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第二部
第13話
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「この店は私のお気に入りの店でしてねぇ!さぁ、座ってください!あ、Ωの君はここだ。」
「っ!」
取引相手の担当者の男は、最初高級そうな料亭を指定しこちらに奢らせた後、照明の暗いいかがわしい雰囲気のバーに案内してきた。
気持ち悪さを感じたものの、この取引相手を無くしてしまうのは会社としてもあまり良くないのだろう。四宮部長も怒りを耐えながら男の話に付き合っている。部長が耐えるならと自分もと男の話を聞いてやっているが、だんだんとその話題は腹立たしいものへと変わってきた。
「いやぁ、私の部署はαだけと言いましたけどねぇ。本当はΩも入れたいんですよ!だってΩがいるだけで華やぐでしょ?Ωってのはそういう生き物で、そのために生きてるようなもんですからね!ほら、君もそう思うだろ?」
「っ!は、はい!そうですよねぇ!Ωはαのためにいるようなもんですからぁ!」
話を振られた小鳥遊君は一瞬、苦しそうな表情を見せたが、それはすぐに媚びへつらうようなものに変わった。小鳥遊君の愛らしさに鼻の下を伸ばした男は、隣に座る小鳥遊君を自分の方へ引き寄せる。
「え?ちょ、ちょっと!」
流石に小鳥遊君が距離を取ろうとするが男はニヤニヤと笑いながら力ずくで抱き寄せた。
「分かってるじゃないか。Ωはαに奉仕すべきなんだよ。奉仕っていうのも色々あるが、私は気持ちいいことが好きでねぇ。はは!分かるだろ?」
「っぅ!」
「これは!」
四宮部長が不快げに鼻を抑える。突然男からむせかえるような薔薇の匂いが溢れ出す。
「っ!こんなところでフェロモンを出すなんて何を考えてるんですか!」
四宮部長の隣に座っていた瀬尾君が勢いよく立ち上がり男を睨みつける。しかし、男はニヤリと笑って小鳥遊君をさらに抱き寄せた。
「あのねぇ、子供じゃないんだからか分かるでしょ?αとΩはこうなる生き物なんだよ。Ωはね、αに気持ちよくしてもらうのが嬉しい生き物なんだから馬鹿みたいに仕事なんかしないで、αのために一生ご奉仕しとけばいいんだよ。…この子可愛いから気に入ったんだ。一晩貸してくれたら、君たちの言い値で取引しよう。文句はないだろ?」
「ふざけるな!!!!」
瀬尾君が怒鳴りつける。しかし男は小鳥遊君の赤くなった頬に自分のそれを寄せており、話を聞いていない。
「さぁどうする?君が会社の命運を握ってるんだ。私と気持ちいいことをするだけで、営業トップになれるんだぞ?」
「あ…あ…っ!」
フェロモンにあてられてヒートを起こしているのか、小鳥遊君は酩酊したように体に力が入っていない。そして、その体から蜂蜜のように甘い香りが溢れ出す。
「ぐぅ!」
「小鳥遊!」
αである瀬尾君と四宮部長が膝を折る。男も興奮したように小鳥遊君の体を撫で回している。
「あぁ!若い体は素晴らしいな!さぁ、ホテルに行こう!朝まで可愛がってやる!」
「っ!待て!!!」
ここであの男を止められるのは自分しかいない。瀬尾君によってΩ化させられそうになっていた体はまだΩのフェロモンに耐性があるようで、欲に体を支配されずに自由に動くことができる。小柄な小鳥遊くんの体を抱えようとしている男を止めようとした時。
「やめろ…いいんだ。僕は、僕はこれでいいんだ。」
「小鳥遊君…?」
ボロボロと涙を流した小鳥遊君が弱々しく声を上げた。
「いいって…!一体何を言ってるんだ!」
今度は自分が声を上げる番だった。
「連れて行かれたらどんなことされるか分かってるのか!」
「わかって…ます。…いいんです、これが、ぼくの、営業、スタイルだから。」
「はは!素晴らしいスタイルだ!ぜひとも懇意にしたいものだ!君はβだろう!関係ないやつは下がってくれ。」
ドンと男に体を押される。ソファに尻餅をつくと、小鳥遊君を連れて行こうとする男の背中が見える。
「っ!やめろ!!!」
「おうおう、Ωのフェロモンに当てられてるな?なんなら一緒に楽しむか?」
「ふざけるな!!」
「瀬尾、やめろ!そんな男を殴ってお前がクビにでもなったらどうする!」
今にも男に殴りかかりそうな瀬尾君を四宮さんが止める。
「クビになるなら俺がなるさ!」
そして四宮さんが男にタックルを喰らわせるつもりなのか、姿勢を低くする。ダメだ。四宮さんは営業部に必要な人材だ。
なら、あとは1人しかいない。
「四宮部長!俺は、会社辞めるので!」
「は?お、おい、山口!」
「瀬尾君、小鳥遊君を頼んだ!こんのクソ変態無能野郎がぁ!!!!」
