるかと思ったが「しっかり整えないと許しませんからね!」と了承されてしまってのだった。
「へー、こんな部署あるんですね。知らなかった。」
「ほら、ここに座って。急がないと就業時間になっちゃうよ。」
キョロキョロとデータベース部の部屋を興味深そうに探索している小鳥遊君をひっぱって、無理やり自分の椅子に座らせた。デスクの中に入れっぱなしにしている置き型の鏡と櫛と整髪剤をとりだして、崩れてしまった小鳥遊君の髪を少しずつ整えていく。
「…なんでこんなものが机の中に入ってるんですか?」
大人しくなった小鳥遊君が尋ねてきた。そのふわふわの髪を堪能しながら返事をする。
「実は僕、昔は営業にいてね。その時は今より見た目にもこだわっていたから、大事な営業先に行く時なんかは気合いいれて髪の毛整えてたんだよ。だから君が営業に行くのに髪を整えてるって聞いてなんだか懐かしくなっちゃって。」
「僕は瀬尾先輩に会うから綺麗にしたかったんです。営業先のことなんてどつでもいいんですよ僕は。」
「そうなの?」
小鳥遊君が椅子に座りながらふんぞり返っている。
「あなたが瀬尾先輩とどう言う関係か知りませんけど、先輩は僕と付き合うことになってるので邪魔しないでくださいね!」
「え?そうなの?」
「そうなんです!」
週末に瀬尾君と会った時にはそんなことは一言も言っていなかった。おそらく彼の妄想か何かだろうと軽く考えていた。しかし、次に続いた言葉で何も言うことができなくなる。
「あなたってβですよね?瀬尾先輩はαなんです。αはΩと番うのが一番幸せなんですよ。βなんかと結婚したら、Ωのフェロモンにあてられないように、一生強い抑制剤を飲まないといけなくなる。それがれどれだけ体に負担になるか。Ωの僕なら瀬尾先輩を幸せにできるんです。…この前、瀬尾先輩と随分親しげにしてましたけど、あんまり関わらないでください。あと、あの美人のΩの人にも絶対渡さないって伝えておいてください!」
小鳥遊君は鏡を見て「よし、可愛い僕に戻った!」と叫ぶと勢いよく立ち上がる。机の上に置いていたカバンを引っ掴んで、早足で部屋の出口に向かっていく。
「…あなたの瀬尾先輩を見る目が僕と同じなんですよ。βは引っ込んでてください。αとΩの恋愛にβは入れっこないんですから。」
「あ…。」
何も言えないでいると、小鳥遊君が部屋から出ていく。そしてすぐもう一度顔だけ出すと「髪、ありがとうございました!」とヤケクソ気味に言って本当に去っていった。
「…なんであの男がデータベース部から出てくるんですか、幸尚さん!」
小鳥遊くんが去った後、すぐに三目君が入れ替わるように部屋に勢いよく入ってきた。
「いやぁ、なんでだろうねぇ。」
小鳥遊君から言われた言葉が頭の中をぐるぐると周り、三目君にまともな返事ができなかった。
うめき声を出しながら、会社へと向かう。結局金曜日から日曜の昼まで瀬尾君と三目君と一緒に過ごしてしまった。
ことあるごとに家に帰るようには伝えているのだが、やれ「体調が悪い」だの、やれ「美味しいお菓子を作ったから食べよう」だの言われてズルズルと居座られてしまう。
「駄目だよなぁ。大人としてもっと毅然とした態度を…。」
まだ2人のどちらを選ぶか返事ができていない状態だ。こんな宙ぶらりんの関係は絶対に良くないと自分でも思う。
けれど今すぐどちらかに決められるかといえばそれも難しい。自分の優柔不断っぷりに嫌気がさす。
「はぁー…っうおっ!」
立ち止まって大きなため息をついていると、突然後ろから誰かがぶつかってくる。
「あ!ご、ごめんなさい!」
「いや、こちらこそ急に立ち止まってしまって…って君は。」
「あなたあの時の。」
ぶつかって来たのは、瀬尾君が面倒を見ているという小鳥遊君だった。小鳥遊君は最初、自分の背中に縋り付くようにしてうるうると瞳を潤ませていたが、ぶつかったのが自分だと分かると、一瞬で表情がつまらなそうなそれに変わった。
