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第二部
第12話
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「いやー、久しぶりだなぁこの会社にくるのも!」
タクシーを降りて高いビルを見上げる。営業マンとして成績トップを維持していた日々。ここは何度も何度も通った場所だ。
「さーて行くぞ、小鳥遊君。」
「何で僕があんたとおんなじタクシーに乗らないといけないんだよ!僕は瀬尾先輩と!」
「はいはい、瀬尾先輩、瀬尾先輩ね。行くよー。」
「人の話を聞けよ!」
ぎゃんぎゃんと喚き散らす小鳥遊君を引っ張ってビルの前に向かう。後ろから四宮部長と瀬尾君もついてきている。そしてビルの入り口に着いた時、未だ喚き続けている小鳥遊君をくるりと振り返った。
「小鳥遊君。俺は前の君の方が好きだったよ。」
「っ!!!」
その言葉を聞くと同時に、ピタリと小鳥遊くんの暴言がおさまった。
「小鳥遊?どうしたんだ?」
「…いっ、いえ。」
四宮部長の声掛けにも気まずそうにしており、小さく返事をして俯いてしまった。
「よし、じゃあ行こうか。」
そんな小鳥遊君の手を引いて受付へと向かっていった。
「…遅い。」
「…そうだな。」
自分の言葉に四宮部長が返事をする。アポイントの予定は午後4時のはずのに、すでに時計は5時を回っている。それなのに最初、女性社員がお茶を出しに来ただけで、すでに1時間以上待ちぼうけをくらっているのだ。
「瀬尾君が苦戦してした理由はこれかな?」
「…はい。情けないことにまだ担当者にも会えていない始末で。アポイントをとっても時間通りに来てくれなくて。本当ならそんな営業先切ってしまいたいんですが、我が社でも大口の取引案件なのでそうもいかず。」
「そうだよねえ。」
自分が担当していた時は、うちの取引相手としてはトップの売上を誇っていたはずだ。そんな取引相手をばさりと切るのは正直難しいところだ。瀬尾君の苦労が偲ばれる。そんなことを考えているうちに、やっと扉が開いて、背の高い軽薄そうな男が入ってきた。
「いやー、お待たせして大変申し訳ない。我が社は取引相手が多いもので、順番に対応してもなかなか時間通りにいかないものなんですよ。」
「はぁ。」
(なんだこいつ。)
自分が担当だった時は、こんな男と会ったことはない。少しふくよかで柔和な性格だが、仕事には厳しく敏腕な男性、山本さんが相手だったはず。それがどうしてこんなニヤニヤと笑って足を広げてソファに座る印象の悪い男に変わっているのか。
「あの、山本さんは?」
質問してみると、男は「あいつなら無能なので別の部署にいきましたよ」と鼻で笑った。
「彼が無能…ですか?」
「えぇ。いつもヘラヘラしてて、小さな取引相手にも直に会って話をして。本当に無駄なんですよ。うちの会社に必要なのは小さいどうでもいい取引ではなくて、もっと大きくて派手な取引なのでね。おたくもそんな取引相手になってくれると助かるんですが。」
「…それは商品の取引単価額を上げてくださると言うことでよろしいですか?」
瀬尾君が言うと「まさか!」と言って男はヘラヘラと笑う。
「分かりませんか?うちはもうあなたたちの会社と取引しなくてもやっていけるんですよ。分かりますよね?つまりあなたたちとの取引を終わらせても何の問題もないんですよ。」
「…何がおっしゃりたいんですか?」
瀬尾君が何かを我慢するような顔つきで男に尋ねる。男はニタリと笑って言った。
「勘が悪いですねぇ。取引を続けてやるからそちらの商品の単価を下げろって言ってるですよ。」
「随分な口ぶりですな。」
我慢できなくなったのか、四宮部長が口を挟むが、男は意に解さない。
「いやはや。うちの会社の急成長ぶりをご存知でしょう?社長が代替わりしてから右肩上がりなんですよ。無能な社員を切って有能な社員を評価してくれる。素晴らしい会社ですよ。」
ケラケラと笑う男の声に虫唾が走る。
前は本当に素晴らしい会社だったのだ。会社の規模としてはうちと同じぐらい。お互いに切磋琢磨しながら取引を続けてきた。お互いにいい担当者に恵まれたと笑い合って飲みに行ったことも何度もある。
(それをこんな男に!)