「ひぎぃ!」
ずっと溜まっていた怒りを右足に込めて、男の腰に叩き込んでやったのだった。
「っ!」
取引相手の担当者の男は、最初高級そうな料亭を指定しこちらに奢らせた後、照明の暗いいかがわしい雰囲気のバーに案内してきた。
気持ち悪さを感じたものの、この取引相手を無くしてしまうのは会社としてもあまり良くないのだろう。四宮部長も怒りを耐えながら男の話に付き合っている。部長が耐えるならと自分もと男の話を聞いてやっているが、だんだんとその話題は腹立たしいものへと変わってきた。
「いやぁ、私の部署はαだけと言いましたけどねぇ。本当はΩも入れたいんですよ!だってΩがいるだけで華やぐでしょ?Ωってのはそういう生き物で、そのために生きてるようなもんですからね!ほら、君もそう思うだろ?」
「っ!は、はい!そうですよねぇ!Ωはαのためにいるようなもんですからぁ!」
話を振られた小鳥遊君は一瞬、苦しそうな表情を見せたが、それはすぐに媚びへつらうようなものに変わった。小鳥遊君の愛らしさに鼻の下を伸ばした男は、隣に座る小鳥遊君を自分の方へ引き寄せる。
「え?ちょ、ちょっと!」
流石に小鳥遊君が距離を取ろうとするが男はニヤニヤと笑いながら力ずくで抱き寄せた。
「分かってるじゃないか。Ωはαに奉仕すべきなんだよ。奉仕っていうのも色々あるが、私は気持ちいいことが好きでねぇ。はは!分かるだろ?」
「っぅ!」
「これは!」
四宮部長が不快げに鼻を抑える。突然男からむせかえるような薔薇の匂いが溢れ出す。
「っ!こんなところでフェロモンを出すなんて何を考えてるんですか!」
四宮部長の隣に座っていた瀬尾君が勢いよく立ち上がり男を睨みつける。しかし、男はニヤリと笑って小鳥遊君をさらに抱き寄せた。
「あのねぇ、子供じゃないんだからか分かるでしょ?αとΩはこうなる生き物なんだよ。Ωはね、αに気持ちよくしてもらうのが嬉しい生き物なんだから馬鹿みたいに仕事なんかしないで、αのために一生ご奉仕しとけばいいんだよ。…この子可愛いから気に入ったんだ。一晩貸してくれたら、君たちの言い値で取引しよう。文句はないだろ?」
「ふざけるな!!!!」
瀬尾君が怒鳴りつける。しかし男は小鳥遊君の赤くなった頬に自分のそれを寄せており、話を聞いていない。
「さぁどうする?君が会社の命運を握ってるんだ。私と気持ちいいことをするだけで、営業トップになれるんだぞ?」
「あ…あ…っ!」
フェロモンにあてられてヒートを起こしているのか、小鳥遊君は酩酊したように体に力が入っていない。そして、その体から蜂蜜のように甘い香りが溢れ出す。
「ぐぅ!」
「小鳥遊!」
αである瀬尾君と四宮部長が膝を折る。男も興奮したように小鳥遊君の体を撫で回している。
「あぁ!若い体は素晴らしいな!さぁ、ホテルに行こう!朝まで可愛がってやる!」
「っ!待て!!!」
ここであの男を止められるのは自分しかいない。瀬尾君によってΩ化させられそうになっていた体はまだΩのフェロモンに耐性があるようで、欲に体を支配されずに自由に動くことができる。小柄な小鳥遊くんの体を抱えようとしている男を止めようとした時。
「やめろ…いいんだ。僕は、僕はこれでいいんだ。」
「小鳥遊君…?」
ボロボロと涙を流した小鳥遊君が弱々しく声を上げた。
「いいって…!一体何を言ってるんだ!」
今度は自分が声を上げる番だった。
「連れて行かれたらどんなことされるか分かってるのか!」
「わかって…ます。…いいんです、これが、ぼくの、営業、スタイルだから。」
「はは!素晴らしいスタイルだ!ぜひとも懇意にしたいものだ!君はβだろう!関係ないやつは下がってくれ。」
ドンと男に体を押される。ソファに尻餅をつくと、小鳥遊君を連れて行こうとする男の背中が見える。
「っ!やめろ!!!」
「おうおう、Ωのフェロモンに当てられてるな?なんなら一緒に楽しむか?」
「ふざけるな!!」
「瀬尾、やめろ!そんな男を殴ってお前がクビにでもなったらどうする!」
今にも男に殴りかかりそうな瀬尾君を四宮さんが止める。
「クビになるなら俺がなるさ!」
そして四宮さんが男にタックルを喰らわせるつもりなのか、姿勢を低くする。ダメだ。四宮さんは営業部に必要な人材だ。
なら、あとは1人しかいない。
「四宮部長!俺は、会社辞めるので!」
「は?お、おい、山口!」
「瀬尾君、小鳥遊君を頼んだ!こんのクソ変態無能野郎がぁ!!!!」
「ひぎぃ!」
ずっと溜まっていた怒りを右足に込めて、男の腰に叩き込んでやったのだった。
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