「なーんだ、あなただったんですね。可愛い顔して損した!おはようございます。」
「え、あ、おはよう。」
失礼なことを言う割には、しっかりと挨拶をするところがなんとも言えず、曖昧な笑みを浮かべてしまった。
「せっかく時間をかけてセットした髪型が崩れちゃったじゃないですか!もぅ、本当におじさんって困る!どうしてくれるんですか!」
「あー、えっとごめんね?」
「謝ってすむなら警察いらないって知ってます?」
小鳥遊君が皮肉げに鼻を鳴らす。
「今日はせっかく瀬尾先輩と一緒に遠出の営業なのに!気合い入れて来たのに!」
「…じゃあなおしてあげるから。」
ピーピーと幼稚園児のようにわめかれてどうしよつもなくなり、提案してみた。断られるかと思ったが「しっかり整えないと許しませんからね!」と了承されてしまってのだった。
「へー、こんな部署あるんですね。知らなかった。」
「ほら、ここに座って。急がないと就業時間になっちゃうよ。」
キョロキョロとデータベース部の部屋を興味深そうに探索している小鳥遊君をひっぱって、無理やり自分の椅子に座らせた。デスクの中に入れっぱなしにしている置き型の鏡と櫛と整髪剤をとりだして、崩れてしまった小鳥遊君の髪を少しずつ整えていく。
「…なんでこんなものが机の中に入ってるんですか?」
大人しくなった小鳥遊君が尋ねてきた。そのふわふわの髪を堪能しながら返事をする。
「実は僕、昔は営業にいてね。その時は今より見た目にもこだわっていたから、大事な営業先に行く時なんかは気合いいれて髪の毛整えてたんだよ。だから君が営業に行くのに髪を整えてるって聞いてなんだか懐かしくなっちゃって。」
「僕は瀬尾先輩に会うから綺麗にしたかったんです。営業先のことなんてどつでもいいんですよ僕は。」
「そうなの?」
小鳥遊君が椅子に座りながらふんぞり返っている。
「あなたが瀬尾先輩とどう言う関係か知りませんけど、先輩は僕と付き合うことになってるので邪魔しないでくださいね!」
「え?そうなの?」
「そうなんです!」
週末に瀬尾君と会った時にはそんなことは一言も言っていなかった。おそらく彼の妄想か何かだろうと軽く考えていた。しかし、次に続いた言葉で何も言うことができなくなる。
「あなたってβですよね?瀬尾先輩はαなんです。αはΩと番うのが一番幸せなんですよ。βなんかと結婚したら、Ωのフェロモンにあてられないように、一生強い抑制剤を飲まないといけなくなる。それがれどれだけ体に負担になるか。Ωの僕なら瀬尾先輩を幸せにできるんです。…この前、瀬尾先輩と随分親しげにしてましたけど、あんまり関わらないでください。あと、あの美人のΩの人にも絶対渡さないって伝えておいてください!」
小鳥遊君は鏡を見て「よし、可愛い僕に戻った!」と叫ぶと勢いよく立ち上がる。机の上に置いていたカバンを引っ掴んで、早足で部屋の出口に向かっていく。
「…あなたの瀬尾先輩を見る目が僕と同じなんですよ。βは引っ込んでてください。αとΩの恋愛にβは入れっこないんですから。」
「あ…。」
何も言えないでいると、小鳥遊君が部屋から出ていく。そしてすぐもう一度顔だけ出すと「髪、ありがとうございました!」とヤケクソ気味に言って本当に去っていった。
「…なんであの男がデータベース部から出てくるんですか、幸尚さん!」
小鳥遊くんが去った後、すぐに三目君が入れ替わるように部屋に勢いよく入ってきた。
「いやぁ、なんでだろうねぇ。」
小鳥遊君から言われた言葉が頭の中をぐるぐると周り、三目君にまともな返事ができなかった。
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