舌打ちしそうになる気持ちを何とか押し留めていると、男は自分たちの後ろに控えている小鳥遊君に視線を向けた。
「おや?そこにいるのはΩじゃありませんか?」
「…Ωなんて言い方は失礼じゃないですか。」
注意すると「いやー、失礼失礼。」と大して悪いと思っていないような謝罪が返ってくる。
「いや、私はαでしてね。Ωを見るとどうしても興奮してしまうんですよ。だから私の部署は全員αにしているんです。だって、Ωがいると大変でしょ?色々と。」
「どういう意味ですか?」
ニヤニヤと笑う男の真意がわからず問い返すが「いやぁ」と言って返事を濁されてしまった。
「そんなことより、これから一杯どうですか?仕事の話も酒を入れた方がスムーズに進むかもしれませんよ?」
あちらからの提案に四宮部長の方をチラリと確認すると、嫌そうながらもこくりと頷く。
「…ぜひご一緒させてください。」
「いやぁ、楽しみですねぇ。」
男は視線をずっと小鳥遊君の方へ向けている。チラッと小鳥遊君を確認してみる。
「…小鳥遊君?」
「…っ何ですか?」
「いや、なんでもないよ。」
小鳥遊君の体が震えていたように感じたが気のせいだったようだ。先程のように鋭い視線を向けてくる小鳥遊君を見て、ペラペラと喋りまくる男へと視線を戻した。
タクシーを降りて高いビルを見上げる。営業マンとして成績トップを維持していた日々。ここは何度も何度も通った場所だ。
「さーて行くぞ、小鳥遊君。」
「何で僕があんたとおんなじタクシーに乗らないといけないんだよ!僕は瀬尾先輩と!」
「はいはい、瀬尾先輩、瀬尾先輩ね。行くよー。」
「人の話を聞けよ!」
ぎゃんぎゃんと喚き散らす小鳥遊君を引っ張ってビルの前に向かう。後ろから四宮部長と瀬尾君もついてきている。そしてビルの入り口に着いた時、未だ喚き続けている小鳥遊君をくるりと振り返った。
「小鳥遊君。俺は前の君の方が好きだったよ。」
「っ!!!」
その言葉を聞くと同時に、ピタリと小鳥遊くんの暴言がおさまった。
「小鳥遊?どうしたんだ?」
「…いっ、いえ。」
四宮部長の声掛けにも気まずそうにしており、小さく返事をして俯いてしまった。
「よし、じゃあ行こうか。」
そんな小鳥遊君の手を引いて受付へと向かっていった。
「…遅い。」
「…そうだな。」
自分の言葉に四宮部長が返事をする。アポイントの予定は午後4時のはずのに、すでに時計は5時を回っている。それなのに最初、女性社員がお茶を出しに来ただけで、すでに1時間以上待ちぼうけをくらっているのだ。
「瀬尾君が苦戦してした理由はこれかな?」
「…はい。情けないことにまだ担当者にも会えていない始末で。アポイントをとっても時間通りに来てくれなくて。本当ならそんな営業先切ってしまいたいんですが、我が社でも大口の取引案件なのでそうもいかず。」
「そうだよねえ。」
自分が担当していた時は、うちの取引相手としてはトップの売上を誇っていたはずだ。そんな取引相手をばさりと切るのは正直難しいところだ。瀬尾君の苦労が偲ばれる。そんなことを考えているうちに、やっと扉が開いて、背の高い軽薄そうな男が入ってきた。
「いやー、お待たせして大変申し訳ない。我が社は取引相手が多いもので、順番に対応してもなかなか時間通りにいかないものなんですよ。」
「はぁ。」
(なんだこいつ。)
自分が担当だった時は、こんな男と会ったことはない。少しふくよかで柔和な性格だが、仕事には厳しく敏腕な男性、山本さんが相手だったはず。それがどうしてこんなニヤニヤと笑って足を広げてソファに座る印象の悪い男に変わっているのか。
「あの、山本さんは?」
質問してみると、男は「あいつなら無能なので別の部署にいきましたよ」と鼻で笑った。
「彼が無能…ですか?」
「えぇ。いつもヘラヘラしてて、小さな取引相手にも直に会って話をして。本当に無駄なんですよ。うちの会社に必要なのは小さいどうでもいい取引ではなくて、もっと大きくて派手な取引なのでね。おたくもそんな取引相手になってくれると助かるんですが。」
「…それは商品の取引単価額を上げてくださると言うことでよろしいですか?」
瀬尾君が言うと「まさか!」と言って男はヘラヘラと笑う。
「分かりませんか?うちはもうあなたたちの会社と取引しなくてもやっていけるんですよ。分かりますよね?つまりあなたたちとの取引を終わらせても何の問題もないんですよ。」
「…何がおっしゃりたいんですか?」
瀬尾君が何かを我慢するような顔つきで男に尋ねる。男はニタリと笑って言った。
「勘が悪いですねぇ。取引を続けてやるからそちらの商品の単価を下げろって言ってるですよ。」
「随分な口ぶりですな。」
我慢できなくなったのか、四宮部長が口を挟むが、男は意に解さない。
「いやはや。うちの会社の急成長ぶりをご存知でしょう?社長が代替わりしてから右肩上がりなんですよ。無能な社員を切って有能な社員を評価してくれる。素晴らしい会社ですよ。」
ケラケラと笑う男の声に虫唾が走る。
前は本当に素晴らしい会社だったのだ。会社の規模としてはうちと同じぐらい。お互いに切磋琢磨しながら取引を続けてきた。お互いにいい担当者に恵まれたと笑い合って飲みに行ったことも何度もある。
(それをこんな男に!)
舌打ちしそうになる気持ちを何とか押し留めていると、男は自分たちの後ろに控えている小鳥遊君に視線を向けた。
「おや?そこにいるのはΩじゃありませんか?」
「…Ωなんて言い方は失礼じゃないですか。」
注意すると「いやー、失礼失礼。」と大して悪いと思っていないような謝罪が返ってくる。
「いや、私はαでしてね。Ωを見るとどうしても興奮してしまうんですよ。だから私の部署は全員αにしているんです。だって、Ωがいると大変でしょ?色々と。」
「どういう意味ですか?」
ニヤニヤと笑う男の真意がわからず問い返すが「いやぁ」と言って返事を濁されてしまった。
「そんなことより、これから一杯どうですか?仕事の話も酒を入れた方がスムーズに進むかもしれませんよ?」
あちらからの提案に四宮部長の方をチラリと確認すると、嫌そうながらもこくりと頷く。
「…ぜひご一緒させてください。」
「いやぁ、楽しみですねぇ。」
男は視線をずっと小鳥遊君の方へ向けている。チラッと小鳥遊君を確認してみる。
「…小鳥遊君?」
「…っ何ですか?」
「いや、なんでもないよ。」
小鳥遊君の体が震えていたように感じたが気のせいだったようだ。先程のように鋭い視線を向けてくる小鳥遊君を見て、ペラペラと喋りまくる男へと視線を戻した。
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